BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――悲喜交錯

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●10R

 レースを動かしたのは岡村仁だ。6コース単騎から、一気に伸びてインの池田浩二を脅かした。結果的に池田の強さを際立たせたにせよ、その勇敢なレースぶりは拍手ものだろう。

 だが、それは岡村を納得させるものではない。森高一真が「結果は出なかったけど仕方がないとは、ワシらはよう言えん」と言っていたが、森高の場合は自分の舟券を買ってくれた人に対する思いが大きいとはいえ、そうでなかったとしても準優での「2着に入れなかったけど、健闘した」は本人にはそれほど意味はない。

 だから、ピットに戻ると、岡村は天を仰いだ。悔しそうに。無念そうに。あと一歩で届かなかったSG優出。この思いを経験した岡村は、さらに強くなるだろう。

 

 

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 その横を峰竜太が無表情で通り過ぎる。その無表情とは、あまりに悔しく不満な表情と同義語だ。1号艇を獲れていれば……そんな思いもあっただろうか。峰はただただ、失敗と流れの悪さを悔いているようだった。

 峰と岡村は95期の同期生である。願ったのはそろって優勝戦に駒を進めることだっただろうか。岡村が峰に何事か声をかけた。だが、峰はほとんど反応することなく通り過ぎた。悔しさは一人で噛み締めるもの。悔恨が脳裏を締めていたであろう峰には、岡村に意識を向ける余裕がなかったのかもしれない。

 

 

 

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 それにしても、徳増秀樹は好調である。これでSG3連続優出なのだ。年をまたいでも、本格化した強さは止まらない。なにしろ、今節のエンジンはもうひとつ、なのだ。「(池田)浩二にも伸びられたし、外にも伸びられた。正直、敗者戦回りでもおかしくない足。明日は動いたら、包まれてしまうんじゃないか」という機力劣勢ぶりなのである。にもかかわらず、きっちりしのいで、優勝戦に駒を進めた。これは明らかに徳増の秀でた実力である。

 

 

 

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 そして、池田浩二の強さはどうだ。F2なんて関係ないとばかりに準優1号艇を手にし、きっちりと逃げ切ったのだ。「スタートはわからない。最後は放っている」とのこと。ならば、徳増が「伸びられる」と振り返る軽快な伸び返し足は、相当なものだ。仕上がり良好であれば、ビハインドなどこの男には関係ない。そう思わざるをえない、快勝である。

 

 

 

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●11R

 太田和美の穏やかな顔が印象に残った。高揚するでもなく、破顔するわけでもなく、静かに柔らかに微笑んでいる。レース自体は決して楽なものではなかったと思う。「開いたらいいなと思っていった」と言うように、確信をもって展開を突いて行けたというわけでもなかったのだ。しかし、その捌きは卓越している。35号機のパワーうんぬんより、むしろ太田の力を感じる、2番手確保。その仏様のように柔和なレース後もあわせて、どこか突き抜けたものを感じずにはいられない。

 

 

 

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 松井繁は堂々たるものだ。足的には「中上(中堅上位。松井はちゅうじょうと言ってました)」で、決して上位ではない。しかし、予選首位を争って準優1号艇をゲットし、それをきっちり活かし切る。「井口くんに伸びられるので、スタートは行った」と対戦相手を見据えたうえで勝つための戦略を練り、それをやり切ってみせるわけだから、やっぱり王者なのだ。

 

 

 

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 そうしたなか、篠崎仁志の落胆した様子も印象に残ったのだった。強烈至極な先輩たちに挑んで、しかし敗退。力の差を見せつけられたということでもないのだろうが、それでも立ちはだかった壁の高さを痛感はしただろう。力なく肩を落とし、溜め息をひとつ。ひたすらに嘆くような表情であった。

 だが、いずれは仁志が松井や太田のような存在にならねばならない。12R発売中に仁志は、ピット内をTシャツ姿で走り回っていった。寒くないの? そう問いかけると、「寒くないっす!」と元気いっぱい。強がりだったかもしれないけど、若いっていいなあと松井よりひとつ年上のハゲオヤジは思った。そう、仁志はまだ若い。こうした経験を積み重ねて、さらに強くなっていくだろう。松井の年齢になるまでにはまだ20年近くある。その間に蓄積するであろうものを思えば、やはり末恐ろしいとしか言いようがないのである。

 

 

 

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●12R

「嬉しいっ!」

 鎌田義がはじけた。道中逆転での2着ゲット。まさにいったんは死んだはずなのに生き返り、それを優出という結果につなげてみせたのだ。素直に喜びを爆発させて当然だろう。

 出迎えた仲間も、嬉しそうに祝福した。松井は笑い、田中信一郎も笑顔で、田村隆信はハッハハ~と声をあげた。カマギーの周辺に笑いが満ちた。

 尼崎のピットは、観客席のいちばん端っこからは実に近く、だから声援や野次もよく聞こえる。そこにいたファンが、カマギーに祝福の声援を飛ばし、それはもちろんカマギーにも届いた。スタンドに向き直ったカマギーは、直立不動のあと一例。その姿にもまた喜びがあふれていたのだった。

 

 

 

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 対照的に、吉田俊彦は物静かな様子であった。ようするに、淡々と勝利を噛み締めていた。結果的に、地元ワンツーである。吉田は地元の準優を勝って、優勝戦に駒を進めたのだ。だが、吉田はそこで浮かれることはなかった。「明日は地元だからというのではなく、いつもと同じようにしっかりと戦いたい」という言葉は、ひたすら勝利を目指すのだという決意にも聞こえた。

 実はレース前にはリラックスした様子も見せていた。準優で敗れた岡村仁と、笑顔で言葉を交わしたりしていたのだ。それが、レースには闘志をもって臨み、勝利のあとには淡々とふるまう。メンタル的には完全に仕上がっていると言っていいだろう。SG初優勝が出やすいというこの一戦。吉田がその下馬評を現実のものにしてもまったく不思議はないだろう。

 

 

 

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 最後に、やっぱり白井英治だ。この最大のチャンスを、準優で潰えさせてしまうこととなってしまった。ピットに戻った白井の眉間には深い深いシワが寄り、その深さが悔恨の深さをあらわしているように見えた。着替えた後も、硬直した表情で控室へ。昨日の同じ時間帯とは正反対の顔で、白井は戦いを終えた。

 これまで、何度この表情を見てきただろうか。いつかそれが笑顔に変わり、今回こそその時だと思ったものだが、ふたたび白井の悔恨を目の当たりにしてしまった。なんとも月並みな締めになってしまうが、近い将来、必ずや最高の笑顔に出会いたい。それを信じつつ、今後も白井英治の戦いを追いかけていこう。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)