BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――元志と竜太

 

 

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 たった今、水神祭が行なわれた。篠崎元志はこれが2冠目だが、前回がグランプリシリーズ。「シリーズは0・5Vだから」なんて冗談も選手間ではあるようで(賞金的には確かにそうだ)、これがほんまもんのSG初制覇みたいなもんだろ、ということで、仲間が煽ったらしい。すみません、写真はありません! 申し訳ありません!

 で、篠崎元志が言うには、「今日のレースは内容的にはどうかと思う」ということである。水神祭を待つ峰竜太も、「僕がへたくそだった。内容的には……」と己を責める。

 しかし、我々ファンから見れば、これは歴史的名勝負でしょう! あの“植木中道”も、植木通彦さんも中道善博さんも「失敗の連続だった」という。我々はデッドヒートが延々続くレースを名勝負と捉え興奮するし、舟券を持っていれば大絶叫モノなわけだが、選手の感覚は違うのである。これが面白いところだ。選手の感覚と我々の感覚のギャップ。これはきっと永遠に埋められない。

 

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 我々は、篠崎元志vs峰竜太の戦いを歴史的名勝負と称えよう! 2周2マークまではとにかくエキサイティングだった。文字通り、手に汗握った。これを演じたのが、1期違いの同世代で、ともに九州地区の次世代エースで、お互いに尊敬しあい、盟友と認識している篠崎と峰だったことに意味がある。きっと二人は、今後もこのような名勝負を繰り広げていく! それは実際に水面で、かもしれないし、出世レースのライバル同士として抜きつ抜かれつを繰り広げるのかもしれない。

 そう、今日は篠崎&峰時代の華々しい幕開けだ! もちろん全体を俯瞰すれば、ベテランはまだまだ強いし、下からも押上げはあるだろうし、中堅世代の充実ぶりも素晴らしい。だから、ボートレース界が篠崎&峰時代になったとはまだまだ思わない。だが、いずれ二人が頂点に立った時、その出発点はここだった、と振り返ることになるだろう。というわけで、まずは篠崎、峰、素晴らしい勝負をありがとう!

 

 だが、結果に関して言えば、あまりにも陰影がクッキリとした「明暗」であった。

 

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 篠崎は、明日の新聞すべてに書かれるであろう「グランプリシリーズでSG初優勝すると、SGはもう獲れない」というジンクスを打ち破った。しかも、メモリアルといえば、2年前、である。篠崎にとっての大きな大きな挫折となった、優勝戦F。あれがちょうど2年前なのである。その舞台でリベンジを果たし、2つめのタイトルを手にした篠崎。これはひたすらに嬉しい勝利であろう。表彰式では涙を流したけれども、それも当然のことだ。

 篠崎とは、昨日のピット記事に書いたとおり、レース後にグータッチを交わした。ところが、これがやけに力弱いのだ。拳を当てたら、篠崎の拳はふにゃりと崩れた。

「疲れてたんですよ~」

 篠崎は言う。だから、あとでもう一度、仕切り直しの力強いグータッチを交わしている。まあ、あれだけのデッドヒートだから、疲労感はあるだろう。それはわかる。でも、それだけだろうか、と僕は思った。

 心から、めっちゃくちゃに喜ぶ一方で、篠崎はライバルに気を遣ったのではなかったか。

 

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 そう、峰はまたしても悲願を逃してしまった。いったんは先頭を走った。しかし、逆転された。1号艇でも掴めなかったタイトル。その心中は、峰竜太を知っている者ならだれもが察するだろう。

 さよう、峰はレース後、号泣している。ピットに戻ってもなかなかヘルメットを脱げなかった峰は、その奥でもちろん泣いていた。もう何も見えない、何も聞こえないというくらいに、滂沱の涙を流している。

 今日はメダル授与式がある。準Vの峰は、これに出席しなければならない。しかし、関係者は峰を見つけられずにいた。峰はそのとき、控室の外、建物の陰で泣いていたのだ。報道陣が峰に言葉を投げるが、悔しい、勝ちたかったしか口にできない。報道陣も去って、峰一人になったとき、僕は峰の腰を叩きながら、慰めの言葉をかけ続けた。それでも、峰はただ、悔しい、獲りたかった、しか口にできなかった。峰がそのとき駆使できる語彙は、もうそれしかなかっただろう。ひたすらに泣く峰は、それでもメダル授与式のことを思い出し、着替えに向かった。その授与式がどうだったかは、ご覧になった方はおわかりだろう。

 

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 そんな峰の心中を誰よりも知る篠崎が、複雑な思いにならなければおかしい。

「後輩の僕が言うとおかしいけど、同世代の最高のライバルとして尊敬してきた。峰さんの気持ちを考えるとグッと来るものがある」

 篠崎は会見でそう語っている。最高の喜びに浸りながら、篠崎は峰の心中を慮った。泣き虫であることもよーく知っているはずだ。篠崎とのグータッチに、僕はそんな心境を感じ取って、そのことが僕の心をキューッと鷲掴みにした。痛かった。

 もちろん、篠崎はこの勝利を誇るべきだ! いや、そんなこと言われなくても、誇っている。水神祭は、同期の平本真之と下條雄太郎も一緒に飛び込んでいる。陸に上がって篠崎は、二人の肩を抱いて「サイコー!」と叫んだ。尊敬すべきライバルと激闘を繰り広げ、愛すべき同期とともに勝利を喜び合う。今日は篠崎にとって最高の日だ!

 

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 そして、峰には前を向いてほしい。水神祭を待つ間に話したこと。「僕は一歩ずつしか進めないんですかね」。2年前のオーシャン=先頭を走りながらやはり逆転で優勝を逃した一戦よりは、今日のほうが「獲れる!」という手応えはあったはずだ、と振ったこちらに肯いてみせたあと、峰はそう言ったのだった。それでいいじゃないか、峰竜太! 次の一歩で、きっとタイトルに手が届く! 優勝戦を1号艇で走ることができたのだから、次は逃げるだけではないか。そんな話をしながら、また瞳に涙が溜まっていった峰だが、それも含めて、峰竜太らしさというものがある。今日は酒飲んで、また泣いて、泣きながら篠崎を祝福して、また力強く次の一歩を踏み出せ! お疲れ様!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)

※他4選手のファンの方には、申し訳ありません。峰と元志ばっかり書いてしまいました。写真で失礼! 市橋卓士も中島孝平も下條雄太郎も坪井康晴もナイスファイト!

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