竜巻まくり
'
11R
①今垣光太郎(石川)09
②白井英治(山口) 08
⑤松井 繁(大阪)
③平尾崇典(岡山)
④馬袋義則(兵庫)
⑥坪井康晴(静岡)'
センター筋から、真っ黄色の何かが飛んできた。
「鳥だ、飛行機だ、いや、王者・松井繁だ!」
ベッタベタな表現で恥ずかしいが、
私の驚きはそんな感じだった。
それくらいの行き足だった。
スリットほぼ横一線から、ぐーーーんと伸びた。
スーパーマンみたいに。
あるいは白井英治が放ったのかもしれないが、
それにしてもの行き足だ。
そして、松井は伸びなりに絞った。
舳先の1/3を掛けて白井が必死に抵抗したが、
王者に容赦はなかった。
容赦というより、迷いがなかった。
スリットで覗いた瞬間から、
松井はインまで攻め潰すと決めていた。
そんな強引なまくりだった。
白井の舳先がソッポを向き、
インの今垣光太郎は王者の引き波で進むべき方向を失った。
人間ではない、たとえば竜巻のようなものが
1マークを通り過ぎたような気がした。
圧倒的なまくりだった。
これは……決まりか。
力ずくで他艇をねじ伏せ、
独走となった王者の進軍。
私は、早くも明後日に思いを馳せていた。
昨日は絶品差しで、今日は竜巻まくりで1号艇を蹴散らした。
誰が、この超人の如き男の進軍を止められるのか。
誰も浮かばなかった。
だが、天にまします神は、
最強者にとびっきりの試練を与えるのがお好きらしい。
明日の松井に与えられた艇番は6。
2号艇で勝ち、5号艇で勝っても、
まだ満足していないのだ。
きっと、神様も見たいのだろう。
黒・黄色・緑・白、すべての色で圧倒的に勝ち進む王者の姿を。
私も、それが見たくなった。
この試練をすべて打ち砕いて
最後に4度目の黄金のヘルメットを頂いたとき、
松井繁は生きる伝説となる。
『絶対王者』の称号が、
未来永劫まで語り継がれることになる。
極上の“展示航走”
12R
①山崎智也(群馬)09
②瓜生正義(福岡)08
⑥太田和美(奈良)11
③井口佳典(三重)13
④丸岡正典(奈良)13
⑤峰 竜太(佐賀)17
結果から先に記せば、
1着から順に123456。いわゆる“展示航走”だ。
が、道中の争いは、展示航走とは真逆のものだった。
熾烈を極めた。逃げた山崎智也、
差しが届かなかったものの2番手を取りきった瓜生正義。
この1-2は安泰。
その後ろだ。峰竜太と井口佳典と丸岡正典。
この3人の3~5着争いが、ぐっちゃぐちゃだった。
ツケマイ、全速差し、切り返し、まくり張り……
そんな技の数々を、3人ですべて出し尽くした。
ほとんど毎年のように書いているが、
これがトライアルの醍醐味なのである。
短期決戦で1点の価値が死ぬほど重いトライアルは、
5・6着争いでも修羅場になるのである。
本場にいてよかった。 つくづく、そう思う。
今日の死闘も舟券に関わらない4、5着まで絡んでいるから、
テレビモニターでは部分的にしか映らない。
本場にいる私の目は、ターンマークで秘術を尽くしあう
3人の姿だけを追い続けていた。
やや縦長になってはまた団子になり、
団子になったかと思えば、また離れる。
ターンマークごとに、寄せては返す波のような攻防。
「人間は、本当の本当に必死になれば、こうなる」という
ド迫力の攻防を、とことん堪能することができた。
競って離れて競って離れて、
ゴールを通過した3艇の差は
競馬で言うところのアタマ、クビ差程度だった。
おそらく、この差がファイナル優出にも大きく影響するだろう。
一時は3番手を取りきった峰竜太は、
この激闘の末に僅差の5着に敗れた事の重大さを知っただろう。
身体のすみずみで感じたはずだ。
今年も、激痛とともに。この激痛が、
来年以降の同じ修羅場で生きる。
別次元のボートレースに、身体が自然に反応するようになる。
結果は123456。
いつもなら虫唾が走るような不快感を覚える
“展示航走決着”なのだが、今日のレースはまるで違った。
準優の醍醐味が2着争いであるように、
今日の“展示航走”は賞金王トライアルの醍醐味そのものだった。
しつこいようだが、本場にいて良かった、
とつくづく思える隠れた名勝負だった。
(photos/シギー中尾、text/H)