BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――予選最終日、選手は勝利のために走る

 

 

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「1等なら1号艇らしいんですよ」

 11R発売中、展示準備に向かう笠原亮が声をかけてきた。慌てて資料を確認すると、たしかに1着なら予選3位以内は確実。11Rの結果を受けて最終的に、他の選手の結果次第では3着でも1号艇が回ってくる可能性があった。

 ここで大事なのは、笠原が「らしい」と言っていることだ。つまりそれは自分自身で自分の得点率と他の選手の得点率を比較していたものではない。おそらくその前に報道陣に教えられたのだと思われる。あのときもそうだった。チャレンジカップ4日目だ。前半のレースを終えて暫定トップに立った笠原。そのことを伝えたのは、何を隠そう、僕だった。笠原はそれまで、自分の立ち位置を把握していなかったのである。

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 11R後、エンジン吊りも終わって、資料片手に得点率を整理していると、背後から誰かが覗き込んできた。田村隆信だ。「僕、どうですか」。自分の名前を探す。その時点で、田村は3位。そのすぐ下に、笠原がいた。「笠原さん次第かあ」。笠原は2着で田村を追い抜く計算だった。

 いや、ちょっと待て。そのすぐ下には12R出走組の深川真二と原田幸哉。笠原が3着以下に敗れたとしても、深川と原田次第では話が変わってくる。またまた慌てて計算すると、その3人が2着以上なら、田村は予選4位以下となる。

「ということは?」

「3連単①-②-⑥なら1号艇です」

「応援しますか(笑)」

 ◎深川だったので背筋に冷たい汗が走ったが、田村はもちろん本気で言っているのではなく、田村流のジョークである。というより、ここでもやはり、選手が得点率を完全には把握していないことが明らかとなる。細かく計算している選手がいないとは断言しないが、選手は得点率のために走るのではなく、勝つために走るということである。

 

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 そうは言っても、さすがに坪井康晴は「勝てばトップ通過」とわかっていたのではないだろうか。出走表をざっと眺めただけで、オール3連対は自分だけだとすぐにわかる。前半差して快勝し、11Rは1号艇なのだ。クレバーな坪井のことだから、あと3回逃げれば……と理解していた可能性はおおいにある。もちろん報道陣に教えられたかもしれない。

 坪井はすでにSG予選トップを経験している。なにしろSG初優出がそうだった。それも地元。10年前の若き日に、このプレッシャーをクリアしている。敗れはしたが、グランプリ優勝戦1号艇も経験した。だから、今日の時点ではまったくいつも通り。勝って上がってきたときもそうだし、その後も淡々としたものだった。僕と目が合うと、ニヤッと笑ってみせたりも。余裕のたたずまいである。

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 では、ボーダーについてはどうか。選手は把握しているのか。これも微妙と言うしかない。今回のボーダーは6・17となった。11R、萩原秀人が2着。これで6・00となっている。これはもっともよくあるボーダーで、選手たちもおおよそそれくらいを目安としている。しかし、今日はこれでは届かない。少なくとも自力では、18位以内には入れない。ピットに上がってきた萩原の表情を見て、彼がそれを理解していたかどうかは察し切れなかった。しかし、まったく安堵している様子はなく、むしろ複雑な顔つきと見えている。「細かい条件はわからないが、とにかく1着なら大丈夫」くらいの感覚でレースに臨んでいたか。節イチ坪井に対して果敢にまくっていったレースぶりにも、そんな心象がうかがえる。

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 12Rでは、5~6着がゴールで大接戦となっている。先の笠原と原田幸哉。笠原が6着なら6・33で、文句なしに当確。問題は原田で、6着なら6・17。11R終了時点では6・20がボーダーだったので、これを下回ることになる。原田は6着だけは避けたいところだったのだ。実際は、その6・20がやはり12R出走の松田祐季で、4着ゴールの時点で(4番手を3人で争っていたから、その時点で)アウト。結果的には、原田は完走当確であった。しかし、もちろんそれを、原田は把握していない。

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 というわけで、原田はまず報道陣に何かを確認。さらには松井繁にまで質問を投げている。王者は「ごめん、わからへんねん」。その問いかけが「どっちが5着、6着?」だったのか、「俺、準優オーケー?」だったのかは判然としなかったが、まあどちらも内容は似通っている。そして、5着6着も一見しただけでは断言が憚れるような差だったし(内外離れていた。また、松井はゴールする前にエンジン吊りに向かった可能性もある)、他支部の選手の得点率の状況をいちいち気にしているとも思えない。

 先ほど、選手は得点率のために走るのではない、と書いた。しかし、勝ち目が薄くなったときの道中は少し違うということになるだろうか。予選を突破しなければ優勝の目はない。だから、とにかくひとつでも前に! そして、なんとか18位に残ってくれ! そんな思いが浮かぶこともある、ということだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)

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※46歳にしてボート歴30年以上というK氏が「幸哉のターン、変わってきてません?」と言うので、本人に聞いたところ、「意識してるわけじゃないですけどねえ。でも、ペラに合わせていろいろなターンをやるようにはなってますね。昔のターンにこだわっていると、時代に取り残されてしまいかねませんから。今までやらなかった、右に体重を思い切りかける乗り方もすることありますしね(幸哉は左に体重をかけて旋回するタイプなのだ)」。ペラ制度もモーターも変わって、ボートレースは常に動いている。それにいかに対応できるかも、トップクラスでいつづけられる大きな要因なのだろう。