森高一真のボートに、モーターがまだ乗っていなかった。
何もしていないのか? おっと、魚谷智之のボートも同様だ。
始動はまだ先、ということだろうか。
ふと気づく。魚谷のほうは、モーター自体は
すでに装着されているではないか。
何も乗っていないように見えたのは、
いわゆる本体部分が外されているからである。
キャリーボディーより下は、しっかりボートに着けられている。
整備室を覗くと、案の定、魚谷が本体を割っていた。
何しろ忙しそうなので(エンジン吊りの際も、作業に加わっては
走って整備室に戻ってしまう)話を聞くことはかなわなかったが、
大掛かりな整備をしているのは間違いない
(部品交換については、直前情報をご参照ください)。
地元SGの優勝戦、枠は6。
一発狙いの大整備をする条件はたしかに揃っている。
果たして、気配一変はあるだろうか。
その魚谷は、まだケブラーズボンとシューズを着用していなかった。
Tシャツ、ジャージにスニーカーというスタイル。
ふと気になって優出メンバーを追う。
ペラ調整室に向かった井口佳典と服部幸男はすでに着用している。朝特訓ですでに乗っているか、
まもなく着水して試運転などを始めようとしているか、どちらかだろう。魚谷、今村豊、石野貴之はまだ着用していない。
朝も乗っていないのか、乗ったあとに着替えて試運転はまだ先と
考えているかのどちらかだ。
今日はこのあと天候が変わるという説もあるだけに、
様子を見ている可能性はある。
石野は、1Rが終わった後にボートの操縦席に置いていた
ペラを手にとって、調整室へと向かっている。
「明日はのんびり過ごしたい」と昨日のレース後に語っていたが、点検、微調整くらいはもちろん必要。
石野はわりと早い段階でそれを始めて、あとは本当にのんびりするつもりかもしれない。表情は変わらず力強かった。
服部は整備室奥のペラ調整所。
1Rの笠原亮のエンジン吊りに出てきていたが、
なんとも雰囲気のある表情だ。
逃げ切った笠原が「嬉しぃぃぃっ!」と歓喜と安堵の声を漏らすと、
服部は一瞥して唇の端だけで笑った。
その後はふたたびペラ調整に向かったわけだが、
2Rのレースが3周目に差し掛かったあたりでペラを操縦席に置いて、控室へと戻る姿も目撃している。
一休みなのか、試運転の準備なのか。
今村豊は、ギアケース調整。
これまでの今村のSG優勝戦の朝には必ず見かけてきた光景である。最後にしっかりと点検して、大一番へ。
表情はいつもとまったく変わらず、エンジン吊りではやっぱり周囲とじゃれ合って、笑顔を見せているのだった。
それにしても、井口佳典の威風堂々っぷりはすごいっすね。
今日もまったく重圧を感じていない様子で、そのうえ表情は鋭い。
笹川賞でも(グラチャンでも)目にした井口佳典が、今日もここにいる。SG優勝戦1号艇でも緊張などしない男は、
もはや巨大な存在と言うしかない。
ペラ調整室に向かう姿を見たが、これはおそらく微調整。
まあ、微調整でさえも、徹底してこだわる人ではある。
あくまでピットでの第一感ではあるが、
死角がほとんど見当たりません。
で、森高一真を発見したのは、2R前。
いつの間にか整備室にいて、ペラを点検しているようだった。
終わると、ペラカバーに収めて整備室を離れる。
モーターを装着もしていないのだから、
もちろんケブラー等は着用していない。
声をかけると、「ま、いつも通りにやるわ」。
特別なことをするのではなく、普段通りの自分で
勝負を挑もうと決めているようだ。
ただ、これもあくまでも僕の感覚なのだが、ちょっと緊張してる?
と思った。いつもの雰囲気とやや違うものを感じたのだが、果たして。
(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)