BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――戦士たちに賞賛を! 拍手を!

 

 

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 まずは深川真二のチャレンジに拍手だ。

 優勝戦6号艇時点で、チルト3度を予想した人はいただろうか。ほぼ全員が、「前付け。どこまでコース入れるか」を考えたのではないだろうか。あの深川が、自ら6コースを選択する。それもチルトを跳ねて。それだけで、称賛に値することである。

 すでにチルト3度で勝利をあげていた三井所尊春が近くにいたことも大きかっただろう。深川は、ボートを展示ピットにつけるギリギリまで、三井所のアドバイスを受けながら、ペラを叩き続けた。昨日までの足だって、悪くはなかったのだ。それをイチかバチか、思い切り叩き変える勇気がまた素晴らしい。そして、それを手間と時間をかけてやってのけたことも、感動的だ。

 結果は不発に終わった。三井所と峰竜太は苦笑いで出迎え、深川もそれに応えはしたが、ヘルメットを脱ぐと真顔があらわれていた。大バクチの戦略ではあったが、深川はもちろん勝つためにそれをやった。負けても仕方ないなんて、少しも思っていないのだ。そんな勝負師根性がまた偉大だ。

 今日の深川は高い高い評価を受けて然るべきだと思う。深川よ、あなたのおかげで、ただでさえ濃厚だった優勝戦がさらに面白くなったぞ!

 

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 服部幸男もまた、深川とは方向性が違うが、ギリギリまで調整を続けている。まさしく有言実行の「ベストを尽くします」。その姿勢はやっぱり哲人である。

 服部の勝利切望度は、かなり高かったのではないか、と思う。今日は最終日で、エンジン吊りのあとはモーター返納作業があり、服部もそれに加わる。加わるといっても、作業の大方は若い選手が率先して引き取るので、服部はそばにいて眺めていることが多い立場だ。今日の服部は、そんなときに明らかに視線が後輩たちの作業を捉えてはいなかった。いや、視線の方向は作業に向けられていたが、思考は別のところに飛んでいるようで、深く深く考え込んでいる様子だったのだ。何を考えていたかは、言うまでもない。

 そうした「Do my best」が報われなかった。服部は控室前でカポックを脱ぎ、自らのモーター返納に向かう際、いったん足を止めて天を仰いだ。顔はゆがみ、ぼそぼそと一人ごちてもいた。何を呟いたのかはまったくわからなかったが、そうして無念を噛み締めたのである。こんな服部を、初めて見た。

 返納作業がすべて終わり、整備室内のシンクで手を洗う。しかし、視線はまっすぐであり、一度も手を見ることはなかった。見ていたものは、おそらく脳裏に浮かぶレースのリプレイ。服部はそうして敗戦を振り返りながら、唇を噛み続けるのだった。

 

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 朝はいつものひょうきんミスターだった今村豊も、レースが迫ればさすがに緊張感が増していったようだった。もちろん、それが今村のハンドルを狂わすものではなさそうだった。むしろ、戦いの前には緊張を伴った心境になることこそ、平常心であろう。朝のミスターも魅力的だったが、戦士のスイッチが入った今村豊は、やっぱりカッコ良かった。

 そんな今村のレース後は、さすがにおどけまくるというわけにはいかなかった。スタートを全速で行けなかったことを嘆き、服部と言葉を交わしながら首をひねる。白井英治との会話では、眉間にシワが寄ることもあり、伝わってくる悔恨の濃度はオールスターより高いように思えた。

 新記録など意識しない。いつでもチャレンジャーでありたい。それは本心であっても、やはり目の前の戦いにはひたすら勝ちたい。それがSGであり、優勝戦であり、結果的に記録が懸かっているなら、なおさらのことだろう。まして、2度も続けてチャンスを逃したのだから、手にできなかった勝利への思いはなお募る。今日の今村豊は、結果的に、彼がとてつもない勝利への渇望を抱いているのだと、表現していたように思う。

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 今村同様に新記録を樹立できなかった二人、太田和美と瓜生正義は、比較的淡々としているように見えた。二人とも、いつも通りといえば、いつも通り。ただ、レース直後は二人ともに、悔しそうな表情を隠していない。

 瓜生もまた、かなりギリギリまでペラ調整をしていた一人。また、太田は一番最後にボートを展示ピットに入れており、その前には装着場で入念に取り付けを確認していた。悔いの残らぬよう、最後の最後まで、きっちりと準備を整えたのだ。そこまでやっての敗戦だから、後悔はなくとも、悔しさはひたすら強くなる。

 瓜生の場合、新記録達成のチャンスは年内いっぱい残る。一方の太田は、次のチャンスは最短で3年後ということになる。それがどうこうってことは、太田自身にはないかもしれないが、苦笑いを浮かべて去っていく背中はどうしても悲しく見えてしまった。この優勝戦まで、新記録達成の望みをつなげたことは、やはりこの優勝戦を大きく盛り上げた重要な要因であろう。太田には、やはり拍手を送るしかない。

 

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 優勝は菊地孝平だ! 全員に優勝にまつわるトピックがあった優勝戦、実現したトピックは「SG連覇」であった。オールスター(笹川賞)の優勝戦は6月1日。そう、6月中に2回もSGを勝ってしまった! 凄いな~。菊地にとって、2014年の水無月は、きっと特別な記憶として残っていくだろう。

 その菊地だが、勝利直後には大きな歓喜を爆発させたわけではなかった。SG連覇である。地元SG制覇である。前者はともかく、後者は悲願ではなかったのか。ちょっと訝しくも思ったものだが、理由はもちろんあった。

「なんか、ねえ、うん、嬉しさを通り越してしまってるんで。あまり結果を意識しないでレースをする、というのがテーマでやっているので、いいレースをできたなという満足感があるだけなんですよね」

 おそらく、実感はじわじわと沸き、喜びはその後に大爆発するのであろう。とにかく目の前のレースに集中し、自分のできることを精一杯やって戦いに臨む。その信条が満たされたという思いがただただ強かったというなら、あの淡々とした笑顔も得心がいくというものである。

 そして、それは菊地孝平の身に着けた強さだとも思う。たぶん、今の菊地孝平は、我々のイメージとはややズレた存在なのではないだろうか。スタートがめちゃくちゃ速くて、爽快なレースをする、といったあたりが最大公約数なのかと思うが、実際はもっと重厚な強さを身にまといつつあると思うのだ。

 というわけで、月並みだけれども、その強さを携えて、オーシャンカップでは歴代3人目となるSG3連覇を見せてもらいたい。言うまでもなく、菊地はそんなものを意識せずに戦うだろうが、期待するのはこちらの勝手だ。そして、今の菊地ならそこまでの難業でもないだろう。それが実現したとき、我々はさらに強く、菊地の重厚な強さを実感するだろう。大きな興奮とともに、ネオ菊地孝平を改めて知ることになるのだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)