津の試運転は11R発売中まで。その旨が書かれた貼り紙も掲示されている。その11R発売中に水面に出ていた選手が、多いこと多いこと! 朝のピットとまでは言わないが、水面からエンジン音がピット内に響き渡っており、11Rの時間帯とはとても思えなかった。12Rに向けて徐々に静寂が増していくのが一日のピットの流れなのに、今日はまったく様相を異にしていたわけである。
水面を眺める。淺田千亜希と岸恵子の渦潮レディースコンビが、併走して1マークのほうに突っ走っていった。淺田は予選突破組で、岸は無念の予選落ち組。明日の境遇は変わってくるわけだが、しかし明日のレースに向けての準備をする姿勢は何も変わらない。結果的に予選突破を果たした選手では竹井奈美も水面に出ていたが、その多くは予選落ち組。優勝候補の一角だったはずの大瀧明日香もその一人。塩崎桐加も、地元GⅠの残り3日間を悔いなく走るべく、夏の日差しを浴びながら走る。堀之内紀代子も試運転を続け、引き揚げてきたときには髪の毛が汗で濡れていた。
驚いたのは、佐々木裕美だ。佐々木が走ったのは9R。長嶋万記が逃げ切るのを記者席で見届けてピットに向かったのだが、到着したときにはすでにギアケースを外していた。もちろん「試」のプレートがボートについている。ふたたびギアケースを装着して水面に出ていったのは3時10分。9R締切が2時41分、発走が43分頃でレースが約3分、戻ってきてエンジン吊りまでが5分ほどと仮定すると、それから20分も経たずにギアケース調整をしてふたたび水面に出たことになる。成績は完全に這ってしまっているが、懸命の努力を続けているのだ。もちろん11R発売中も走っていた。
樋口由加里にも驚いた。11R発売中にボートを揚げたので、これで試運転は終わりかと思ったら、試運転用のプレートを樋口は外さない。操縦席に乗り込んでキャブレターをチェックすると、ふたたび水面へGO! 納得できるまで乗り込みを続けたのである。試運転ラストの時間にいったんボートを揚げたのにまた出ていくなんて、ほとんど見たことのないシーンである。
いちばん最後まで試運転を続けたのは渡邉優美。樋口と足合わせをし、樋口が先に終了したあとも、3~4周、単走でコースを周回した。結果的に渡邉は次点に泣いた。12Rの結果次第では滑り込みの可能性もあったが、それはかなわなかった。渡邉がどこまで状況を把握して、どんな思いで12Rを見ていたかはわからないが、少なくとも11Rまではそうした状況など関係なく、今日の6等を悔やみ反省して、調整を施した後に徹底して乗り込んだわけである。津の女神さまは微笑んではくれなかったけれども、そんなこともやはり関係なく、渡邉は今日できうる限りのことをしたわけである。
勝負駆けの日に、何を試運転の話ばかり、それも予選落ち組のことを書き連ねているのだと言われるかもしれない。ただ、明日以降も彼女たちの戦いは続く。11Rで、1着でも予選落ちが確定していた高橋淳美が1分49秒9という今節の2番時計で激勝したように、こうして努力を続けた選手たちがどこかで穴をあけてくれる可能性は充分にある。試運転を続けるというのは「エンジンが出てない」という事実と表裏一体ではあるが、これを続けていくうちに一変することだってないわけではない。もちろん水面に出ていなかった選手たちだって、ペラ調整などで奮闘している(新田芳美のように本体整備をしていた選手もいる)。一般戦も彼女たちの頑張りを胸に、熱く見守りたいと思った次第である。そうそう、高橋が勝ってピットに上がってきたときには、たくさんの選手が祝福の言葉をかけていた。高橋はそうした声に快活に応えながら、「やっと勝てたわよぉ~」とばかりに目を細めたりもしていた。明日以降も、一般戦になるが、そんなシーンを見る機会がきっとあるはずだ。
さて、勝負駆け。終盤レースの印象としては、クリアした選手もそうでない選手もわりと淡々としているという印象を受けた。24位以下から圏内に浮上した選手は、8R以降にはほとんどいなかったので、歓喜がなかったのは当然か。また、無事故完走で当確の選手も少なくなかったこともあるだろうか。そうしたなか、はっきりと落胆が見えたのは松本晶恵。成績上位の有力選手がまさかの予選落ちで、10R後には暑さのためか真っ赤に頬を染めて悔しがっていた。首をひねってもいたし、痛恨の表情にもなっていたし、控室に戻る際にはうなだれてもいた。11Rのエンジン吊りでは、永井聖美や渡辺千草に歩み寄って、やはり首をひねりながら話しかけたりもしている。
同じような表情が見えたのは、予選突破は決めたものの、10R大敗で順位を落とした寺田千恵。浮かない顔をして、はあはあと息を切らしてうつむいていた。2周2マークのツッコミ気味の先マイなど、逆転に手を尽くしての5着大敗。疲労感は大きいはずだ。もちろん暑さのなかの激戦だったこともあるけれども。無事故完走で当確だったからといって、これで良しとはしないテラッチの姿にはさすがと唸るしかない。やはりこの人は明らかな格上である。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)