『ミスター・ダービー』降誕!!
12R優勝戦
①川北浩貴(京都) 12
②丸岡正典(奈良) 14
③山田哲也(千葉) 16
④山口 剛(広島) 26
⑤鎌田 義(兵庫) 18
⑥濱野谷憲吾(東京)18
エグい差しだった。1マーク直前、
2コース丸岡正典の態勢はさほど楽なものではなかった。
右隣の山田哲也が、早めに仕掛けてきたのだ。
ボートの側面を擦り付けるようなツケマイ。
当然、その引き波は丸岡の船底を直撃する。
今節、この「3コースツケマイ引き波」を喰らって、
何度2コースが大敗を喫したことか。
だが、丸岡の42号機はその引き波をむしろ踏み台にするかのように、
力強く突き進んだ。2連率23%。「ワースト機、引いちゃいました~」と
開会式で涙した?低調機だったが、その哀しい面影はどこにもない。
一気に後続を、3艇身千切り捨てた。
もちろん、川北浩貴のインモンキーが流れたことも、
丸岡圧勝の一因ではある。が、単なるプレッシャーによる
ターンミスとは思えない。川北は山田のツケマイが目に入り、
その面倒を見ると決めて握ったのだと思う。
「たとえ差されても、まくられないターン」を選んだ。
これで丸岡がもう少し引き波で苦しめば……
やはり、丸岡の差しがパワーもテクニックもエグすぎたのだ。
もちろん、SGをすでに獲っている余裕と、2号艇の気楽さも、
その背中を後押ししたことだろう。
「たとえ差されてもターン」で差されたイン選手には、
もう1回だけチャンスが与えられる。
今度は、外から攻められる2マークだ。
丸岡の先マイ。川北は艇を開き、全速でブイ際に艇を突っ込んだ。
相手が少しでも緩めたら、容赦のないダンプになりそうなターンだ。
が、その渾身のラストチャンスは、わずかに丸岡の艇尾をかすめて、
虚しく流れた。この瞬間、丸岡の4年ぶりのダービー制覇が
揺るぎのないものとなった。 2度目のSG優出にして、2V。
どちらも、“SGの華”ダービー。これをもって
『ミスターダービー丸岡正典』と称するのは、
4年間で3Vもいわした今村豊に叱られそうだが、
今村は『ミスター競艇』だからして許していただきたい。
なんたって、ダービーだけ2優出して2Vなのである。
で、本人もそれを自覚してるとみた。
「次の目標は……4年後のダービーですね」
レース後の記者会見、丸岡はこう言って記者たちを爆笑させた。
「オリンピックかいっ!」「いやいや、その前にィ~~!!」
心の中ではなく、記者たちが口々に勝手なツッコミを入れる。
丸岡のほんわか柔和な性格が、会見場をふわふわと満たしていた。 そう、その前に!! この優勝で、一気に賞金ランク4位まで浮上したのだ。師匠の太田和美の背中を追うように、
2コース激差しで地元の賞金王へ。わずか2カ月後に、
せっかく私が授けた『ミスターダービー』を返上し、
別の称号で呼ばれることになるかも?? とにかく、おめでとう丸ちゃん。ほんわかふわふわの天然系の性格だからこそ、
どのコースからでも天真爛漫に攻めるそのレース姿、
私は大好きです!
そして、丸岡とともにW◎に推した山口剛は……
最後の最後でスタートで後手を踏み、6着に敗れ去った。
賞金王ボーダー付近でもなく、優勝にしか意味づけがなかったであろう山口にとって、さぞや悔しい惨敗だったろう。
だから、「よく頑張ったね」とか、「この悔しさを糧に」とか、
そんな上っ面の言葉は書かない。その代わりに、
私は今節の山口剛という男の航跡を、いつまでもしっかり記憶し、
ボートファンに伝えていく。事故パンの身で、
その最後の期末査定のシリーズで、攻めに攻め抜き、
トップSを連発し、コンマ01まで踏み込み、
優勝戦のゴールまで戦い続けた図太い航跡を。
やたらと記憶力の悪い私だが、コレは忘れない自信がある。
今節から、私はツヨポンを“我が息子”にすると心に決めたのだから。
勝っても負けても調子が良くても悪くても、
一生連れ添っていくぞ(もちろん勝手に、ね)。
覚悟しなさい、ワシのツヨポンッ!!!
(photos/シギー中尾、text/H)