BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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TOPICS 2日目

靖と幸夫

 

 

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 今節、スロー水域にこだわる「前付け屋」は多々あれど、常に本気でインを奪いに行く「イン屋」と言えば西田靖と鈴木幸夫のふたり。その超個性派コンビが、唐津のスタンドを大いに賑わせた。とりわけ鈴木は、まさかまさかの…………!!??

 まずは4Rの西田。6号艇という絶好の?枠番を得た西田だったが、スタート展示はかなり控えめな3コースに甘んじた。抜群のピット離れから行くだけ行って、スーーッと減速。2号艇の西島義則にインを委ねる形となった。が、このスタ展はピット離れの良し悪しを測るテストだったのだな。

 

 

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 いざ本番のピットアウト、西田はスタ展のときよりも鋭く飛び出し、あっという間に西島と舳先を並べた。いったい全体、どんな風にペラを叩くとこうなるのだろうか。で、凄まじいピット離れの勢いそのままに、西島を引き波にハメるようなスピードで一気にインを強奪だ。韋駄天・湘南ジェット、ここにあり。今節、ここまで前付けに動いた選手は「行くだけ行くけど、インまでは……」ってな感じで1号艇に遠慮するケースばかりだった。それがちと物足りなかったのだが、さすが西田靖である。これぞイン屋の真骨頂なのである。残念ながらレースは西島の怒りの?強まくりを浴びて、6着惨敗。まあ、深い起こしでまくられるのもイン屋の宿命。本人には悔しいレースだろうが、2号艇の西島を飛び越えてインを強奪した心意気に拍手を送りたい。

 

 

 

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 そしてそして、本日の超お宝トピックはなんたって『東海のインスナイパー』である。8Rの鈴木幸夫もまた、緑色のカポックだった。普通ならぐいぐい内艇を呑み込んで、インか2コースに居座る艇番だ。が、今日の敵は頑固だった。女子レーサーの久保田美紀も含めて、スタ展から突っ張るわ突っ張るわ。結局、徹底抗戦を浴び続けた鈴木は、スローの6コースという屈辱のポジションでスタ展を終えた。

 まさか、イン屋のボス的存在・鈴木幸夫に限って、本番でも6コースなんてことはないだろ。逆に「買い」だな。

 そう考えた私は、どんどん跳ね上がる鈴木のオッズに誘われてアタマ舟券を買った。だがしかし……レース本番でも、5人の敵は抵抗の手を緩めない。スタ展とまったく同じような展開で、鈴木は6コースに追いやられたのである。鈴木幸夫の6コース発進……レアな光景ではあるが、もちろんこれでは勝ち目はない。インを奪ってこその鈴木。

 オワターーーーーッ!!

 心の中で叫びつつ、私は間違いなく全艇スローになるであろう水面をぼんやり眺めていた。「鈴木の6コースって、何年ぶりだろ」などと思いながら。

 そのときだ。

 

 

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 艇を真横に流していた鈴木が、いきなり舳先を右に傾けた。大時計側ではなく、ピット側に。「え~い、やっちゃおっ」みたいな感じで。

 鈴木幸夫のアウト単騎がましっっ??????????

 記者席がどっと沸く。私も奇声を発しながら、そぞろ胸をときめかせた。ひとつは、このありえない超レアな光景を目撃したことに。もうひとつは、よもやの「鈴木幸夫アウト一撃まくり」の期待感に。妙に決まりそうな気がするのだよ、単騎がましって。

 隣席の黒須田が、このありえない光景に大笑いしながら、私の微かな期待に水を差す。

「ギャハハ、幸夫さん、スタートが見えるわけないじゃん!」

 そりゃそうだ、何十年もイン水域とともに生き、スロー発進とともに生きてきた男なのである。それが、いきなり阿波勝哉なのである。逆に阿波がインコースの80m起こしになったらどうなる。

 

 

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 それでも、やっぱり期待感は消えない。スタートが見えないからこそ、逆に目を瞑ってコンマ01、なんて奇跡が起こるかもしれないではないか!

 艇を深々と引いた鈴木は、12秒針とともに颯爽とエンジンを噴かした。見た目には、文句のつけようのないタイミングに見える。スローの5艇は、80mに近い横一線。このまま全速で行けば、鈴木幸夫は阿波勝哉になる。一撃まくりが決まる!

 そう思った瞬間、鈴木の艇はズルッ、ズルッと何度か加速を弱めた。そして、5艇より1艇身ほど後方から、5艇より力ないスピードでスリットを通過した。コンマ28、モミモミ。

 こうして生粋のイン屋・鈴木幸夫のアバンギャルドな“反逆”は、何事もなく5着で終わったのだった。いやあ、でもでも、いい物を見させてもらったなぁ。ちなみに、鈴木幸夫の6コース発進は、2007年1月から7年3カ月ぶりの椿事だと判明した。しかも、それは枠なり絶対主義の江戸川水面だった。この江戸川で鈴木幸夫が艇を引いたかどうかは、定かでない。

 

おかえり、西島!

 

 

 

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 強い強い西島義則が、帰ってきた。昨日のドリーム戦はありえないほどの大差の6着に敗れ去り、「まさか、まだ何らかの後遺症が残っているのでは?」などと心配したものだが、今日のレースっぷりでそれが杞憂であることがわかった。4Rは西田をインに入れての一撃まくり(前出)、8Rは山室展弘の厳しい前付け(去年のリベンジ??)を浴びながら、堂々の逃げきり。「勝ちレース、鬼の如し」とも表現すべき、実に西島らしい連勝だった。ほっと一安心である。

 去年のグラチャンで、ピットから記者席に戻ってきたときの黒須田の青ざめた顔は、今でも忘れられない。

「西島さん、選手生命どころか命そのものも危ないかもって……」

 

 

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 うそっ、と言ったきり、私は絶句した。言葉が出なかった。同い年の西島義則は、私にとって大ヒーローだ。今村豊、山室展弘、西田靖、日高逸子も同じく私のスーパーヒーローなのだが、とりわけ西島にはちょっと異質な感情も抱いている。何度かインタビューをした中で、私の妻と同じくらい年の差のある奥さんがいて、私と同じくらいの年齢の子供がいることがわかった。なんだか、似たような境遇だな、と思った。収入は雲泥の差だけど(笑)。そのせいか、自宅で家庭サービスなんかをしていると、ときどき西島の顔が浮かぶのだ。とても嬉しいことがあったり、逆に子供が病気になったりすると、どういうわけだが西島の顔。で、西島の家庭はどうしてるかな、なんて思ったり。

 

 

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 去年、私が絶句したとき、脳裏に浮かんだのも西島と西島の家族の姿だった。病院に運ばれる西島の姿ではなく、見たこともない自宅の見たこともないリビングルームの逢ったこともない家族の姿。その中には、ちゃんと西島本人の姿もあった。なんでかはわからない。その光景を思い浮かべながら、心の中で「死ぬな!」と叫び続けていた。死ぬな、西島。選手として戻れなくてもいい、とにかく死ぬな! と。

 何を書いているのだろう。そう、鬼神の如く強い西島だ。正直、私はレーサーとしての西島義則に再会できるとは思っていなかった。ただ生きてくれと念じた西島が、目の前で恐ろしく強い勝ちっぶりを見せてくれた。それが嬉しくて仕方がないと、そう言いたいのだ。私の中に、同い年の大ヒーローが帰ってきたのだ。しかも、「奇跡の復活」というとんでもなくドラマチックなエピソードを携えて。まあ、とにもかくにも、おかえり、西島!

 

 

 

 

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 最後に、今日も気になって仕方がない加藤峻ちゃんは、昨日に続いて3着ゲット。1周バックで先頭だっただけに残念と言えば残念だが……とりあえず、3着2本で準優進出戦の当確ラインに乗った。あとは進出戦→準優→優勝戦の好枠を目指して、頑張れ峻ちゃん!!(photos/シギー中尾、text/畠山)