BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――三強、最強の揃い踏み

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 気づいてみれば、準優1号艇。やっぱり格が違う……なんて改めて記すのがむなしいほど、桐生順平は強かった。10R6号艇6コースから1着。1号艇が予選トップも狙えた秋元哲だというのに、桐生は6コースから突き抜けてしまった。現状の埼玉支部の序列は、大将・桐生、副将・秋元。この新鋭王座で、絶対的な先輩に一矢浴びせる絶好のチャンスを秋元は迎えていたのに、大外から大将はぶち抜いていってしまった。足色は劣勢と言われるが、本当にそうなのか!?と思わざるをえない。

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 JLCの1着2着インタビューのあと、秋元は桐生に何か話しかけていた。声が小さかったので届かなかったが、秋元が桐生に気を遣った物言いをしているような雰囲気はあった。それを余裕の表情で返す桐生。秋元にしてみれば、また先輩の偉大さを知った瞬間だっただろうか。

 そう、桐生の余裕ある雰囲気は、とにかく目を引く。それも「本当に機力劣勢なの?」という疑問が生まれてくる要因だ。つまり、パワーが足りないからといって、桐生に焦ったりじたばたしたりする雰囲気は少しもないのである。誰よりも大きな修羅場を経験したことで生まれた自信の差、だろうか。

 終わってみれば、やっぱり桐生。そんな文章を書くことを想像し、それが現実感を伴っているのだから、この男の強さはタダゴトではない。

 

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 11R。前田将太は6号艇。その時点では予選1位だったが、そのポジションを守るには、実は1着を獲るしかなかった。2着では2位につけていた篠崎仁志と得点率で並び、1着本数で1本、篠崎に負けてしまうのだ。前田は、その状況を完全に把握して、レースに臨んだという。

 結果2着。ピットに戻ってきた前田は、開口一番、「痛恨!」と叫んだ。ちなみに、6Rで勝負駆けに失敗した江崎一雄がそう叫んでいて、それをパクってみたということらしい(笑)。

 痛恨とは、もちろん1着を獲れなかったこと。だったら、コースを動く手もあったのではないか、という向きもあるかもしれない。前田もそれを考え、スタート特訓ではスローから行ってもいる。だが、どうにも胸にモヤモヤしたものが残った。

「予選トップって、予選がすべて終わってのトップですよね。もし、6号艇が初日に来ていたらどうだったか。たぶん僕は動いていないと思います。だったら、ここで動くのは違うのではないか。動くのは僕のスタイルではないし、6コースから勝負して予選トップを狙いにいったんです」

 たまたま最後に6号艇が回ってきたが、3日目までだったらおそらく6コース発進。予選をすべて終わらせるには、ここは6コースから行くのが筋。前田の信念はそういうものだった。そのうえで、前田は本気で1着を獲りにいったのだ。

 ひとつ言えるのは、それでも前田は2着、である。準優勝戦を勝ち抜いたとして、優勝戦は相手が違うのは確かなこと。しかし、どこのコースでも、前田は本気で勝利をもぎ取りにいき、そして充分勝機があるということだ。その男気、優勝戦ではきっと強い光を放つだろう。

 

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 予選トップは篠崎仁志! こちらは9R、前田より一足早くすべてのレースを終えた。前田と同様に6号艇。篠崎はコースを動いて、1着をもぎ取った。もちろんこれも、勝負師のあるべき姿だ。前田とは方向性が違うが、それが悪いわけではもちろんない。しかも、桐生も前田もまだレースを残している時点での話。篠崎も桐生、前田と同様に勝利をもぎ取りにいったのである。

 11Rで前田が2着ゴールした頃、篠崎は整備室からエンジン吊りに向かっている。たまたま並んで歩くかたちになった……いや、正直言えばちょっと早足で篠崎をつかまえた僕は、予選1位であることを伝えた。なんと、篠崎もちゃんとわかっていた。

 その後、篠崎に3つ4つ言葉をかけたが、答えはすべて「はい!」だった。それも、とことん力強い「はい!」だ。すでに闘志に火がついている! この最大のチャンスを前に、開会式で宣言した「歴史に名を残す」絶好の機会を前に、篠崎は早くも武者震いしているようであった。

 12R発売中、篠崎はたった一人、ペラ調整所でプロペラと向き合った。そう、決して浮かれてはいないのだ。兄貴の獲れなかったタイトルを手に入れるには、あと2回逃げるだけ。前田、桐生が順当に優出してくれば、たしかに手ごわい存在となるだろうが、篠崎は堅固な意思で迎え撃つだろう。早くも名勝負の予感、である。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)