BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――言葉が……

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「うわっ、これはヤバい!」

 たまたま並んで観戦することになった井口佳典が叫んだ。スリットを超えた瞬間だ。

「元志かっ!?」

 スリットで舳先ひとつのぞいていたのは、たしかに篠崎元志である。まさか……。新田雄史を応援しようと装着場のモニター前にあらわれたはずの井口だったが、「返還3」を確認すると控室のほうへ戻りかけている。新田の1マークの航跡を確認できたのかどうかは、ちょっとわからなかった。

 好事魔多し。そんな言葉が浮かんでくる。今年に入って記念3V。これでSG3連続優出。さらに準優の超絶まくり差し。篠崎元志が完全にボートレースの顔の一人になったと、昨今の彼の航跡は物語っている。その矢先に、SG優勝戦フライングとは……。昼間の高揚感あふれた表情とのギャップ、そしてこれから味わわなければならない試練を思えば、申し訳ないが、毒島誠への祝福はすぐには浮かんでこなかった。

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 カポック脱ぎ場の前で着替えながら、篠崎は言葉が出ない。仲間たちも、なかなか声をかけられない様子で、どうしても空気は重苦しくなる。篠崎から5m離れた位置で岡崎恭裕が自身の荷物を整理し始めていた。目が合ったが、僕も岡崎もお互い何を話し合えばいいのかわからず、ただ表情だけで会話するしかなかった。岡崎が「元志くん……」と呟いた。だが言葉が続かなかった。僕も返す言葉を見つけられなかった。岡崎は同じ痛みを味わっているだけに、盟友の胸の内を誰よりも理解していただろう。岡崎には、明日からの走りで篠崎に刺激を与えまくる強烈な活躍を期待する! もちろん岡崎自身のためにも。それが来年秋以降、二人の時代を築き上げる礎となるだろう。

 これでSGには向こう1年間出られない篠崎。だが、例外がある。賞金王決定戦だ。篠崎はすでに、賞金王はほぼ当確。SGの篠崎と会うのに、1年間待つことはないだろう。今日の借りは住之江で返せ。4カ月後、今日より強くなった篠崎元志を見せてくれ。

 

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 優勝は毒島誠だ! オーシャンカップでSG初優出。2度目の優出で初優勝! 2013年最強の夏男は毒島誠である。

 優勝後のさまざまなインタビューで明らかになったが、毒島は今日、緊張していたという。それをしっかり自覚し、向き合っていたというわけだ。前半記事でいろんなことを書いたが、僕の不明だったということになる。

 そうしたなかで、「行く気でスタートを行った」と強い気持ちで踏み込み、もしかしたら自分が勇み足だったかという心配もあったなか揺るぎないターンで先頭に立った。これはまったくもって、強い勝ち方だ。堂々たる勝ち方だ。オーシャン優出→MB優出1号艇を、僕はラッキーボーイ的な捉え方をしていたわけだが、それはあまりに過小評価だったと言うしかない。桐生三銃士といえば江口、智也、秋山だが、もうこの言い方は古い。SGを獲ったからということではなく、とっくに毒島を加えた桐生四天王だったのだ。

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 ウイニングランから戻ってきた直後は、さまざまな選手に祝福されていた毒島。優勝の祝福といえば、もちろん水神祭! すでに真っ暗になった丸亀水面だったが、この儀式、行なわねばMB記念は終われない!

 

 

 

 

 

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 ということで、もちろん山崎智也、さらに青山登さんを中心に、残っていた香川支部の面々も参加して、ボートリフトから漆黒の水中にワッショイスタイルで毒島は放り投げられている。森高一真あたりは智也をも落とそうと画策していたが(笑)、すでに着替えを終えていた智也はこれを回避。毒島は夜の丸亀水面でただ一人、その場に残っていた人たちの視線を一身に集めていた。ちなみにムーンサルトで腹から着水しています。

 毒島選手、SG初優勝おめでとう。関東から新たなSG覇者が誕生したことは、艇界にとっても好ましい出来事だろう。言うまでもなく、ここがゴールではなく、むしろスタート。さらなる活躍を積み上げて、もっともっと大きな存在になることを期待します!

 

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 最後に他の敗者についても触れておく。淡々としていたのは、新田雄史と中島孝平。中島はまあいつも通りとも言え、悔恨は胸の内に収めてじっと耐えるタイプだ。新田の場合は、同期である篠崎のFも気にかかっていたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 激しく悔しがっていたのは、平石和男と菊地孝平だ。そう、優勝により近い場所で敗戦を味わった者のほうが、悔しさは覆い隠せないほど大きいものだ。まして、菊地はもしかしたら白カポックだったかもしれないのだ。端正な顔が大きく歪むのも当然だっただろう。平石も久々のSG制覇を味わえなかったことを思い切り悔いていた。ただ、名人戦世代となってもまだまだ一線級であることは証明できたはずだ。次こそは表彰式で「今後とも応援ヨロシク!」を聞きたい。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=水神祭 TEXT/黒須田)