BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――笑顔とは何か

 

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 今村豊オンステージ!

 ピットでもいつも笑いを振り撒いてばかりいるミスターは、優出共同会見ともなればさらに絶口調。今日は会見のトリを務めたわけだが、準優ピットに張り付いて溜まった疲れを一気に吹き飛ばしてくれるほどの漫談(笑)を披露してくれたのでした。

「(会場入りする際に)昭和の選手、入ります!」

「たぶん飛ぶんだろうと思ってました。智也も飛ぶんですよ! あれで気楽になりました(ニッコリ)」

「回り足から二の足、ブレーキの利き……悪いのは選手のみです! 節イチか?…………こんな成績で中の上とか言っても信じてもらえないじゃないですか!……ま、適当に書いといてください」

「(SG史上最年長Vが懸かるが)記録はなかなか出ないから記録なんですよ!(そんなこと言うけど、いっぱい記録をもってるでしょ?)あ、そうなんですか?」

「気負いはないと思いますが、その場になってみないとわかりません!」

 景気がいいんだか悪いんだか、すべての言葉がウケ狙いに聞こえてくるぞ。しかも、会見が終わったというのに、まだ話足りないのか、マイクを握り直した。

「このなかの誰ひとり、僕が優勝戦に1号艇で乗ってくると思ってる人はいなかったはずですよ! たぶん、松井とかだと思ってたでしょ?…………僕もそうです(自慢げ)」

 優勝したら、どんな爆笑会見になるんでしょうか(笑)。う~ん、見てみたい!

 

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 丸岡正典の会見も最高なのである。一昨年のダービー優勝会見もすごかった。高校時代にバドミントンをやっていた(国体出場!)効果を問われて、動体視力(集中力だったかな?)と答えて「あ、真面目に答えてしまった」と悔やむ男なのである。

 丸岡といえば、「ミスターダービー」。08年のダービーを獲り、4年後にここ福岡でまたダービーを獲った。4年に1度のダービー男。あのときも「また4年後の優勝を目指します」とか言っていたはずだ。

「今年笹川賞を獲って、4年後に笹川賞を獲ればいいんでしょ。よろしくお願いします(ニャハハと笑う)」

「笹川賞って、緑がいいんですよね?(6号艇がけっこう勝っている)6号艇、いいですね~(ニャハハと笑う)」

 飄々とした、ミスターとはまた違うタイプの笑いを提供してくれる丸ちゃんは、優勝したらどんな笑顔を見せてくれるだろうか。これまた見てみたい!

 

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 服部幸男と菊地孝平の静岡コンビが揃って優出。会見ではもちろん、真面目なコメントに終始していたが(ミスターと丸ちゃんももちろん真面目なコメントもありました)、はからずもコンビネーション・プレイが実現して、仲間たちを笑顔にしていた。

 まずは10Rを勝った服部がピットに戻るや、エンジン吊りに出てきた仲間たちにおどけた。両手でピストルの形をつくって、ピッと指さしたのだ。これは……ゲッツ!? いや、そんなつもりはなかったかもしれないが、レース直後にこんなポーズをしたりおどけたりする服部幸男は実に珍しい。東海勢の顔がほころぶのも当然というものである。エンジン吊りの間も笑顔が絶えない服部、そして東海勢。そこにはなんとも幸せなムードがただよっているのだった。

 

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 11R。菊地がピットに戻ると、菊地はほぼ同じポーズで上がってきた! 打ち合わせでもしていたのか!? 菊地はゲッツというよりピースのような感じだったが、カポックの色こそ違うものの、静岡勢が揃って喜びを爆発させたのである。その出迎えの輪にいた服部は、渋い微笑みを浮かべて菊地を祝福。明日狙うは、もちろん静岡ワンツーフィニッシュだろう。

 

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 昨年の賞金王シリーズ以来2度目のSG優出となる茅原悠紀もまた、笑顔であった。本来は勝って優出したかったのが当たり前。「嬉しいけど、やっぱり逃げたかったので、(悔しさと)半分半分ですね」は、本音であろう。それでも、バックでは3~4番手争いだったものを、2マークのここ一番のターンで逆転した内容には手応えがあったはずだ。何より、パワーには自信をもったはず。「優勝確率はかなりあると思います。6号艇だと厳しいかもしれないけど、もし5号艇でも(10R直後には4~6号艇の可能性があった)50%くらいあるんじゃないですかね」。この言葉は、機力に確かな感触を得ていなければ、出てこない言葉だろう。

 

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 もう一人の優出は、今垣光太郎! 1年以上のブランクを空けて帰ってきたSGで、いきなり優出を決めたのだから、満足感は大きい。まして、今垣はかねてより「いちばん獲りたいタイトルは笹川賞」と公言してきた。ファンの後押しを常に感じている今垣にとって、オールスター(笹川賞)は「賞金王と同じくらいの価値」なのである。この優出は、高らかな復活宣言であるとともに、今垣の心に充実を与えたはずである。

 それでも、レース後は淡々とふるまうのが、今垣光太郎流でもある。笑顔を見せることなく、祝福の声にはただ「ありがとうございます」と返す。後輩である山崎智也の祝福にも敬語で返しているあたりも、光ちゃんらしさだ。念願のオールスター制覇を果たしたとき、光ちゃんは大きな笑顔を見せてくれるだろうか。

 

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 12人の敗者のなかで、もっとも大きな悔恨を抱えたのは、岡崎恭裕と篠崎仁志だろう。地元SG制覇への思いは、ひたすら巨大だった。そして、準優では二人とも、いったんは2番手を走った。最後まであきらめずに、前を追い続けた。しかしともに3着でかなわなかった優出。もっとも落胆が強く伝わってきたのは、やはりこの二人である。

 岡崎はといえば、まず表情がなくなっていた。茫然自失。この結果を信じたくない。顔面蒼白だったと言ってもいいだろう。新田雄史とすれ違った。その瞬間、岡崎はいきなり声をあげている。

「2マーク、どうしたらいいん?」

 2番手で2マークを回ろうとしたとき、茅原が切り返し気味に先マイを狙った。岡崎はその外を回ってかわそうとし、しかし先行を、逆転を許してしまった。あの場面、いったいどうするのが正解だったのか。開いて差すべきだったか。茅原を抑え込むべきだったか。それを新田に問うたのだ。あまりの勢いに、新田も戸惑いを見せる。新田とて、完全な正解をいきなり出せるはずがない。2マークの痛恨を、岡崎はどうとらえ、どんな答えを導き出すだろう。

 

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 篠崎も、展開は似ていた。平石和男との2番手争いという局面で、篠崎はやはり全速で回った。しかし、やはり逆転を狙った山崎智也がターンマーク際を突いた。結果的に篠崎は山崎に接触して後退している。敗退を、山崎のせいにしているわけではない。篠崎もやはり、あの場面での正解が何だったかを考えたのではないか。篠崎は、まず顔を歪めた。そして、悔しさを思い切り噛み締めるかのように、歯を食いしばった。眉間にしわが寄った。口を閉じつつ、大きく息を吐き出した。敗北に耐え、抑え込み、消化しようとしている仕草に見えた。

 若武者二人の味わった挫折。今夜ふたりは眠れないかもしれない。だが、眠れぬ夜が、次なる飛翔の芽を育てる。いつか夢見たものを手にする機会はきっと来る。

 

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 二人には、山崎智也の痛恨を知ってほしいという気もする。智也は、負けた時ほどよく笑う、とこの9年間(おかげさまで取材班はこのオールスターで10年目に突入しました)何度も書いてきた。笑顔に悔恨を紛れ込ませ、一人悲しみに耐えるのである。今日も同様だった。勝った菊地に、智也は笑顔で「おめでとう」と祝福しているのだ。だが、次の瞬間、笑顔はひきつった。引き上げる智也を待ち構える報道陣、そしてカメラの放列。智也はそこから決して逃げない。しかし、悔しい。だから顔はひきつる。本当はレンズを避けて下を向いてもいい場面だが、智也は決してそうしなかった。顔を前に向け正面を向いたまま、しかし心からとは思えない明るい表情で、輪の中を通過していったのである。

 数々の修羅場をくぐり、幾多の栄光も手にし、同時に山ほどの悔恨も味わってきた。そんな智也のふるまいは、なんとも男っぽく、カッコいいと思った。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)