ピットに足を踏み入れた瞬間、井口佳典のボートが目に入った。まだモーターが装着しない、裸のままのボート。本体整備という可能性もあるので、整備室を覗いてみたが、井口の姿はない。すると控室からジャージ姿で井口があらわれた。まだ作業を始めていないようだ。1R発売中にはモーターをボートに乗せたが、序盤の時間帯の間はそれだけ、だった。ゆったり、余裕で過ごしているのだ。
絶賛発売中のBOATBoy1月号のインタビューで井口は、2ndから出場できる有利さを口にしていた。井口の場合、1stでとことん自分を追い込んでしまうので、2ndでもう一丁気持ちを乗せていくのが大変なのだ、と。システム的にも2nd組有利だが、精神的にも有利だという。井口は「自分の場合は」と断わってそれを話したが、おそらくどの選手にも共通することだろう。井口の様子を見れば、それがたしかに感じられる。もちろん、昨日までの調整でパワーに手応えを得たということもあるだろうが。
白井英治が2R発売中に動いた。昨日は午前中は井口のように余裕の構えだったから、今日の動き出しのほうが早い。何周か試運転をして、ふたたびボートを陸に上げているが、これで調整の方向性を確かめて、午後に向けて準備をしたといったところか。
その白井のグランプリジャンパーの胸元に「獺祭」という刺繍がある。それを指摘すると、「おっ、気づいた?」と目尻を下げた。山口が誇る銘酒を胸に、グランプリを戦う。あぁぁ、呑みたい! と言ったら、白井も「ねえ?」と笑った。グランプリを勝ったら、祝杯は獺祭であげることになるのだろう。いいなあ。
まあ、2nd組は今日もレースがないから、まだマイペースさがうかがえはする。しかし1st組は今日が決戦。井口が言うとおり、とことん自分を追いつめ、妥協なき調整を施していく。整備室には石野貴之。昨日も本体整備を施して臨み、今日もまた本体を割っている。表情にはやはり切羽詰まったものがあり、今日の勝負駆けに懸ける思いが全身から漂っている。
岡崎恭裕はギアケース調整。1号艇で勝って2nd当確を目論んでいたはずが、2着で計算がやや狂った格好の岡崎は、そのギャップを埋めるために朝から動いていたわけだ。もっとも、たとえば石野に比べれば、雰囲気は柔らかい。足に手応えがあればこそ、のたたずまいではある。
初戦2着とまずまずのスタートを切った笠原亮は、しかし足にまだパンチがないともがく。ボートは係留所につけたまま、懸命なペラ調整。試運転、ペラ、試運転、ペラの繰り返しが、午後の遅めの時間帯まで続くはずだ。
初戦減点の赤岩善生も、2ndに行けるかどうかは関係なく、勝負を投げていない。2R発売中には水面に下りて、試運転や調整に励む。どんな舞台でもいつも通りの仕事をする、が信条の赤岩は、ということはつまり、自分の状況がどうであろうといつも通りの仕事をするだけだ。気落ちがないとは思わないが、しかし表情はいつも通り気合満点である。
2nd組では“あの”守田俊介も馬場貴也と並んでペラ調整をしていたし、18人すべての動きがさらに活発化している2日目の朝、ということになろうか。日を追うごとにハッキリと緊張感が高まっていくのを感じられるのが、グランプリというものである。
シリーズ組。石野と別のテーブルで本体整備をしていたのは田村隆信。今日は1号艇、確勝を期しての動きだ。石野に比べるとかなり表情は明るく、こちらに気づくと、目をぱーっと見開いて、おはようございますぅ~。精神的には、陰りのようなものは感じられない。
今年の名人・渡邉英児は急ピッチの調整ということなのか、ピットを駆けまわっていた。若い! そういえば、昨日は同期の市川哲也が同じようにピットを走っていたものだ。ワタシ、市川と同い年ですが、いやあ、若いですなあ、と唸るばかりである。渡邉は4Rに出走ということもあって、急ぎの調整が必要だったのだろう。天命を知るという年になっても若々しく走ることができるからこそ、この舞台に立てるのだなと、同世代として感心してしまう。よし、彼らに負けず、今日も元気よく頑張ろう!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)