BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――匠が見せてくれたもの

 マスターズチャンピオンは、名人戦は、本当に毎年いろんなものを見せてくれる。いろんなもの? ようするに、ボートレースとは何か、だ。

 たとえば、ボートレースは何が起こるかわからない、ということ。それはどんな競技だって同じだが、強烈な大波乱がいつでも起こりうるのがボートレースという競技であると言えるだろう。選手にとっては大変だが、だからボートレースは面白い! 1号艇の今村豊と西島義則が同時に飛ぶということが平気で起こるのだから、ボートレースはコクが深いのだ。

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 フライングを切ってしまった西島と、反対にスタートで後手を踏んでしまった今村。起こった事象は違うが、レース後の沈痛ぶりはよく似ていた。周囲がかける言葉を失う。たしかに、信じがたい“敗北”を喫した者には声がかけづらいのが当然である。

 だから、まず西島に語りかけたのは、同期の大嶋一也だったりするわけである。同期であり、同じイン屋である二人は、誰よりもわかり合えている部分があるだろう。それまで表情をカタくするのみだった西島は、大嶋に声をかけられてようやく、顔を歪ませて悔しがった。大嶋が西島の本音を引き出したのだ。もしかしたら、西島も救われたかもしれない。

 

 

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 今村の場合は、自分で空気を変えてしまうところがある。ようするに、おどけて見せるのだ。エンジン吊りの間は黙々と作業をこなしていながら、控室を前にヘルメットを脱ぐと、その場にいた選手に自分から声をかけて、笑わせている。全速ターンでボートレースを変えた男は、自力で沈鬱な雰囲気をも変えてしまう。なんか話の次元がまったく違うような気がするけど、ようするにいつだって自分で道を切り開いていく男なのである。こうした局面でも、僕は今村豊に“真のスーパースター”を見るのである。

 

 

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 いろんなもの、という点でいえば、優勝戦には本当にバラエティに富んだ面々が揃った。

 まずはナデシコ。高橋淳美だ。10R、大嶋がいながら、高橋はインを主張している。起こしは80m。「おぉっ、アツミ・キャンベル、80m!」と叫んだのは星野政彦。道中2番手を走っている際もアツミ・キャンベルを連発していた星野、あなたが面白すぎることを今節はじめて知りました(笑)。それはともかく、日高逸子に次ぐ2人目の女子優出を果たしたのだから、快挙! 共同会見の会場まで来ながら、お気に入りのシャツがあるらしく、回れ右してお色直しに向かったのは、女性らしいご愛嬌。そのシャツ、報道陣にしか見せられないんですけどね(笑)。星野はもちろん、金子良昭や平岡重典(モーター架台に足ぶつけてめっちゃ痛がりながらも、拍手してました)らに祝福されたあっちゃんは、この大仕事を心から喜んでいるようだった。

 

 

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 大ベテランも優出だ! 個人的にもめちゃくちゃうれしいぞ、原田順一! 07年大村以来7年ぶりの優出で、「64歳でも頑張れるということを、若い人たちに見せたい」と意気軒高である。

 それでも、レース後は実に淡々としたたたずまいで、これもまた原田らしかった。あっちゃんはピットに上がった瞬間から嬌声が聞こえてくるほどで、それがあっちゃんらしくもあったが、原田の場合は目を細めるでもなく、もちろん声をあげるでもなく、黙々とエンジン吊りをしているのだから、もはや枯淡の境地である。

 ただ、もちろん枯れてなどいないぞ。「いいエンジン引けば戦えると思ってましたが……戦えました(笑)」と、ただ参加するだけの気持ちなど毛頭ないのだ。勝てばGⅠ最年長V! 予想はともあれ、応援舟券、買います!

 

 

 

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“新人”からは一人、優勝戦に駒を進めた。星野に言わせれば「グミぃ」。泉具巳だ。GⅠ初優出! 会見場にあらわれた泉は、もしかしたら初めてかもしれない光景に一瞬立ち止まり、テーブルにつくといったん目を見開き、特別な舞台で特別な場面を迎えたことを実感しているようだった。「ほんと、嬉しいですねぇ~」という第一声も、感慨がこもっていた。

 もし明日、大波乱の主役となったら、本場で観戦される方はぜひウイニングランへ! そして「グミぃ~」と祝福の大声援を送ってください!

 

 

 

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 2年連続優出は長谷川巌だ。昨年が初出場の新人で、優出。そして2年目の今年も優出。それをやってのけるなら、まずは誰もが江口晃生の名前を思い浮かべたはずだが、この壮挙を果たしたのは長谷川だった。泉同様、会見での第一声は「嬉しいしかないですね」だった。

 ただ、レース直後は神妙だった。仕方がない、西島と同じリフトの隣でピットに上がり、西島の隣でエンジン吊りをしていたのだ。西島の痛みは、選手ならば誰でも理解できる痛み。長谷川は複雑な心境だったはずだ。西島を気遣いながら、喜びも感じていたはずだから。

 笑顔が出たのは、師匠である新良一規に祝福されたときだ。同じレースに出走し、「新良さんとワンツー決めたかった」という思いで走ったが、師匠は思いをかなえられなかった。それだけに、新良の「おめでとう」は格別であろう。明日は師匠をはじめとする山口勢の声援を背負って走ることになる。

 

 

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 歴代名人も一人、優出を果たした。大嶋一也だ。これが優勝した07年以来7年ぶりの優出。マジか!? 一瞬そう思ってしまうほど、大嶋が優勝戦のピットに入るのは当たり前のことのように思える。

 その大嶋は、歴代名人の優出を見せてくれただけでなく、進入の妙も見せてくれた。1号艇の高橋淳美はイン主張の構えで、2号艇の鈴木茂正もいったんは抵抗の構えを見せる中、まるで間を差すようなかたちで2コースを奪ったのだ。ピットでは報道陣も選手も「今の大丈夫なのか(待機行動違反にはならないのか)」とざわついたが、古場輝義が「セーフだね」。実際にセーフだったわけだが、つまり大嶋は鈴木のスキを突いたのだ。「鈴木くんがもっと早く譲らないという意思表示をしていたら、3コースと考えていた」とのこと。ホーム水面に移る際に鈴木の動きにそこまでの主張を感じなかったからこそ、大嶋は2コースを獲った。「競艇好きさん」のご意見、僕も興味深く拝見し、もちろん理解もしておりますが、僕自身はこうした進入の駆け引きもボートレースのフェアな真剣勝負だと思っております。

 ただ、大嶋自身「スッキリした進入じゃなかった」と語ってもいる。ならば、大嶋は明日はスッキリした進入で、内水域を目指すことだろう。大嶋の存在が、優勝戦がさらに「いろいろなもの」を見せてくれるカギになっているのは間違いないことだ。

 

 

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 優勝戦1号艇は金子良昭! 金子はレーサーとしての魂を見せてくれたと思う。

「昨日はスタートでビビりが入ったけど、それを反省しました。だから今日は、結果がどうあれ、トップスタートを決めたかった」

 金子は準優進出戦で、ここでフライングを切ってしまったら元も子もないと、追い風が強かったこともあって、慎重なスタートになってしまった。1号艇だったが、それで2着となって、準優は3号艇に。もちろん、結果的にその判断は懸命だったわけだが、しかし次のレースでの同期生・江口晃生のフライングを見て、考えるところがあったようだ。そして、強い気持ちで全速スタートを決めた。結果はトップスタートではなかったが、確信をもってスタートを切れたことは、そして優勝戦1号艇を引き寄せたことは、まさしくレーサーの魂が呼び起こした結果である。

 明日、金子は前付け必至の大嶋に対して、どんなレーサー魂を燃やすだろうか。会見では「自分のレースができる位置から優勝を狙う」と言っている。今日見せた者とはまた別の、レーサー魂を見せてくれるかもしれないぞ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)