今日も片づけなければならない仕事はゴマンとあったのだが、8R終了後に出発する帰宿1便の様子を見届けようと、ピットに走った。8Rのエンジン吊りが終わったあたりから前本泰和が帰る準備をして集合場所付近で待機しており、その時点では得点率18位だった峰竜太も姿をあらわした。峰は運命を宿舎で知ることになるわけか。そのほかにも10名ほどだろうか。次第に集合場所に選手が増えていき、「2便で帰る選手は集合」のアナウンスも流れた。
…………2便!?
1便の間違いじゃないの? だって昨日は10R後の帰宿はたしかに2便と呼ばれていたのだ。
なんと今日は6R終了後に1便が出ていたらしい。青山登さんからの又聞きだが、風呂がそれほど広くないという関係で、できるだけ帰宿を分散する方針だというのだ。それで今日はなんと4便制になった。いやあ、下関ピットは奥が深い。ちなみに、1便で帰ったのは松井繁と田中信一郎の2人だけだったそうだ。出走レースの関係もあるが、王者は昨日は最後まで残り、今日は素早く宿舎に戻った。このあたりのメリハリも、一節の過ごし方を知り尽くしている王者らしさなのだろう。
その8R、勝ったのは篠崎元志。残念ながら勝って準優に届かず。今年の元志は残念ながらシリーズ回りとなった。元志は2便では帰らず、10R終了後の3便で帰っている。その間、篠崎仁志と話し込む場面があった。何が話されたかはわからないし、確認もしていない。単なる兄弟の雑談だったかもしれないし、11Rを控える仁志のレースのことだったかもしれない。ただ、仁志にはまだグランプリ行きの目があることをふまえてその場面を眺めれば、やはり何かの意味を感じずにはいられない。たとえ深読みだったとしても、そこに兄弟の絆を見たように思えてしまうわけだ。仁志は11R4着で、予選4位となった。明日の元志はひたすら仁志の健闘を祈り、仁志は何も話さずともその思いをビンビンに感じながら戦うことだろう。
8R出走の白井英治は、3便でも帰らなかった。選手班長だから、最後まで残らねばならないのである。準優にも残ったし、するべき作業はひとまずないし、ということで、SG予選ラストの11Rの頃にはずいぶんリラックスした表情も見せていた。そのエンジン吊りに向かう際には、ニコニコーっと話しかけてくる白井。
「前検の日に弟子がさあ、39号機は絶対にいい、って言ってたんだけど、あの人、プロペラが新プロペラになってたの、知らなかったでしょ!」
はい、ぜんぜん知らんかったようです。
「弟子失格だ!」
ダハハハハ! 弟子というのは畠山のこと。二人は何年か前に将棋で対決し、白井が快勝。それ以来、畠山は白井を師匠と呼び、白井は畠山の弟子入りを許したのである。白井がSG初制覇を果たした折には、弟子は師匠にちょっと高い将棋の駒をプレゼント。白井も使ってくれているそうだ。
なのに弟子失格とは! 了解しました、記者席帰ったら殴っておきます。なんならビール瓶で!
「ははは、将棋で今度コテンパンにしてやりますよ!」
ま、ようするに仲の良い師弟、というわけでありました。明日の昼イチには、気合のこもった師匠の顔が見られるはずです。
11Rは毒島誠が逃げ切り。井口佳典の差しに迫られる場面もあったが、振り切っている。これで予選トップ通過! 13年メモリアル以来のSG制覇と、グランプリ逆転出場がぐっと近づいてきた。面白いのは、群馬の大先輩である青山登さんが我を忘れてしまうこと。一昨年のグランプリファイナルで、山崎智也と毒島がワンツーフィニッシュを果たしたときには、「智也の足が弱い。毒島もあそこの足がもうひとつ」となぜか不満を述べていた。明日はもうレースがなく、しかも後輩が最高の結果を出した後なんだから、足はもうどうでもいいでしょ。今日も、毒島が予選トップを決めた瞬間、あそこの足がいまいちだの言い出して、渋い顔をするのである。素直に喜べばいいじゃん(笑)。まあ、毒島はただの後輩ではなく、弟子の江口晃生のそのまた弟子、つまり孫弟子だから、気が気じゃないんでしょうな。そんなふうにうろたえている大師匠を尻目に、毒島は実に力強い表情で引き揚げてきた。明日もまた大師匠をあたふたさせる鋭いレースを見せてくれるだろうか。
さてさて、明日が勝負駆けとなる女子レーサーたちは、夜が深くなっても試運転を続けていた。まあ、女子戦ではいつものことではある。今日は12Rが女子予選だったので、9~10R発売中あたりは12R組と試運転組、おまけに小野生奈が水面をブインブイン走り、ふと係留所を見ると、レディースチャンピオンかと見紛うほどに、赤文字名前のボートがずらり並んでいるのであった。山川美由紀、谷川里江のベテラン勢も若手に混じって走っている。もちろん昨日も走った樋口由加里や成績は這ってしまっている大瀧明日香も走る。12Rを控える山下友貴や田口節子も走るのである。
そんななかで、余裕というわけではないが、陸でよく見かけたのが海野ゆかりだった。時に気合のこもった表情になり、JLCのピット解説に入っている師匠の池上哲二さんと話すときには柔らかい表情も見えたりした。雰囲気がとにかくいいのだ。今日の結果で優出は当確。しかし、明日も緩めることなく、戦い抜くだろう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)