BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――特別な……

ピットの空気が変わっていた。

一気に緊張感が高まったような気がした。  

 

 

 

 

 

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10Rが終わった頃、丸岡正典とすれ違った。

昨日は、背後から声をかけてきた。

今朝は、鋭い視線で挨拶を返してきた。

そしてこのとき。丸岡は視線を下に向けたまま、

こちらに一瞥もせずに通り過ぎた。

巨体のハゲに気づいていたかどうかは知らない。

だが、丸岡は明らかに考え込んでいた。

あるいは精神統一をはかっていた。

レースが近づけば誰もが緊張に包まれるのは当然だが、

この24時間ほどのなかでの彼の変遷を思えば、

この舞台の特殊性は否が応でも実感させられる。  

 

いったんそんなふうに思ってしまえば、

馬袋義則の表情も、なんだかカタく見えてしまおうというもの。

馬袋については、今朝も普段とは違った雰囲気と思っていたが、

レース前には闘志と緊張がごちゃ混ぜになったような、

険しい顔を見せていた。その人柄を思えば、

やはりここが特別な舞台だと改めて感じる。 

 

 

 

 

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そうしたなかで、松井繁の笑顔を見てしまうと、

やはりこの人にはかなわないのか、と唸ってしまう。

装着場の真ん中あたりには選手が集う喫煙所があって、

喫煙者でなくともここを休憩所のように使っていたりするので、

選手の姿は多い。展示ピットにボートを移したあとに松井は

この部屋に入っていき、森高一真、湯川浩司らと談笑。

賞金王の戦い方を誰よりも知っている男は、

きっとメンタルのコントロールの仕方も知り尽くしているのだ。

この感想は、決して12Rの結果を見て言っているのではない。

 

 

 

 

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11R、もっとも悔しい負け方をしたのは

峰竜太ではなかったか。ピット離れで飛び出した

今垣光太郎が入ったのは、結局4カド。

 

今垣自身は深くても内に入ることを考えていたらしいが、

「峰くんが少し緩めていたので」無理をせずに

、峰のひとつ内を選んだ。

峰はただ緩めていたわけではないだろう。

今垣が内に潜り込んでいくことを想定し、

内枠の動きも見たうえで、カドを獲れると思い込んだ。

つまりカドを譲ってしまったかたちになって敗れたのだから、

不完全燃焼極まりない結果である。 

 

レース後の峰は、岡崎恭裕や篠崎元志に、

まるで愚痴でもこぼすように語りかけ、

顔をひきつらせながら歪めている。

端正な童顔が激しく崩れる様子は、

この敗戦がどんなものだったかをハッキリと物語っていた。  

 

 

 

 

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白井英治も、敗戦を重くとらえていたようである。

前付けの意思もありながら、結局は6コース。そして4着。

コースを獲れていれば、1マークに展開があれば、

エンジンがもっと仕上がっていれば……

 

数々の悔恨が白井の胸には去来しただろう。

ヘルメットの奥の目は、白井が

大一番で敗戦を喫したときに見せるものと同じ様相。

それは泣き顔にすら見えるほど、

深く眉間にシワを寄せたものだ。

賞金王トライアルが、単なる予選ではないということを、

白井の表情が教えてくれている。

白井はすぐに師匠に駆け寄って、言葉をかけ始めた。

こんなときに頼りになるのは、

この舞台も知り尽くしている師匠。

今村も真剣な表情を浮かべて、白井に言葉をかけていた。  

 

 

 

 

 

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12Rでは、坪井康晴のレース後が気になった。

勝った松井は悠然と歩き、

報道陣が塞いでいる行く手をゆっくりと掻き分けて、

貫録タップリに控室に向かっている。

井口佳典は目に悔しさを称えながら、

やや速足の歩き方で控室へ。

平尾崇典はなんとも淡々とした様子で、

もちろん歩いて控室へ戻る。

丸岡正典と山崎智也は、

お互いに何事か語り合いながら、

ときに笑みさえも浮かべて、

やっぱり歩いて控室へと向かっている。 

ところが、坪井は走ったのだ。

全力疾走とは言わないが、決して小走りではなく、

走ったのである。

 

表情を見る間もないほど、

疾風のように去ってしまったため、

その真意はまったくわからない。

リプレイを見たかった、という可能性もある。

ともあれ、坪井だけが見せた“伸び”はとにかく印象に残った。

ま、特に意味などなかったのなら、すみません。

 

 

 

さて、トライアル初戦が終われば、枠番抽選! 

今年も抽選会場を多数の報道陣が取り囲み、

その中に選手の姿もちらほら。

西村拓也が「3戦しかないんだもんなあ」と

その特別性について嘆息すれば、

今村豊が「俺は5、6ばっかり引いてたんだよ! 

昔、6号艇がインを獲りやすかった時代には

1ばっかり引いて、それが今のように変わったら5、6ばっかり!」と

愚痴なのか自虐なのかを声高に語って、

周囲を笑わせている。

何にせよ、枠番抽選にはみなときめいている。こ

れもまた、賞金王の醍醐味なのである。  

 

 

 

 

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で、ベスト12の表情を見ると、なんだか神妙だ。

和気あいあいとした雰囲気で行なわれてきたという

記憶があるのだが、今日はなぜか空気が凛としている。

見ると、松井繁が気合のこもった表情をしており、

これが方向性を決定づけているのか。 

その松井が抽選1番手で(B組)、

黄色い球を出すと、特に表情を変えずに会場を去っている。

抽選運の悪さは例年通りだが、

そのことに苦笑も落胆も見せず、

だからこそ気迫を感じさせられる。  

 

 

 

 

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続く今垣光太郎が1号艇をゲット! 

白い球が出た瞬間、どよめきが起こった。 

 

 

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一方、A組の一番手は太田和美。

ガラポンを回すと、出たのは緑色。

今垣のときとは違う意味でどよめきがあがり、

立会人の田中信一郎(選手班長)は同期の運のなさに

苦笑しながらうなだれていた。  

 

 

 

 

 

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こちらの1号艇は山崎智也! 

目尻をすっと下げた程度の喜び方だったが、

内心、テンションは上がったであろう。

穏やかな顔で、フラッシュを浴びながら会場を去っていく智也は、

やっぱり気になる存在だぞ。

 

 

 

 

 

 

(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)