BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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準優12R 極私的回顧

 

崇高な大乱闘

 

12R 並び順

①今村 豊(山口)05

④西島義則(広島)24

③山室展弘(岡山)03

⑤矢後 剛(東京)08

⑥小畑実成(岡山)10

②平石和男(埼玉)16

 

 ピットアウトから2周1マークまでの2分間。名人戦史上、いや艇史に残る激闘だった。おそらく、賛否両論があるだろうが、私は諸手を挙げて「稀代の名勝負」として脳みその襞に深く刻み込む。

 予選から無傷の6連勝。今節、絶対神として君臨するミスター今村豊を脅かすには、何をすべきか。ライバルたちの気迫が、レースのはるか前から私の耳目を刺激した。まずは9R後のスタート練習。重要なリハーサルとも呼ぶべきこの特訓に、山室と西島は姿を現さなかった。その真意はわからない。わからないが、私は「今村豊に作戦を見せたくないからだ」と勝手に判断した。

 すでに戦いははじまっている。

 神出鬼没の個性派ふたりがいない水面なのに、逆にピリリとした緊張を感じた。そして、そのスタート特訓、外から行った矢後の艇が面白いように伸びていた。

 20号機って、こんな伸び型だったっけ?

 思っているところに、「矢後、チルト3度」の情報が舞い込んだ。さらに緊張感が高まる。

 このレース、どんなことになる?? 

 背筋をゾワっとさせつつ、心はときめく。枠なり3対3、オールチルト-0・5とは、まったく異質な世界。人知を超えた、妖怪たちの饗宴。それが、間もなくはじまろうとしている。

 とかなんとか期待しぎると、本番は意外に淡白で「あららん」なんて思うことも多いのだが、このレースは期待を裏切らなかった。いや、期待を超えるものだった。

 

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 ファンファーレ。ピットアウトから西島が徐々にスピードを上げ、モンキーで小回り防止ブイを旋回する。平石が飛びつくように抵抗し、小畑もスロー水域に陣取る。ここまでは想定の範囲内。ここからだ。「このままでは深くなりすぎる」と判断した小畑と平石が、スロー水域を捨てて回り直した。

 3コースは山室か。

 目を向けると、山室は真横にではなく、ピット方面にゆっくり艇を流していた。本人は4、5コースあたりを決め込んでいたようだが、この時点で山室の3カドが確定してしまった。そしてそして、あろうことか、その隣の4コースはチルト3度の矢後!! もう、何が何やら……。 

 

 

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 頭をくらくらさせつつ、再びイン水域に視線を戻す。ミスターと西島の2艇だけが、ずんずん深くなっている。スタート方向に流れてゆく2艇と、ピット側に向かってゆく4艇と……とてつもなくスリリングな進入隊形が生まれようとしていた。そして、12秒針が回る直前に、それは生まれた。

 進入隊形14///3562!!

 ミスターと西島は、すでに90mあたりまで流れている。3カドの山室が、ピットの手前に到達した。その隣、4コースにチルト3度の矢後。こんな進入、見たことないし、もう二度と見られないだろう。

 これぞ、競艇だ。

 心を震わせながら、思った。絶対的強者を打ち破るべく、他の5人がそれぞれ秘策と秘術と機転をこらして生まれた、奇跡的な待機行動。もはや、大本命のミスターには、そのオッズに値するだけのアドバンテージはない。12秒針が回り、たっぷりと助走距離をとった4人が一斉にエンジンを噴かした。内のふたりは、まだ動けない。動けないまま、80m付近に到達した。外からぐんぐん4艇が押し寄せる。3カドの山室も、チルト3度の矢後も、遅れた気配はない。4艇のエンジン音が近づいてから、やっと内の2艇はレバーを握った。しかも、西島の方がワンテンポ遅れて。

 ふたりとも、呑み込まれる!!

 

 

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 そう思った。西島はもちろん、ミスターまで一気に呑み込まれるスリット隊形だった。だが、そこからミスターの46号機が唸りを上げた。伸びる伸びる、伸び返す。1マークの手前、ミスターと3カド山室は少し離れて舳先を並べていた。山室が放ったのだとしても、ありえない伸び返しだ。ただ、2コースの壁がない。勇躍、山室がまくり差しのハンドルを入れる。ミスターが、委細構わず先マイを打つ。

 刺さるか、残すか。3-1か、1-3か。

 

 

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 思った瞬間、凹んでいた西島が山室に突進した。たまらず、山室が流れる。西島の艇もその反動で尻餅をつく。その間隙を突いて、小畑がスパーーンと活きのいい差しハンドルを突き刺した。地元の岡山勢としては、優出レーサーが山室から小畑に入れ替わった形だ。瞬く間に1-6態勢が固まった。舟券の当否はともかく、ほとんどの人たちがこのバック水面で緊張と興奮から解放され、一息ついたことだろう。

 だが、私は違った。ここからだ、と思った。小畑の5艇身ほど後ろにいたのが、西島だったから。1周2マーク、2周マーク……西島は、じわりじわり前との距離を狭めていった。昨日と同じように。そして2周2マークの手前、3艇身後ろから舳先を斜め左に傾け、ターンマークに向かって直進した。その突進が、ものの見事に小畑の艇の脇腹を捕えた。昨日の突進は「ほとんどダンプ」だったが、今日の西島は問答無用のダンプだった。小畑の艇が真横に流れ、西島が2番手に躍り出る。1周1マークと2周2マークで、西島はふたりの地元選手をやっつけてしまった。

 

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 これは……さすがに喰らうかな。

 思いつつ、私はここでやっと一息ついたのだ。

 いま、改めて思う。凄まじいレースだった。怒涛の前付け、回り直し、チルト3度で4コース、3カドでコンマ03、深インでコンマ05、1マークで突進、2周2マークでも突進。これぞ「水上の格闘技」と呼ぶべき大乱闘だった。乱れに乱れた進入や、西島の数々のやんちゃに対して、逆に「最凶のレースだ」と批難する人も少なからずいるだろう。いて当たり前だな。ボートレース&レーサーに何を求めるか、何をもっとも重視するか、その価値観は自由だし、全員が同じであってはつまらない。私がもっとも重視するもの、それは「自分の舟券を買ってくれた人たちのために、死ぬ気で勝ちに行く」という闘争心だ。ぶっちゃけ、それがファンのためでなく、自分自身のためでも構わない。その闘争心と闘争心が激しくぶつかり合うレースが見たくてレース場に足を運び、舟券を買っている。人道的、またはアスリート的な見地に立つ人からいくら反論されたとしても、この私の思いは一生変わらない。

 そんな私の価値観においては、今日のこのレースは頬ずりしたくなるほど尊いレースだった。そして、今日のようなレースだからこそ、今村豊という男の怖いほどの強さを知ることができた。他の5人のキャラクターもしっかり水面に反映されていた。全員、どれくらい負けず嫌いであるかも、手に取るようにわかった。6人の闘争心が余すところなくぶつかり合った、ミラクルな名勝負だった。

 

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 さてさて、今節最大の難関を自力で突破し、完全優勝へ王手をかけたミスター今村豊。もちろん明日も妖怪のような猛者が揃ったが……私の体感温度としては、西島が賞典除外になったことによって、その確率は何倍にも跳ね上がったと思う。北海の熊さんにとっておきの“秘策”でもない限り。(photos/シギー中尾、text/畠山)