BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

知将の誤算

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優勝戦

①金子良昭(静岡)01

②長谷川巌(山口)+01

③大嶋一也(愛知)17

④高橋淳美(大阪)04

⑤原田順一(福岡)04

⑥泉  具巳(兵庫)06'

 

 

 

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 コンマ01。金子がキワのキワまで踏み込んで、鮮やかに逃げきった。

 レースとしては、まずは大嶋にスポットを当てねばなるまい。直前の2本のスタート特訓で「やらずのやらず」(普通の3コース進入)だった大嶋は、スタート展示でそれなりにゴリゴリ動いた。昨日の準優と同じくらいのゴリゴリ度だ。本気でインを奪いに行く気配ではなかったが、とりあえず「やり」できた。さて、本番はどうするか。

Aやりのやらず。昨日の準優同様、攻めると見せかけて自重する。

Bやりの超やり。スタ展より激しく攻めてインを奪う。

 

 

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 進入を予想する側としても、ほぼ二者択一だ。同じ「やりのやり」でも、スタ展と同じゴリゴリ度では、金子や長谷川の起こし位置が同じになってしまう。艇界屈指の知将としては、それはつまらないだろう。だから、AかB。そして私は、A「やりのやらず」と読んだ。予想でも記したが、F持ちの大嶋にとって80mを切る深インは、リスクが高すぎる。スタート特訓も110m起こしだったし。あって、昨日と同じ2コースまでか。

 本番。いつものように、彼は私の平板な予想を蹴散らした。正解はBだった。スタ展よりもはるかに激しく内の2艇を攻め立てた。本気でインを奪う勢いで、まっしぐらにターンマークに向かった。

 

 

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 が、その猛攻に徹底抗戦したのが長谷川だった。艇をぴたりと大嶋の内に貼り付けて、真横に連れ去る。すかさず、金子がくるりと舳先を反転させる。それなりのスピードで真横に流れる長谷川、大嶋も、そのまま流してはいられない。すぐに舳先を傾けて、スロー3艇の深い起こしが約束された。大嶋にとっては、まったく旨味のない横並びの3コース。今日、愛知の知将が最終的に選択した戦略=スタート特訓も含めた「やらずのやらずのやりの超やり」作戦は、失敗に終わったのである。誤算があったとすれば、黒い埋伏の兵の存在だったか。嗚呼、それにしても、ダンディ。あの勢いのままインを取りきったら、70m起こしになっていたぞ(=それが「成功」なのだ)。スタート特訓とは真逆の深インを狙っていたとは……ヒゲのダンディ、やはりモノが違う。

 

 

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 内の3艇が横一線で、どんどん前に流れてゆく。私はひとりほくそ笑んだ。「4カド淳っちゃんがまくって、順ちゃんがまくり差し」という脳内レースが鮮やかに浮かんだ。

 この隊形なら、ありえる! ありがとう、ダンディ!!

 12秒針が回る。大嶋の起こしが、内の2艇よりも明らかに遅い。カドから淳っちゃんが大嶋を追い抜いてゆく。行ける、行けるぞ、ひとまくりだ淳っちゃん。脳汁噴出。

 だが、私の脳内からアドレナリンが噴き出したのは、そこまでだった。スリットから淳っちゃんがまるで伸びない。アジャストしたのは明らかだった。しかも、内の2艇はさらに前にいる。外から誰も仕掛けられないうちに、金子が1マークを豪快に旋回した。回りきった瞬間に優勝確定、そんなインモンキーだった。

 ところが、金子本人は己の優勝に半信半疑だった。スタートが早すぎるとわかって、踏み込んでいた。敵は選手ではなく、100分の1秒レベルの時間だった。独走態勢になりながら、金子は何度も告知板に目をやったという。そこに浮かんだのは、「2」の数字だった。スリットほぼ同体に見えた、長谷川の艇番。その数字の横に「1」が点灯していないことを何度も確かめてから、金子は2マークを回った。もう、敵はどこにもいない。金子ははっきりと優勝を自覚した。16年ぶり3回目の記念V。

 

 

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 次に語るべきは、わずか数センチの過ちを犯した長谷川か。去年、同じ大舞台の同じ2号艇、同じ2コースで、コンマ27。他の5艇より突出して遅かった。何もできないまま、プール掃除に甘んじた。

「去年はスタートで遅れて何もできなかった。今年はしっかり行って、レースに参加したいです」

 優出インタビューで、長谷川はスタートへの思いを熱く語った。むしろ意識しすぎて遅れるのでは? などと思ったりもしたのだが、有言実行、しっかり行った。去年、どれほど悔しかったか。その思いが、そのままスリットに反映された。そして数センチだけ、しっかり行き過ぎてしまった。今年もまた、新たな悔いを連れて水面を去ったことだろう。だが、勝負師としての悔いは、去年とは別物だったはずだ。やっていいフライングは1本もないけれど、男らしい勇み足だったと私は思う。

 

 

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 最後に、順ちゃん、お疲れ様でした。2度に渡る若々しいまくり差し一撃、準優での華麗な捌き、そしてコンマ04まで踏み込んだ優勝戦。「年金世代の代表」として、どれほど多くのオッサンやじいちゃんを勇気づけたことだろう。来年の施行者さん、順ちゃんをよろしくお願いします。あ、失礼、来年は文句なしの自力参戦ですよね、順ちゃん!!

(photos/チャーリー池上、text/畠山)