BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――凄いモノを見た

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171218171007j:plain

 これほどみんなが同じことを口にしているピット、というのは実に珍しい。顔見知りの記者さんと目が合えば、「反則だよね」「まったく」「えげつないよね」「凄すぎ」。このやり取りを、11R後のものの10分ほどの間に何度繰り返したことか。それほどまでに、11Rの今村豊の勝ち方は衝撃的だった。

 整備室内のモニターでレースを見ていた渡辺千草と高橋淳美が、苦笑いしている。声は聞こえてこないが、「今村さん、出過ぎでしょ」の類いの言葉に違いない。あまりにも図抜けたものを見ると、人は笑うものである。今村のパワーは、まさしく突出しすぎたものであった。

 エンジン吊りでも同様で、11Rメンバーが戻ってくるのを待機している選手たちも、それぞれに笑みを浮かべながら話し合っている。報道陣の間で行なわれていたようなやり取りが、選手間にもあったわけだ。

 

f:id:boatrace-g-report:20171218171038j:plain

 もっとも万感こもった言葉を口にしていたのは、もちろん一緒に戦ったメンバーだ。

「もう、出方が違いすぎる。グーーーンと行かれてしまった」

 そう語ったのは、今村のひとつ外からのレースとなった平岡重典。普通であれば、今村の外というのは美味しい位置である。今村がパワー任せに攻めてくれれば、差し場が生まれる可能性が高いからだ。しかし、その今村についていけなかったら意味がない。差して舟券圏内の争いには持ち込んでいたが、その展開を思い描いていたわけではなかろう。隣からグイーーーーンと伸びていった今村を見ながら、平岡は唖然とするほかなかった。結果4着だったが、平岡は悪くないと思う。

 

f:id:boatrace-g-report:20171218171057j:plain

 ほぼ同じ言葉を口にしていたのは、亀本勇樹だ。亀本は4号艇だったが、6コースに出て、単騎ガマシとなっている。今村のひとつ内というのは、これはもう、美味しい位置であるはずがなく、むしろいちばん最初に叩かれる可能性が大きいポジションだ。それを嫌ったのだろう、亀本は今村の作る展開に乗る作戦に出た。

「カメちゃ~~~ん! 失敗したなっ!」

 沖悟がめっちゃ人のよさそうな笑顔で慰めると、亀本はがっくりとうなだれた。その様子をみながら、周囲の選手たちがおかしそうに笑う。カメちゃんの気持ちはわかる、でも相手が悪かったよな、と仲間の笑顔が語っていた。

 

f:id:boatrace-g-report:20171218171116j:plain

「一緒に走りたくないよ~」

 濱村芳宏は、悲鳴をあげていた。濱村は1号艇、インコース。当然、今村の存在は気にしていただろう。スタートが速かったのは、今村のひとつ内、スリット勝負で対抗しようとした柳田英明で、まず視界に入ったのはそちらだろうが、いずれにしても濱村は外に気を使わねばならず、結果的にやはり飛んできた今村にまくり差されて、1号艇を活かすことができなかった。そりゃもう、めっちゃ間近ですごいのを見せつけられちゃったわけだから、対戦を避けたくなるのが人情というもの。今後、勝ち上がりの段階で戦わねばならぬ場面があるかもしれず、それが優勝戦ともなれば特に、なんとか攻略するべく頭をひねることになるだろうが、それでも「一緒に走りたくない」はやっぱり本音に違いない。そしてそれは、他の選手の多くも感じていることであろう。

 

f:id:boatrace-g-report:20171218171135j:plain

 もっとも大きな衝撃を受けたのは、篠原俊夫ではなかったか。ターン出口、篠原の差しはしっかり入っていたし、たしかに舳先は今村より前にあったのだ。しかし、瞬く間に前に出られて、2マークに辿り着くころには余裕で1艇身以上、突き抜けられてしまった。張り気味に逃げた濱村を見据えて巧みに差したはずなのに、あっさりと今村に突き放されてしまったのだから、お手上げである。

 篠原は苦笑いを見せており、両手をボートに見立てて、どれだけ伸びられたかを語りながら、やっぱり苦笑を浮かべるのだった。そりゃもう、笑うしかない、ですよね。悔しいとか悔しくないとかよりも、その強力すぎる足色に脱力するしかないというところだ。

 それほどまでに、ミスター超絶パワーに塗りつぶされてしまった終盤のピット。負けてしまった人も、それを見た人も、ある種の感動を覚えた。感動については、語り合いたくなるのが人間である。だから、みんながみんな語り合った。こんな光景、見た記憶がまったくないぞ。

 

f:id:boatrace-g-report:20171218171157j:plain

 ミスターに目と心を奪われて、なんとなくかすんでしまった感覚になってしまうわけだが、その前の10R、熊谷直樹の3カドまくり差しにも、ピットは華やいでいたのである。3号艇の西島義則を入れての3コース。あるかもな~、3カド。そう思った方も多かったのではないか。もちろん、あったわけである。

 熊谷を出迎えることになった関東勢は特に、熊谷を称える言葉を投げかけていた。熊谷は顔をくしゃくしゃにしていた。鋭い表情は迫力ある北海のクマだが、笑うとなんともかわいらしいというか、人のよさそうな感じになるんですよね~。それを見て、周囲もまた笑う。熊谷らしいレースぶりは、周囲の人を上気させていたものだった。

 

f:id:boatrace-g-report:20171218171214j:plain

 その一方で、沈められてしまった西島義則は憮然たる表情を見せ、エンジン吊りをさっさと終わらせると、早足でカポック脱ぎ場に向かい、メンバーとレースを振り返り合うこともなく、控室へと消えている。これもまた、カッコ良かった。勝負の鬼らしい、ふるまいに見えたのだ。

 そう、10Rも名勝負だった。今村のアレがなければ、こっちを詳しく書いていたかもな~。とにもかくにも、今村は凄いモノを見せて、我々はそれを目の当たりにした。まさしく超ド級の名勝負が、児島水面に浮かびあがったのである。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)