BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――優勝戦「名勝負」予報

 

 

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 落ち着いたものだな、と感心する。SG初準優で1号艇。しかしまったく怯んだ様子もなく、市橋卓士は逃げ切った。ピットに戻って来ても淡々とした表情で、むしろエンジン吊りに参加した今村豊や森高一真のほうが嬉しそうに笑っていた。もちろん、今村さんと一真様のツッコミを受けて、市橋も爽快に笑ってはいたが。その様子は、SG優出を何度も経験している選手のようにも見えたくらいだ。

「ここで満足してません。明日は一発狙っていきます」

 SG初優出で、力強くそう言い切ったのもすごい。こうした優出会見は初めての体験のはずなのに、戸惑うでもなく、堂々とふるまって、言葉もまたパワーを感じさせる。市橋には悪いが、戦前は、あるいは予選道中も、それほど気になる存在というわけではなかったが、この男、大物かも! 明日もおそらく、プレッシャーなどかけらも感じることなく、内に襲い掛かることだけを考えて臨むだろう。

 

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 下條雄太郎も同じだ。篠崎元志との同期ワンツーを決めて、ただただ嬉しそうに笑っていた(新田雄史が3着なら同期ワンツースリーだった。平本真之が残念そうにしてました)。SG初優出は当然ながら嬉しいこと。それを噛み締めていても不思議ではないが、下條はただただ笑っているのである。

 3日目に下條に聞いた「大村(オールスター)の経験」。地元SGでとてつもない重圧を背負った経験だ。あのときは準優6号艇だったが、地元勢としての責任を感じていただろう。だから、下條のイメージにはあまりない前付けも敢行している。それを経て、下條はSG初優出をただただ喜べる男になった。明日もきっと、4カドから一撃を狙ってピットインするだろう。

 センターで、SG初優出、しかしノープレッシャーの二人が牙を研いでいる。これは明日の優勝戦に確実にコクを付加する!

 

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 外枠には実績者が入った。坪井康晴はまったくいつも通り。つまり、落ち着いている。彼の優出する姿はもう何度も見てきたが、その振る舞いに変化は何も感じない。堂々としたものである。だからもちろん、明日も怖い存在。なにしろ、6コースは得意コースだ。

 そんなわけで、坪井の会見では別の発見にニヤニヤしてしまった。

「1マークはどうしようか一瞬迷ったけど、ハジメちゃんの頭が開きそうだったので、そこを狙いました。差し切れたと思ったけど、イッチーのほうが前にいましたね」

 師匠の原田幸哉が愛弟子の柳沢一をハジメちゃんと呼んでるのは聞いたことがあるが、全体的な愛称なんですね。市橋卓士はイッチーですか。坪井の淡々とした言葉のなかにそうした単語が入ってくるので、つい気になった次第です。

 

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 中島孝平は、ひたすら肝の冷える準優だった。「早いと思ったはいたけど、もしかしてとスクリーンを見たら、スタート判定中でした。これはやった、と。バックで竜ちゃんの姿は見えたけど、どうしようかなと。退避したほうがいいのかと。すぐ正常がついたんですが、ホッとしたのと、内から瓜生さんが来たので外マイしたことしか覚えていません(笑)」。あの中島孝平が、思いっきり動揺していたのだ。結果、コンマ00、タッチスタート。なにしろSG準優である。心が揺れても不思議ではない。

 それでも、しっかり2番手を獲り切るあたりがすごい。動揺しながらも冷静さを保てるのである。しかも、準優でこれをやったのも大きい。もう絶対に優勝戦では二の轍を踏むことはないだろう。つまり、より冷静に捌けるだろう。

 センターが一発狙って攻めて、外から腕達者が冷静に展開を突いてくる。明日の優勝戦は、やっぱりコク深い戦いになる!

 

 では、内2騎はどうなのか。九州地区の盟友であり、ニュージェネレーションの基幹的存在。かたやSG初制覇を願い、かたや賞金王シリーズ以外のSGを必ず獲ると強く決意している。もちろん、仲は良い。もし同じレースでなければ、声援を飛ばすのはまずお互いだろう。そんな二人が1号艇と2号艇になった。真っ向勝負! 明日の優勝戦を徹底的に濃密にするのは、峰竜太と篠崎元志だ。

 

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 篠崎は、先述の通り、まずは同期ワンツーを喜んでいた。下條とはグータッチを交わしている。それもあって、ひたすら笑顔だった。

 会見などを終え、モーター格納のためにピットにあらわれた篠崎は、こちらの顔を見て、誇らしげに目を見開いた。笑顔で親指を立てる。そして、拳を突きだしてきた。軽くグータッチ。しかし僕は「ちょっと待った。一日早い! 明日やろう!」と瞬間的に拳を引っ込めた。時すでに遅しで、すでに拳は合わさっていたが、元志はその言葉を聞いて、爽快に笑った。

 

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 一方の峰は、ひたすら安堵をあらわにしていた。顔つきは、分類すれば笑顔だが、疲労の色濃く、また苦笑すら混じったもの。笑顔といっても笑ってはいない、という言い方はややこしいかな。しかも、ピットに上がってすぐには、エンジン吊りに加われなかった。「ごめん、腕が動かない」。どれだけガッチガチに固まって、全身に力を入れまくって走ったんだ。勝てば優勝戦1号艇。それは峰に、やはり今までにない心持を経験させたわけである。

 そんな峰は、こちらの姿を見て、やはり笑顔だけど笑ってない顔つきで、「あと1回」と言った。そしてやはり拳を出してくる。僕は、今度はしっかりと拳を合わせた。峰の拳は力強かった。

 

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 元志には「明日!」と言って、峰とはしっかりグータッチとは、元志を応援しているのか、と言われるかもしれないが、ちょっと違う。元志との控えめグータッチは、「ここがゴールでないよね」の意味だ。峰とのグータッチは「優勝戦1号艇!」の意味である。つまり、「ついに時が来たぞ!」の意味だ。もちろん、峰にとってもここがゴールではない。

 峰とも元志とも、これまで多くの言葉を交わしてきた。いわゆる仕事でのインタビューはもちろん、ピットの片隅で雑談に近いようなかたちで、二人の思いを聞いてきた。元志の愚痴のようなものも聞いたし、峰が僕の前でだけ泣いたこともある。

 そんな二人が、明日、1号艇と2号艇で戦うのだから、僕としてはちょっとした感慨を覚えた次第なのである。しかも、レース後に同じアクションがあったので、いろいろと思うところがあったというわけだ。

 

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 二人のレース後の違いといえば、元志はひたすら力強く、峰は緊張継続中、ということになるだろう。僕は、それが二人の力を100%引き出す条件が整ったのだ、と思う。ようするに、元志らしさ、峰らしさがそこにある、のである。もし峰が緊張感から解放された感じだったら、むしろ勝てないと僕は思っている。

 センターにプレッシャーなく攻める若者がいて、アウトには百戦錬磨の手練れがいて、そして1号艇と2号艇に峰と元志がいる。これで名勝負にならなかったらおかしい。明日、午後9時前には感動が待っている! それは間違いのないことである。

 なお、明日はどんな結果になろうと、峰竜太の涙をお伝えすることになるだろう。今日の前半ピットで峰を激励すると、彼は言った。

「もし1号艇になったら、どっちに転んでも泣いちゃいますよ~~」

 うん、そりゃそうだろうね(笑)。というわけで明日はピットにタオルを忘れずに持って行こう。どっちに転んでも、僕もウルウルしちゃうのは間違いない(笑)。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)