BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――今年最初のSG準優

 

 

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 優勝戦共同会見は、準優がひとつひとつ終わったごとに行なわれる。10R後に桐生順平と守田俊介、11R後に中澤和志と石野貴之、12R後に毒島誠と仲口博崇、といった具合で、1着選手はJLCの勝利者インタビューがあるから、2着の選手から行なわれていく(今回で言えば、守田がトップバッターで、毒島が大トリ)。

 ということはつまり、10R組も11R組も、優勝戦の枠番がわからない状況で行なわれるということになるわけで、しかも現代ボートレースは、また特に準優勝戦は、インが強いから、10Rの1着選手も11Rの1着選手も、可能性はあるとわかっていながらも「自分が優勝戦1号艇」ということをあまり想定していなかったりする。桐生も、なんとなく篠崎元志や仲口が逃げ切ると想像しつつ、会見に臨んでいるわけである。

 盟友とでも言うべき毒島が12Rを勝った瞬間、桐生の1号艇が決まっている。桐生はいったいどんな思いで、毒島を出迎えただろう。一方で、やはり同じニュージェネレーション・スーパースターのTシャツをもつ篠崎元志が11Rで敗れたことも、桐生の1号艇に一役買っている。それをどんなふうに捉えているだろう。

 桐生は一昨年のオールスターで、すでにSG優勝戦1号艇を経験している。しかもスタートで後手を踏んで敗れるという巨大すぎる悔恨も味わっている。もう震えることはないと思う。実際、10R後の桐生も12R後の桐生も、表情は淡々としたものだった。まあ、本心を全開にする場面をあまり見かけない男だけに、その内心に別の思いもあるかもしれないが、少なくともいきなり緊張感が襲ってきたなんてことはないはずだ。

 

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 とまあ、勝者はわりと淡々としていたりするものである。会心のまくり差しをぶち込んだ毒島誠にしても、充実感を表情にみなぎらせつつ、ごく自然にふるまっていた。感情を表情に出すことの少ない中澤も、祝福されればニコリとしてはいるが、それ以上弾けていくことはない。ボートレースでは勝者も敗者も戻ってくる場所は同じ。陸に上がった瞬間、真横でエンジン吊りを行なっているわけである。だから、敗者への配慮もあるわけである。ハイタッチなどが見られることも少なくはないものの、特に中澤はそれをするタイプではない。

 

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 毒島に関しては、会見で「明日は2コース?」と問われたときの反応が印象深かった(12R組なので、枠番はすでに判明している)。

「いやいや、それはわからないですよ。いろいろあるから」

 そう言って、ニヤリとしたのだ。もちろん、ピット離れで何かがあれば、並びは変わりうるものである。毒島がバナレでいきなり飛び出して、明日インを獲り切ったっておかしくはない。だが、これは明らかに、3日目を受けての反応である。枠なりだと油断していたら、いきなり前付けに来られて1号艇なのにインを獲られそうになることだってある。毒島のなかではやはり、あれは大きな大きな出来事だった。教訓にもなった。そして、あれを失態と捉えているかもしれない。

 毒島の言葉は「2コース死守したい」と続いた。毒島はもう、待機行動の間だって気を抜いたり、思い込みや決めつけに走ったりはしないだろう。明日はさすがに、自ら前付けに行くことはないだろうけど。

 

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 2着で優出組の表情に関しては、それぞれに特徴的だった。守田俊介は飄々としていたという表現が似合っている。コメントも基本、穏やかなものに終始している。機力については「人よりすごく出ていくことはないが、いいところでバランス取れてる」。まあ無難なコメントだ。

 ただ、ちょうどそのコメントを守田が口にしているときに、瓜生正義が会見場の後ろに置いてあった荷物をとりにきている。視界を遮らないようにと、ひたすら腰をかがめて移動しているあたりが瓜生らしかったが、守田のコメントを聞いて一言、まるで本音を代弁するかのように「あんまり出てないです」と言ったのだった。まあ、後方にいた報道陣を笑わせようとしただけかもしれないが(笑いました、私)、なんとなく気になる一言なのであった。

 

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 対照的だったのは、仲口博崇と石野貴之だ。まず、仲口は会見の間、終始、微笑を浮かべていた。もちろん自然体に見えたのは、好材料である。でも、逃げ切って1号艇ゲットだった場合はどうだったんだろう、とも思った。微笑んでいたとしても、そこに違いはなかったのだろうかと想像をめぐらしたりもした。どうなんでしょうね。

 一方、石野は会見の間、終始、引き締まった凛々しい表情を貫いた。もう、気合パンパンなのだ。実際、「明日は気持ちを切らさずにいく」と、集中力や闘争心が横溢していることをうかがわせる言葉も口にしている。カッコいいなあ。ここ一番での石野は本当に強い。それは、テクや足ももちろんのこと、この気持ちの強さにあると僕は思っている。

 

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 で、表情は対照的でも、コメントに共通点があった。

仲口「ピット離れがよかった。出ればひとつでも内に行く感じ。3コースか4コースだと思う。外に出るつもりはない」

石野「コースはわかりません。そのまま(枠なり)では面白くないので、一晩しっかり考えます」

 さあ、どうなる優勝戦の進入。カギを握るのは間違いなくこの二人。今夜、畠山と飲みながらおおいに語り合うとしよう。

 

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 敗者も少し触れておこう。印象に残ったのは、松井繁の憮然、篠崎元志の硬直、前田将太の落胆だ。

 松井の憮然は、昨日とは少し違う。昨日は不運な大敗だった。今日は、自らスタートを決め、自らまくりを打ち、しかしそれが篠崎の猛烈な抵抗を受けて、飛ばされてしまった。松井は能動的に勝ちをもぎ取りに行ったのだ。あの隊形になったら張られる、というのは歴戦の王者なら覚悟していただろう。だから、そこに因縁のようなものは残らない。崎がピットに上がってすぐに頭を下げに来たとき、松井は即座に右手をあげて応えているのだ。だから、憮然たる表情とは純粋に敗戦したことへのたまらない悔しさである。それを噛み締めている王者は、やっぱりカッコいいのだ。

 

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 篠崎に関しては、1号艇であったことが表情を硬くさせた。結果的に不良航法をとられていて、それも痛恨には違いないが、それ以上にあの対処しかできなかったことが、悔しくてたまらなかったはずだ。もっとスタートを行っていたら(タイミング的には松井と互角。2コース西川昌希がややヘコんだことは不運だったか)、もっと仕上げを万全にしていたら……そんな思いも脳裏にはあっただろう。1号艇の敗戦は、舞台が大きくなればなるほど、キツい。もし逃げていたら結果的に優勝戦1号艇だったと思えば、なお表情は硬くなっていくに決まっているのである。

 

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 前田の落胆は、よくわかる。10R、いったんは2番手に上がっているのだ。3周1マーク、2番手争いになっていた守田が握ってきた瞬間、前田はそれに対処する旋回をしようとしたそうだ。ところが、内からきていた平尾崇典ともつれるようなかたちになってしまう。

「守田さんと2艇旋回をずっとしているつもりでいたら、内にいたんですよ。正直、平尾さんにはぜんぜん気づかなかった」

 つまり、明らかな己のミスで優出のチャンスを逃してしまったのだ。これは悔しいに決まっている。外にばかり意識が向いていたことを、強烈に後悔しただろう。

 前田とJLCキャスターの前田くみ子さんとの前田コンビで話しているところに割り込むようなかたちで話をさせてもらったのだが、まず見かけたときも、僕が加わったあとも、前田は通路の柱をずっと抱きしめて、寄りかかるように力を抜いていた。もうほんとにやるせない、ってな感じなのだ。まえくみとくろすだのお姉さんお兄さんコンビ(誰だ、笑うのは)で慰めても、まえしょうは柱を抱きしめたまま。時間が経つほどにつのる後悔は、前田の肩をどこまでも落としていったのである。

 でも、僕は知っている。こういう負け方で優出を逃した選手が、けっこう近いうちに教訓を生かして優出するケースを。オールスターかグラチャンで優出したあかつきには、きっとこの日のことを改めて思い出すだろう。これがあったから、前田将太は一段強くなったのだということを改めて知るだろう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)