BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――激烈な準優

9R 奈菜、惜しい!

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 ピットに女子選手の嬌声が響いた。平高奈菜が2番手を走っている! 女子3人目のSG優出か! 女子唯一の準優進出となった平高を、ほかの7人が全員、熱く見守っていた。ピットに出てきて、健闘を祈った。それが、優出を目前にしたシーンが目の前に繰り広げられたのだ。仲間たちのテンションは上がった。正直、僕もピットの片隅でキャッキャ言ってました(笑)。
 しかし、SG準優の2番手競りは本当に厳しい。2着条件の勝負駆けなのだ。平高は「余裕がなかった」と言っていたが、初めて体験するこのバトルを切り抜けるのは至難の業ともいえる。女子戦が急増し、そちらが主戦場となりがちな女子選手にとっては、さらに激烈な戦いだ。

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 僕や畠山は、BOATBoyでさんざん「女子トップクラスをもっと記念に斡旋するべき」と主張してきた。女子選手がSGで優出したら、さらに優勝したら、ボートレースはさらに世間に話題を提供し、認知度を増すだろう。しかし、いきなりSGに出てきて大活躍するというのはやはり難しい。だから、記念でトップクラスの選手たちに揉まれることで彼女たちは実力をアップし、いずれ本当に史上初のSG覇者が出る、という夢を果たせるのかもしれないのだ。そして、今節参加している選手たちは、同様の意識が強い者たちともいえる。平高は「もっとメディアでも、女子を周年に斡旋してほしいと書いてほしい」とも言った。我々の主張は、実は平高クラスの女子選手も共有している思いなのだ。つまりそれほど真剣にもっと強くなりたいと思っているし、いつかSG制覇を果たしたいという大きな夢も抱いているのだ。
 ともあれ、平高にとって、この準優で2着競りに参加したこと自体が大きな大きな糧になった。次の機会には、全力で切り抜けて見せるシーンを期待していいだろう。

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 1号艇の平本真之は2着。しかし1マークで流れてズブズブと差される展開だっただけに、「セーフ」と苦笑いしたのはそのまま本音であろう。なんとかかんとか優出にこぎ着けて、安堵の思いはもしかしたら敗戦の悔恨より大きかったかも。
 もともと平本のモーターは伸びがよく、それを手前に寄らせるよう調整してきたのが今節の過程。ただ、明日は4号艇である。ということで、もういちど伸びのほうの調整を試すかも、とのことだった。ただ、これだとピット離れが出なくなる、というのが迷うところ。明日は天気も崩れるという話があるし、忙しい最終日となりそうだ。

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 勝ったのは守田俊介。スタートを決めて内を締めに行き、伸び返されると冷静に差しにチェンジして突き抜けた。見事な捌きだった! 今節は出足がしっかりしていて、さらに伸びも悪くないという手応え充分な足色だという。クラシックも優出しているが、あのときよりも特徴がしっかりしているそうだ。ということで明日はほとんど何もせずに優勝戦に向かうことになりそう。平本とは対照的に(笑)。もちろんこれが守田スタイルでもあるので、心配はないだろう。

10R 敬礼!

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 きっちりと逃げ切った徳増秀樹は、ボートリフトに艇を進める直前、仲間に向かって敬礼! 徳増の決めポーズが出たぞ。会心の勝利だったことだろう。その瞬間以外は、特に喜びを表現するようなところは見られず、淡々と控室に戻って行っているが、テンションが上がった部分はあったようである。

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 この時点では、優勝戦は1枠か2枠、ということしかわかっていないが、もし2枠になったとき、1枠にすわっているのは篠崎仁志。その仁志を2コースから差すのは至難の業だろう、と徳増は分析する。「舳先が入っても、そこから出ていく足は仁志のほうが良さそうなんですよ。ただ、もし舳先が乗せられれば、僕の行き足がいいだけに面白い」。つまり、明日は舳先を乗せて2マーク勝負に持ち込めるかが、SG初制覇へのカギになる。その部分の調整を明日はしていくことになるのだろう。

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 2番手は、峰竜太と白井英治の「勝率1位vs2位」の争いとなり、白井が捌き切った。あの2周1マークの捌きは痺れた! ピットでも、選手たちの「おおっ!」という声が重なってあがったくらいで、やや危ないシーンにも見えたし、それを巧みなハンドルワークと冷静な感覚で捌いたことへの称賛もあっただろうし、とにかく次元の違う競り合いだったと言っていいだろう。
 で、気になるのは明日の動き。外枠の白井は前付け、というのが定番だが、「現状の舟足だと、前に付けても……というのがある」と枠なり宣言なのだ。10R終了時点では5号艇か6号艇なのだが、結果的に6号艇。本当に枠なり? ちなみに、11Rから優出した毒島誠は「人間はいつ考え方が変わるかわかりませんから」と笑っていたが(笑)。白井は「道中がんばります」と何度も笑って繰り返していて、それが本心のようにも聞こえるし、そうではないようにも聞こえる。明日は畠山の特訓記事、必見ですな。

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 それにしても、峰竜太の落ち込みぶりはとてつもなかった。とりあえず涙は見えなかったが、その憔悴っぷりがすさまじかったのだ。涙が見えないというのは、感情の発露がほとんどないということで、その分、ひたすら肩を落とす姿はむしろ痛々しかった。峰の敗戦後としては、ちょっと異質な様子であった。
 着替えを終え、プロペラ室に入ってペラにゲージを当てるときも顔色が冴えない。ペラ室を出たとき、規制線の外で離れて見ていたこちらと目が合った。
「思い、伝わらず……」
 力弱く一言だけ言って、肩を落としてモーター格納へと向かうのだった。思い、とは、投票1位に押し上げてくれたファンへの思い、だろうか。僕は、返す言葉を見つけられなかった。

11R いよいよ仁志が!

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 篠崎仁志が逃げ切って、優勝戦ポールポジションをゲットした。ついに仁志がSG覇者になる日が来るのか! 初めて仁志にインタビューしたのは6年も前で、兄はすでにSG覇者であり、弟もその夢を口にしていた。それからも、インタビューするたびに「早くSGを獲りたい」と、「早く」という言葉が枕に着いたかたちで繰り返された。デビュー当初から篠崎兄弟という騒がれ方をし、いつかSGを獲れる逸材とも言われ、ということは兄弟SG制覇をやはり騒ぎ立てられ、しかし戴冠はなかなか果たせず……。張り切って騒ぎ立てた一人としては、それによって苦しい思いもしただろうと思うし、同時にSG制覇を待ち望んでもいた。そのチャンスがついに来たのだ!

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 記者会見では冷静に質問に答えていたが、最後の締めはそれまでの受け答えとは様子が異なっていた。万感こもっていたのだ。
「兄ちゃんがケガしたり、僕は(SG準優で)Fしたり、兄ちゃんもそれはやったけど、とにかくだいぶやらかしてしまってます。僕をここに出させてくれた人のためにも、明日は僕が獲りたいです」
 勝てば、それは兄弟伝説のひとつの章の完成だ。とびきりの思い入れを抱いて、明日の仁志は白いカポックを着る。そしてきっと、元志は仁志以上に緊張しているだろう(笑)。

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 2着は毒島誠。印象的だったのは、レース後すぐに整備士さんに声をかけていたこと。今日の毒島はピストン2、ピストンリング4の部品交換で臨んでいる。前半記事で見かけた本体整備はこれだったのだ。これによって直線がかなり良くなったようで、そのお礼も兼ての報告であろう。実は、整備をしたレース後に毒島が整備士さんに頭を下げている姿は前にも見ている。その姿勢は、強さの一部だと僕は思う。明日、もう一発整備をして優勝戦に臨んだとき、きっと整備士さんたちの親身なアドバイスがそこに加わっているはずだ。ともかく、明日も毒島はやれることをすべてやって、優勝戦のピットに立つだろう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)