茅原王国、誕生。
12Rグランプリ優勝戦
①白井英治(山口)12
②井口佳典(三重)06
③太田和美(大阪)03
④菊地孝平(静岡)03
⑤石野貴之(大阪)08
⑥茅原悠紀(岡山)11
メモリアルで白井英治が、ダービーで仲口博崇が「SGにもっとも近い男」という称号を返上した今年の後半。そのダービー優勝戦で2着に入り、新たに「SGにもっとも近い男」と呼ばれるようになった若者が、わずか2カ月でそれを返上して見せた。
その予兆はあり余るほどあった。ダービー準Vの後の下関チャレンジカップだ。茅原悠紀は道中の競り合いで艇聖・瓜生を抜き、王者・松井をも抜き去り、智也と石野を二段まくりで引き波にはめた。毒島とのデッドヒートにも競り勝った。誰もが、ぐんぐん追い上げる茅原の姿に目を奪われた。その得体の知れないターンスピードは、今までに見たこともないほどの速さだった。突然変異と言ってもいいモンキーターンの進化。異次元のスピードで競り合う茅原と毒島を見て、私はこんなことを書いたはずだ。
「近い将来のグランプリファイナルの前哨戦」と。それから3週間後の今日、毒島はファイナルにいなかったが、茅原があっさりと艇界の頂点に立った。6コースから、異次元スピードの根っこ差しで。
レースを作ったのは、浪花の怪物・太田和美だ。意表の3カド。直前のスタート練習ではすべてスロー起こし、スタート展示でも何食わぬ顔でスローの3コースを選択したが、本番で迷いなく舳先を翻した。そして、コンマ03! 恐るべき勝負根性だ。もちろん、そのまま一撃のまくりが決まってもおかしくない電撃の奇襲だった。が……。
さらにレースを激しくしたのは、2コースの井口だ。まくられたらひとたまりもない井口は、体当たりでブロックした。たまらず太田が横に弾け飛ぶ。勝負根性の太田、闘争心剥き出しの井口。ふたりの持ち味が水上で交錯し、グランプリの座から零れ落ちた。
この火花散る展開で、一気に栄冠に近づいたのが菊地孝平だ。太田と同じコンマ03でがっちりマークし、2艇の大競りを尻目に完璧な角度でまくり差した。必勝形の展開だった。おそらく菊地自身も、ズッポリ抜け出した瞬間に勝利を確信したはずだ。そして、内を見てビックリしたに違いない。そこに、緑のカポックがいた。
スタンドから内コースの争いだけを見ていた私は、茅原の戦法は全速のまくり差しだと思っていた。後からリプレイを見て、唖然とするしかなかった。茅原は、内の石野貴之が握るのを待ってから、一目散にターンマークを目指していたのだ。根っこ差し。ありえない。コンマ03から絶好の展開でまくり差しを突き刺した菊地と、コンマ11から他艇が動くのを待って最内差しに構えた茅原。私の常識では、この差しが届く道理がない。それが、届いた。今日の展開から、根っこ差しで勝てるだけのスピードを持っているレーサーは、おそらく茅原悠紀しかいない。やっぱり今日も、“異次元”としか表現できない6コース差し抜けだった。
ここ数年、誰かしら若者がSGを優勝するたびに「世代の交代」が囁かれたが、今日は確信を持って言いたい。間違いなく、新しい時代が到来した。進化したモンキーターン、異次元のスピードに裏打ちされた新しい時代。今日の茅原のグランプリターンが、若いレーサーのスタンダードになるのだ。「王国の茅原」から「茅原王国」へ。それは、単に岡山支部というのではない、全国規模の王国になるだろう。瞬きする間もなく、新しい時代のうねりが到来した。
嗚呼、それにしても、ちょっとこの王国の勃興は早すぎるんでないのかい、茅原ぁ! 「近い将来」とは言ったけど、「それが今年の12月23日でも驚かない」とか書いたけど、今日だけは勘弁して欲しかったなぁ。
師匠のことは、書かない。本人の悔しさ哀しさを、代弁できるはずもない。師匠がきっとそうするように、私もこれからただひたすら自棄酒を煽る。(photos/シギー中尾、text/畠山)