ボーダーはどのへんになりそうかいな、という声はピットの報道陣からもちらちら聞こえてきていた。通常のSGより出場人数が少ないチャレンジカップ、ボーダーは当然下がる。昨年は5・00だったが、僕とてそう記憶していたわけではなく、調べてみてわかったこと。というわけで、僕もボーダーいくつよ?の会話に参加したりもしていたのだった。
選手はそのあたり、どこまで把握していただろうか。たぶん、ほとんど意識してなかったかも、と思う。たとえば、菊地孝平は10R5着で、明日は勝っても5・00には届かないことになった。ボーダーの上下はいくらでも起こりうるので決定ではないが、このままなら昨年のMVPがグランプリ出場を逃してしまった、ということになる。実は10Rは大きな大きな一戦だったのだ。
だが、レース後の菊地は、敗戦の悔恨こそ感じさせたものの、原田幸哉らと笑顔を交わしたりもしており、事の大きさを表現するような素振りはまったく見せていない。まあ、ふるわない成績にある程度の覚悟はあるだろうけど、そこが分水嶺になっていたことについてはほぼ実感していないようだった(というか、そのときは僕もそんなことは思っていないわけだが)。
原田幸哉も6着大敗については、なんか「笑うしかないよね」といった雰囲気。原田のほうは結果的に予選19位で3日目を終えることになっており、こちらは明日が勝負駆けとなるわけだが、通常のSGでボーダーを6・00とするなら、このゴンロクで原田は明日1着でもそこに届かないという状況になっている。昨年のチャレンジカップに原田は出ていないので、仮にボーダーは6点くらいだろという感覚でいたとするなら、特に10Rの6着は痛すぎる大敗なのである。これが通常のSGなら、笑うしかないような笑いというのは、つまりは「やっちまった」という性格のものになる。やはり普段のSGのようなボーダー意識があったとは思えないのだ。
逆に言えば、いまひとつ成績が振るわない選手が、明日のスポーツ紙などで得点表を見て、一気にモチベーションを上げるということもありうる。たとえば丸岡正典の3日目終了時点で15点というのは、4日目連勝でも6・00には届かない数字である。しかし、明日は2着2本で5・00には届く。地元グランプリへの道はまったく閉ざされてなどいないのだ。選手責任転覆がある坪井康晴だって、可能性はたっぷりと残されている。まあ、丸ちゃんの場合、それでも突如として気合を表に出すようなタイプではないけれども、内心燃えるものはあるはずである。
今日は宿舎でもボーダーの話はきっと出るんだろうな。JLCなどを見ながら、おおよそのボーダーを知る選手もいたりするだろう。あるいは去年のボーダーを調べてきている人もいたりして? いずれにしても、こういうSGがあってももちろんいい。もしかしたらこれがチャレンジカップの面白さのひとつなのかも、とちょっと思った。
ボーダーがハッキリとつかめないのと同様、得点率ランキングがどうなっているのかももうひとつ判然としなかった。これは、昨日まで快調だった峰竜太が今日は大きい着を並べたり、瓜生正義が選手責任の転覆をしたり、そんなこんなで好成績を並べている選手がほとんどいないという事情もある。1着数トップは太田和美の3勝だが、それ以外は4着と6着だったりする。
で、3日目を終わってみれば、池田浩二が3位。それを知って、なるほど、という思いになったりしたのであった。今節の池田は、ピットでの雰囲気が実に軽やかに見える。これが初日辺りから漠然と感じていたことで、今日はさらにその思いが強まった。表情も柔和であることが多いような気がするな。12R2着後も、谷川里江と笑い合ったりしていた。また、芦屋のピットが広いからということもあるのだろうが、走っている姿も普段よりもかなり多く見かける。ペラ室からスタート練習のスリット写真掲示板までが100mほどもあるから、急いでいるときなどは駆け足するしかないという事情もありそうだけど。池田が「オレ3位」とわかっていたわけはないが、しかし好手応えを感じていることは間違いなさそうなのだ。成績もまとまっていて、だから3位というのは腑に落ちる、という話。ちなみに、池田はチャレンジを優勝すると、SGグランドスラムに王手となります。池田の場合はシリーズも獲ってるから、達成したら究極のグランドスラム? そんな話をまた書くことになっても、ちっともおかしくはないぞ。
3日目終わっての予選トップは、中澤和志だ! レース前、報道陣用喫煙所で青山登さんと一服していたら、中澤が青山さんに声をかけにきた。「一節間泊まりですか? うわぁ、長いですねえ、それは」とのんびり言う中澤に、思わず「選手もでしょっ!」とツッコミを入れてしまいました(笑)。酒飲みに行けるだけ我々のほうが楽だと思いますけど。で、青山さんが中澤に激励の言葉を投げかけると、中澤は「まぐれが起これば、ですね」と笑って去って行った。レースが近づいている選手とは思えない、柔らかさ。そして呑気さ(笑)。
12Rはまぐれが起こったのか!? 青山さんとそう笑い合ったわけだが、いやいや、まぐれのわけがないだろう。しっかりスタートを決めて峰竜太をジカまくりで沈めたのだ。まぐれでできるこっちゃないでしょう。なにしろ得点率1位男なのだ。あなたの実力は誰もが知っている。青山さんによると、勝利者インタビューに向かう際にも青山さんに「まぐれまぐれ」と言って笑っていたそうだ。いやあ、なんかいい感じだなあ。このまま一気に頂点まで駆け抜けたりして。「まぐれまぐれ」とか笑いながら(笑)。
さて、女子。女子のほうは予選5日間なので、明日はまだ勝負駆けではない。それでも切羽詰まってきている選手もいるわけで、たとえば地元GⅡに参戦しており、地元クイクラに何としても出たい小野生奈は尻に火がついてきている。まあ、現時点で賞金ランク9位は、他の勝負駆け組の状況を考えても有利には違いないが、できれば自力で決めたいところだろう。
足は残念ながらとても上位とは言えない。だから小野は、ひたすら試運転と調整を繰り返している。レディチャンでも、ヤンダビでもそうしていたように、このレディチャレカでも連日、最後の最後まで試運転を続けているのだ。足合わせをしていた中野次郎との会話で「出足はマシになったけど」という言葉が漏れ聞こえてきている。確実に上昇気配にはあると思われる。得点率は16位。相当に厳しい状況にはなってきているが、この努力が報われて欲しいと願うばかりだ。
賞金ランク13位で地元クイクラに出るためにはまず優出しておきたい日高逸子は、今日の11R逃げ切りで得点率9位につけている。明日はさらにポイントアップしておきたい一日であるが、ポイントとなるのは1R6号艇という点か。もちろん前付けがありそうだが……。
で、それを知った日高さん、勝利者インタビューを終えて控室に走って戻りながら、「明日は1R、どうしましょ、どうしましょ」とか独り言を言っておりました(笑)。調整の時間、少ないですからねえ。その点で不安があるのは理解できる。ただ一方で、そんな独り言が出るということは、今日の1着で(あるいは機力的にも)気持ちは高まっているんだろうな、とも思った。まあ、そんなことより、どうしましょとか言いながら走っているグレートマザーはかわいかったです。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)