シリーズ戦ピット記事で書いた森高一真との長話。
実は、その会話にいったん割り込んできた選手がいる。
松井繁だ。 会話の場所は選手控室前。
松井は展示の準備のため、
外に置いていたヘルメットか何かを取りに出てきたのだ。
そして言った。「ヤ×ザとヤ×ザやん」 ダハハハハ!
すかさず森高が返す。
「ちゃうちゃう。ヤ×ザとチ×ピ×や」
どっちがどっちかは知らんけど、
ま、森高も僕も一見コワモテです(笑)。
それにしても、王者に突っ込まれるとは光栄の極みである。
その松井は、連勝で優出当確となった。
「今日も僕がいちばん出ていたと思う」と本人が言うとおり、
インパクトのある前付け3コースまくりだった。
あのレースを見せつけて、気分が悪かろうはずがない。
レース後には笑顔が多く見られていた。
同時に、強烈な気合も感じさせられる。
12R後の枠番抽選。
A組の一番手でガラポンを回した松井は、
賞金王の風物詩とも言える、
「王者の緑」を引き当ててしまった。
昨年などは苦笑いも見えていたが、
今日は一瞬動きをフリーズさせはしたものの、
ほとんど表情を変えずに会場を去っている。
ガラポンを回す前も神妙な表情を見せており、
連勝したことでさらに、
松井の闘志は乗ってきたと言っていいだろう。
山崎智也も、12Rで勝利をあげたあとに、
笑顔を見せている。「運がいいわ」と呟いたが、
もちろん運だけで勝ったわけではない。
智也は敗戦の悔恨を笑顔で隠す、ということは、
本当にもう、何度も何度も何度も書いた。
むしろ、勝った時ほど笑顔がなく、
淡々としていたりする。しかし今日は笑顔爆発!
やはりこの人の笑った顔には人を惹きつけるものがある。
「久しぶりの賞金王なんで、楽しいです」
本来走っているべき場所から6年も遠ざかった。
その場所に戻り、そこが自分のいるべき場所だったのだと
改めて実感したのだろう。ピットでの雰囲気だけ見れば、
松井vs智也の構図が浮き彫りになってきたように感じる。
この二人を軸に、あと2日間も回っていくのではないだろうか。
11R、金子龍介が装着場にあらわれた。
開会式で「馬袋義則の専属マネージャー」を宣言、
しかし昨日はトライアル時にはすでに宿舎に帰っていたようで、
「今日はおるで!」と山地正樹に向かって吠えていた。
ピットアウト。4号艇の馬袋義則は
松井繁の前付けにより5コースへ。
3号艇の平尾崇典がスローに向けたことで
「よっしゃ、カドや!」(金龍)。
そこから金龍は「いけーっ、バタイ! いけーっ、バターイっ!」と
一人応援団と化したのだった。
馬袋の視界に後輩の姿が入っていたかはわからない。
もし入っていたとするなら、気合がぐっとこもったであろう。
しかし、馬袋は健闘むなしく6着。
金龍は表情を暗くして、肩を落としていた。
もちろん、本人の落胆はより大きい。
ヘルメットを取った馬袋の表情は、
絶望を感じているようなせつないもので、
あえて言うなら、賞金王決定戦の壁に喘いでいるようでもあった。
その後ろからは吉田俊彦も沈鬱な表情で続いており、
馬袋の悲しい表情はより一層鮮明に胸に迫ったのだった。
その馬袋と同じくらい、
もしかしたらそれ以上に落胆の表情を見せたのは、今垣光太郎だ。
松井のまくりを浴びて1号艇を活かせず、
5着に大敗してしまった。
今垣は控室に戻りながら、何度も何度も首をひねり、
がくっと肩を落としていた。
あまりにもストレートな悔恨の表現である。
落胆はこれで終わらなかった。
枠番抽選はA組の5番手。
その時点で残っていたのは白と黄色で、
2分の1の確率で2戦連続の1号艇となる。
祈りながらガラポンを回すと、出たのは黄色。
それを見た瞬間、今垣は天を仰ぎ、眉間にシワを寄せた。
エース機ゲット、初戦2着、2戦目1号艇と
掴んだように見えていた流れは、
突如今垣の脇にそれていき、手を離れていった。
このくっきりとした明暗を経て、
明日の今垣はどんな表情を見せるのか。
どんな雰囲気で過ごすのか。
どんなレースを見せるのか。ある意味、
もっとも注目したい選手である。
枠番抽選は、昨日に引き続き神妙であった。
ただし、ガラポンを回した直後には、
それぞれに表情を変えていた。
B組3番手で引いた井口佳典は、初戦に続いて1号艇!
白い球が出ると同時に会場にどよめきが起こり、
フラッシュの雨のなかで井口はニヤリと一瞬だけ表情を崩している。
一方、5番手で引いた峰竜太は、
その時点でもう5号艇と6号艇しか残っていないことに
苦笑いを見せていた。せめて5号艇……の思いもむなしく、
転がり出たのは緑の球。苦笑いはむしろ単なる笑顔に近くなり、
ツキのなさに笑うしかない、といった表情なのであった。
4号艇→5号艇→6号艇だもんなあ……。
A組では先述したとおり、
5番手の今垣が引くときに残っていたのは5号艇と1号艇。
今垣が黄色を引いて、
1号艇は自動的にラスト抽選の太田和美のものとなった。
井口同様に初戦に続いての白カポックだ。
太田はもちろん笑顔だが、立会人の田中信一郎もまた笑顔。
同期の幸運はやっぱり嬉しい!
太田は田中の声援を浴びつつ、
明日は1号艇のピットに立つ。
で、たまたま僕の隣で今村豊が観戦しており、
「エイジー、抽選に集中しろ―、とか野次飛ばそうか」と
なんとも楽しそう。その白井は2号艇を引き、
白井自身は凛々しい表情を少しも変えなかったが、
今村は「まあまあ」とか言いながら嬉しそうに笑っていた。
ミスター、いいなあ。
白井英治よ、明日は今村さんの
もっともっと深い笑顔を快走で引き出してください!
(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)