まず、無念の涙を飲んだ戦士たちから。
もっとも落胆が大きく見えたのは、今垣光太郎だっただろうか。
あのピット離れで、まさか6コース単騎になろうとは。
それでも攻めて、道中も粘って、
なんとか優出圏内に潜り込もうと死力を尽くしたが、
攻めが流れて万事休す。
向こう1年間、表舞台に登場する機会が激減することが
ほぼ確定してしまった。
一縷の望みを求めて、
朝から徹底的に作業を続けた今垣。
12R組で作業を最後に終えたのがまさに今垣で、
ということは今日1日もっとも根を詰めていたのが
今垣光太郎ということになる。そ
れが実を結ばなかったことは、
今垣の心に重い石を埋め込んだに違いない。
レース後の様子を見てしまえば、
声をかけたりすることもちょっとためらわれた。
白井英治は、たそがれた表情を見せていた。
終わった……そんな心の声が聞こえてきそうな表情。
3着で20点、これでは届かないことはわかっていただろう。
すでに優出漏れを覚悟しきっているような、
だからこそせつない顔つきなのだった。
不完全燃焼で
トライアルを終えてしまった選手がいるとすれば、
坪井康晴だろう。11R3周1マークでまさかの転覆。
結果論だが、11R3着なら
優勝戦に進出していた(山崎智也が6番手を走り続けたとして。
だが、坪井の転覆がなかったら、順位に変動はなかったのではないか)。
坪井は馬袋義則と3番手を争っていたのだ。
競り勝っていれば、
優勝戦のピットが手中に入っていたはずなのだった。
転覆整備をしながら、坪井の表情は当然、晴れない。
身体に関しては、問題なく歩いてはいるが、
打撲はあったそうだ。
おそらくカウリングに足を打ったのではないか、ということ。
だが、軽傷で済んだ体の傷より、
心の傷は深くて重い。転覆整備を終えると、
坪井はやるせない表情で控室へと戻っている。
明日はこのリベンジを!
……などと気軽には言えそうにない、
寂しい後ろ姿であった。
坪井の転覆は、山崎智也にツキをもたらした。
3番手争いの後方を走っていたのは智也と峰竜太。
智也は6番手だったが、
この事故によって進路がふさがっている間に、
峰を抜いて一気に順位を2つ上げたのだ。
事故によるものだけに心から喜ぶことはできないが、
しかしラッキーはラッキー。
智也の顔も次第にほころんでいく。
「神様がドラマティックな結末を求めているのなら、
僕が優勝すると思います」
横西奏恵の引退発表が今節初日。
当然、智也にも注目が集まり、智也自身、
横西の思いも背負ってトライアルを戦った。
第2戦では6年ぶりの賞金王1着が出て、
ラストラウンドではアンビリーバブルな逆転劇。
たしかに、智也のVは
最高にドラマティックな幕切れを演出することだろう。
それを引き寄せるのは、
もちろん智也の自力にほかならない。
4号艇という枠番も妙に気になるところである。
別にラッキーでも何でもないのに、
そんな表情を見せていたのは瓜生正義。
12R4着では優出がかなわないと思い込んでいたらしいのだ。
22点なのに? ちょっと???だったりもしたが、
究極の好青年は
自分をかなり低く見積もったりもしているので、
まあそういうことなのだろう。
あるいは、好枠でなければ意味がないと思っていたため、
細かい計算をしていなかったとか?
だとするなら、まさしく強者である。
このへん、本人に聞いても
「本当にダメだと思った」で終わると思われるので、
これくらいで止めておこう。
好青年ぶりは会見でも見られた。
シリーズ戦の1号艇が、後輩の篠崎元志である。
「篠崎くんが優勝すれば、いい流れで僕に…………
いや、プレッシャーかけてしまいますね(笑)。
一生懸命頑張ってくれれば、僕も一生懸命頑張れると思います」
今頃宿舎で「福岡でW優勝だ!
元志が優勝して、瓜生さんにつなげろ!」とか
岡崎恭裕あたりに言われているような気もするのだけれど(笑)、
瓜生は後輩を気遣い、いらぬプレッシャーを排除しようとする。
こんなにも優しくて、どうしてこんなに強いんでしょうか、瓜生正義は。
一方、11R後に「おそらく大丈夫!」と聞かされたのに、
実は優出が確定ではなかったのは平尾崇典だ。
平尾は2着で22点にポイントアップ、
想定されるボーダー=21点を上回ったのだから、
誰もが直感で「平尾も当確」と考えたと思う。
平尾はレース直後には、嬉しそうに目を細めて、
小さくガッツポーズもしている。
しかし、12Rの結果次第では、
次点に終わる可能性があった。たとえば、
12Rが②-①-④で決まった場合など。
けっこうありそうな目だったわけで、
平尾は一転して崖っぷちで待たされる身になったわけである。
結果、平尾は6番目で当確!
平尾が見せたのは、喜びというよりは安堵であった。
そりゃそうか。
もちろん、11R後の歓喜がその後に
ふたたび蘇ってはきているだろう。
賞金王初出場で初優出。
無欲で臨める6号艇で、大きな喜びを胸に戦う平尾。
実は6コース成績がいいアウト巧者なだけに、
怖い存在という気もする。
12R、思いもよらぬ進入をものともせず、
太田和美が逃げ切った。
今年、1年を通して大きな波もなく
高いレベルで活躍し続けた“2012年の顔”が、
「正直ちょっと足は弱い」という機力差を跳ねのけて、
優勝戦に進出した。太田は言う。
「ここまできたらアシ云々の問題ではない」
この言葉は実に頼もしいものであり、
同時に賞金王決定戦が機力だけで決するような
甘い舞台ではないということを表現したものでもある。
明日は当然、その弱い部分を克服するべく
作業に集中する一日になるだろうが、
それ以上に太田に覚悟のようなものが
備わっているのが心強いのだ。
一方で、井口佳典は「仕上がりは完璧です。
はい、完璧です。全部のアシがいいです。◎です。全部いいです」と
同じ単語を繰り返し使いながら、力強く言い切って見せた。
もちろん、井口もアシだけで
賞金王を勝てるなどとは思っていまい。
だが、もちろん機力は技術とメンタルを後押しする。
そして、ここがおそらく重要なのだが、
井口は強く言い切ることで
状況を劇的に自分向きに
引き寄せようとしているのだろう。
ビッグマウスは井口の持ち味。
時間が合う方は、明日の公開インタビュー(朝にあります)を
お楽しみに!
さて、優勝戦1号艇を手に入れたのは、松井繁である。
とにかくもう、「今日の松井は真の王者だった」以外に
書くべき言葉が見つからない。
いや、「今日も」だろうか。
今節の松井はとにかく強烈。
アシも節イチ級の仕上がりとなり、
メンタルも完全に仕上がって、
醸し出す雰囲気も強烈に仕上がっている。
10R発売中に、
ペラ室では服部幸男とのツーショットが目撃されたが、
神々しすぎて長く直視できないほど。
これは間違いなく、過去のSG優勝戦1号艇での松井繁と
寸分たがわぬものである。
明日もきっと、僕は松井繁を目で追い、
でも発散するものにおののき、
う~んとか唸るのだろう。
明日の松井繁は、その存在そのものが、
極上のエンターテインメントである。
(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)