BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――コク深きベスト6!

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 今村暢孝はコワモテだと思っていた。これが3年ぶりのSGだが、当時を思い出すと、どこか近寄りがたい印象ばかりが残っている。今節にしたって、レース前の表情は厳しい勝負師のもので、やはりおいそれと声はかけにくいところがある。

 名人戦のとき、ピットで笑顔を山ほど見かけて、こんなにも穏やかな表情をする人だったかしらん、と思った。いまやノブさんの決めポーズとなっているサムアップを向けている写真が、中尾カメラマン、池上カメラマンともに、山ほど残されていた。名人戦だからリラックスしてるのかな、とも思ったりしたのだが、しかし。

 今節も優しい笑顔がいっぱいなのだ、ノブさんは。3年ぶりのSGで見事に優出! SGのファイナルピットに入るのは、実に9年ぶりだとか。ピットに戻ってきた今村は、鳥飼眞らと言葉を交わしながら、ハッハッハッハと呵呵大笑。エンジン吊りに賑わうピットだから大きく響き渡るというほどではなかったけれども、これがまた何とも楽しそうな顔つきで、こちらもノブさんの優出が本当に嬉しくなってしまったのだった。

 会見がまた最高だった。もう、ノブさんオンステージなのだ。「展開とツキは節イチ? そぉ~ぉなんですよ! 明日もそれでいきたいっすねえ!」「9年ぶりSG優出? フフフフ! 今回がいちばんリラックスしてるかなあ。もうおっちゃんになったんで」「SGカッパがやっと届いたんですよ!(嬉しそう)明日はそれ着ますよ~!(嬉しそう)」「なんか、優勝する気がするんだよなあ」「明日もツキ一本で優勝します!(サムアップ)」。もちろん真面目なコメントも山ほど出しているが、会見終盤には会場が爆笑の連発となり、それで会見も長引いたため、瓜生正義が廊下で待ちぼうけを食ったりするほどだった。

 レースが激辛なのは、ファンもご存知のとおり。明日もあの手この手でレースにコクを与えてくれるだろう。その素顔はゴキゲンなノブさん! 優勝会見でさらなるオンステージを見せてほしいと思っちゃったなあ、ほんとに。

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 松井繁もコワモテですよね。というか、ピットでは笑顔も実に多いのだけれど、やっぱり声をかけにくいというか、声をかけるのにも極度の緊張を強いられるというか。実際、レース前はピリピリしているし、それがいわゆる王者の風格ということにもなるのだろう。

 で、さっき言った通り、選手仲間にはたくさんの笑顔を見せている松井。優出を決めた直後のピットでは、これがまた笑顔の連発なのであった。足はいたって普通、自慢できるところはひとつもない、という。平和島はいちばん苦手だと会見ではぶっちゃけてもいた。だというのに、最低限の結果を残してしまうあたりはやっぱり王者。そして、“フツー”の足色で外枠、進入動いたが誰も譲らずにスロー5コースというビハインドを跳ね返したことは、松井にとっても心躍る結果だったのだろう。ヘルメットの奥の目は、実に滋味あふれる笑みとなっており、気分の良さばかりが伝わってくるのだった。

 さあ、優勝戦はこの二人が外枠だ! これはもう、進入から楽しみで仕方ありませんな。ちなみに、山口達也は「コース譲る気はありません」と言っている。枠なり? まさかね。枠なりになったとしても、すんなりの枠なりであるとは思えない。若い力の台頭は心弾むもので、明日の優勝戦に山口の名前があるのも実にドキドキさせてくれることだが、それに立ちはだかる百戦錬磨の存在が水面のシーンを強烈に彩ることは間違いない。ノブさんと王者は、どんな戦い模様を描いてくれるだろうか。

 

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 そのメンバーの1号艇が瓜生正義というのも、優勝戦をより濃密にしている。今村は「レース足は瓜生くんが上」と言っているし、田村隆信は「自分はトップとは言えないけど、トップクラス。トップは瓜生さん? そうですね」と言っており、瓜生の気配が一枚上であることを誰もが認めている。それだけに、すんなり逃がしたりするのだろうか、王者やノブさんや田村が。

 その瓜生、準優はちょっと冷や汗ものだった。フライングではあったが池永太にまくられ(残念! これにめげずに次の機会を目指せ!)、残しはしたものの今村にはいったん先んじられている。というわけで、ピットに戻った瓜生は、どちらかといえば苦笑いを浮かべており、充実感みたいなものはあまり伝わってこない雰囲気だった。もちろん、予選トップをなんとか活かすことができた安堵はあっただろうけど。

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 もう一人、山口達也もちょっと冷や汗ものではあった。坂口周の落水に絡んで、審議がかかっているのだ。内から舳先をかけようとした坂口がバランスを崩したものだったので、結果はセーフであったが、ピットには一瞬だけ緊張が走っている。

 それにしても、今節のシンデレラボーイはすでに山口達也で決まりだろう。SG2節目にして、優出。戦前、ここまでの活躍を予想した人はそれほど多くはなかったはずである。だが、山口は気後れなどすることなく果敢なレースを見せ、力強い足取りでここまで辿り着いた。先述したように、「コースは譲る気がない」と言い切る気持ちの強さが(その時点で松井が自分より外枠に入ることは確定している)ひとつの原動力だっただろうか。

「嬉しい反面、優勝するチャンスが手に入ったわけだから、狙っていきたいという気持ちもあります。ワクワク感が強いですね」

 坂口がピットに帰還したときには、真っ先に駆け寄って頭を下げている山口だが、その件を引きずることもないだろう。外のベテラン2人に真っ先に狙われるのがこの男。どんなふうに立ち回ってくれるか楽しみだ。

 

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 田村隆信が優出を決めてピットに戻ると、最初に祝福したのは井口佳典だった。ボートリフトに乗った田村に、「タムちゃん!」と声をかけて親指をぐっと立てたのだ。井口にとっては複雑な結果でもあった。先輩が落水失格だったのだから。だが、それはそれとして、同期の優出は嬉しいこと。そんな思いを即座に感じただろう田村は、井口に対して満面の笑みを返している。

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 中澤和志の勝利には、関東勢が総出でお出迎え! 関東地区の平和島ダービーだというのに、関東からベスト18に残ったのは中澤のみ、なのである。東男たちの期待はひたすら中澤に集中したし、鮮やかな勝利には胸のすく思いもあっただろう。

 もっとも、中澤はひたすら淡々、粛々とした様子であった。微笑は浮かんでいるけれども、決して喜びを爆発させたり、エキサイトしたりはしない。中澤はこれが基本姿勢なので、実はピットでそれほど目を奪われることが少ないわけだけれども、それがまた中澤和志の良さだろう。

 田村は「一般戦で優勝したときに、平和島は独特の走りをしなければならないと感じた。それを実践できているので、結果も出ていると思う」と言った。中澤は、06年総理杯でSG初制覇、その舞台が平和島であった(あれからもう7年半!?)。そう、平和島巧者が内枠に入った。これもまた、明日の優勝戦をより味わい深いものにするだろう。

 準優が終わってみれば、なんとも興味深いメンバーが揃ったダービー優勝戦。今夜は進入予想で盛り上がりながら、美味い酒を飲みましょう!

 

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 最後に、坂口周と三井所尊春。初めてのSG準優は、ともになんとも苦いものとなってしまった。1号艇のプレッシャーが大きかったとは言いたくないが、逃した魚の大きさは身に染みて感じたことだろう。

 ターンがやや流れて差されてしまった三井所は、ピットに戻るや肩を落とし、深川真二に声をかけられて顔を激しく歪めている。エンジン吊りの最中には、モーター架台に両手をついて、呆然。溜め息も落としている。

 坂口はレース前、井口佳典と新田雄史に背中を叩かれ、気合注入して臨んでいる。しかし、レース後にはその二人に慰められ、ズブ濡れのままひたすら苦笑いを浮かべていた。井口は何より体が無事だったことに安堵していたが、坂口自身はそれ以上にチャンスを活かせなかったことへの落胆を強く感じていただろう。

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 11R後には、三井所も心配して坂口に歩み寄っている。顔を見合わせて、苦笑を交わす二人。「俺ら、華ないな~」という坂口の自虐に、三井所は笑顔で返した。池上カメラマンによれば、池田浩二が三井所に「ヘタクソ~。金返せ~」と野次を飛ばしていたらしい(笑)。きっと、そうした言葉のほうが、彼らをより癒すであろう。華がないなんてぜんぜん思わない。ヘタクソとも思わない。だが、今日はその言葉とともに悔恨にまみれ、次のチャンスを虎視眈々と狙ってほしい。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=山口、田村、三井所、坂口 黒須田=今村 TEXT/黒須田)