BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――すごい優勝戦だ!

 全員に強烈でどデカいトピックがある。そんな優勝戦となった。

 

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深川真二=SG初優勝。

 なんと、深川はこれが2度目のSG優出である。これはなんとも意外な事実ではないか。上瀧和則選手会長が一線を離れている今、文句なしに佐賀の支柱的存在であり、誰もが認める実力者だ。SGを獲ってもおかしくない選手だと、仲間だって考えているだろう。

 だから、三井所尊春も峰竜太も、まるで我がことのように喜んでいた。1マークでは一瞬差しが届いたかと思われながら、今村豊に突き放されるという悔しさの残るレースでもあったのに、三井所も峰も拍手で深川を迎え、三井所はハイタッチもしている。敬愛すべき先輩の優出は、後輩たちにとっては特別なことなのだ。

 明日は進入のカギを握って、レースを能動的に動かす!「コース? フフフフフフ。三井所くんと相談します(笑)」。なぬ? 三井所といえば、2日目に6号艇でチルト3度、今日は5号艇でやってのけて、見事まくり一撃! ま、ま、まさか!?

「それはないと思います」と煙に巻いた深川は、とにかく不気味な存在として存在感を放つだろう。

 

 

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菊地孝平=SG連覇。

 ピットに戻った瞬間、菊地は服部幸男に手を差し出してハイタッチをしている。10Rは静岡支部ワンツー! 地元SGの準優で文句なしの結果を出したのだから、高揚するのが当然だろう。

 それにしても、菊地のレース前の様子には迫力がありすぎる。まっすぐ見据える視線は、鉄をも射抜くのではないかと思えるほどの、強さをたたえている。レース後は、さすがに穏やかな顔つきに戻るが、しかし視線は凛々しい。次から次へと報道陣のインタビューに応える菊地は、実に丁寧に、柔らかく応えている様子だったが、外野から眺めれば、その目は獣のそれである。

「すべてを無にして、明日の1走だけに集中します」

 そう語る菊地だが、その視線の先にはもちろんSG連覇が見えているはずである。

 

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 服部幸男=16年半ぶりのSG制覇。

「去年、今年と悪すぎたので、気を引き締めて走っている」

 たしかに、服部は不調であった。A2級落ちもありうる数字しか残せていない時期もあった。しかし、悪い流れは確実に福岡で断ち切っただろう。2節連続のSG優出は、強い服部幸男が戻ってきた証しである。

 その感触があるからなのか、レース後の服部はいつも以上に高揚感をあらわにしていた。ニコニコと笑う服部に、盟友・松井繁からも笑顔がこぼれる。鎌田義から拍手を受けると、左腕をピンと前に突き出して、親指をグイッ! 哲人・服部としては実に珍しい姿であって、それは周りの者に幸福感を分け与えるものだったと思う。

 こうなったら、期待させてもらおう、97年賞金王以来のSG制覇を! それが地元で果たされれば、これ以上の喜びはないはずだ。あの賞金王は、今も珠玉の名勝負として語り継がれる黄金バトルだった。ちなみに、インコースは今村豊だった。長い時を経て、また名勝負を勝ち抜いた瞬間、服部はどんな姿を見せてくれるだろうか。

 

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 瓜生正義=6年連続SG制覇。

 やっぱり強いぞ、正義のヒーロー。こうして優出を果たしてみれば、この人の実力をまざまざと感じるしかない。そして、新記録樹立が話題となるであろう優勝戦にあって、実はこの人もひとつの新記録に挑むことになるのだ。それが、6年連続SG制覇。昨年まで5年連続制覇となっていて、これは植木通彦さんに並ぶタイレコード。明日勝てば、単独トップに躍り出るのだ。

 まあ、瓜生にはそんな意識はまったくないようではある。そういうものに左右されるような男でもない。そんなことよりも、瓜生としてはやはり今日の1マークに納得していないようではあった。「思いのほか、ひどい旋回をしてしまった」と会見で語ったが、その語り口がどこかいつもの瓜生と違って、やや不機嫌なように見えたのだ。なにしろ、「③(毒島誠)は見えてなかった」と言いながら、まるでまくりを張りにいったかのような流れ気味のターンとなってしまったのだ。逆転して1着ゴールは決めたものの、完全に差し切られたあのターンには悔いも残ろう。もしかしたら、勝ったという感覚が希薄かも!?

 明日は当然、切り替えて優勝戦に臨むであろう瓜生。明日こそは、納得のいくレースをやり切って、艇界に新たな歴史を刻んでほしい。

 

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 今村豊=史上最年長SG制覇

 オールスター(笹川賞)で逃してしまった大魚が、また目の前にあらわれた! その新記録を果たす前に、まずSG2節連続予選トップ→2節連続優勝戦1号艇が素晴らしすぎる。「僕でよろしいのでしょうか?」とオトボケのミスターだが、あなたはそれがもっともふさわしい選手の一人に決まってるでしょう。

 気になることは、少しだけある。「オールスターのほうがチャンスはあった」というコメント。これは足の違いからくるもので、笹川賞=出足から回り足、今節=行き足から伸びが強いということになれば、たしかにイン向きの足は今回より笹川賞だろう。スタートについての不安も口にした。今村といえば、起こしでレバーを握ったら、そのまま放ることのない全速スタートが、信条であり必殺技。今村は行き足がいつでも強いと思われることも多いが、実はそうではなく、常に全速スタートを心がけているから、スリットから前に出ていくのである(今回はさらに行き足と伸びがいい)。だが、今回の足は、「起こしがついていかないという不安もある」ものだというのである。いつも通りの決め打ち起こしで、もしついてこなかったら……そう、スタートで後手を踏みかねないのだ。優勝戦のメンバーはいずれも機力上位、伸びも今村と互角の選手もいるなかで、スタートで遅れれば致命傷。今村はそれを口にするのである。

 で、もちろんそれは不安な要素には違いないが、今村がそうしたことを口にしたのは、「オールスター以上に優勝を意識しているのではないか」と裏読みした次第である。「明日はいかに意識しないかですね」とまで言っているし。最年長Vを逃したこと、そうでなくとも1号艇で優勝できなかったことは、悔しかったんだろうなあ。

 ま、僕ごときがミスターの心を理解できるはずがないし、裏読みするのも僭越ではあります。だが、もし万一、よりVの意識が強いのであれば、それはむしろ心強い要素ではないのか、と思った次第なのでありました。

 

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 太田和美=史上初の同一SG3連覇。

 この記録にも王手がかかった! 太田は、一節通してさんざん煽られながら、自然体を貫き通して、きっちりここまで残ったのだ。まずは手放しで称えたい。

 レース後は、さすがに苦笑いだった。もう笑うしかない、という感じで。1マークで瓜生を差し切り、しかし逆転されて2着は、太田にとって嫌な意味で、4日目の再現である。しかも、今日は2周1マークでターンマークを漏らしてしまっている。苦笑いを浮かべるしかないし、出迎えた松井繁らも「どうしたどうした?」とばかりに笑っていた。

「ま、今日はネタを提供したってことで」

 会見では、そう言って太田は笑っている。おそらく、太田はこの敗戦を引きずっていないと思う。「浜名湖はスタート難しいけど、ひとつ内にキクがいる」と、すでに切り替えて、明日のVロードを頭に思い描いているようである。

 ならば、明日こそ大ネタを提供してもらおうではありませんか。最後の最後、太田がたまたま一人でいたので、追いかけて「明日も思い切り煽らせてもらいますよ」と声をかけた。太田は、ニヤリと笑った。「書いてもらえるようなことになって、よかったですよ」。こちらの挑発にも自然体。明日は6コースになる可能性もあるが、この男ならそこから突き抜けてきても、何ら不思議はない。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)