BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット@グランプリ――本質

 

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 トライアル2ndは3走あるとはいえ、短期決戦であることには違いなく、だから初戦2戦目も勝負駆けのようなものである。初戦で6着を獲ってしまった坪井康晴も、もちろんそのつもりで走った。昨日の枠番抽選で最後に1号艇が残っていたという幸運を、何としても生かさねばならない。今日の坪井は、初戦以上の気合で第2戦に臨んだ。

 引き波を浴びなければ、15号機のパワーはやはり素晴らしかった。1マークを先取りして堂々の先制。あとは危なげなく先頭を走っている。快勝と言える内容だったが、レース後の坪井は表情を緩めず。昨日のレース後の表情から悲壮さを取り除けば、今日の坪井の顔つきになる。つまり、坪井は1着の歓喜に酔いもしていないし、巻き返せた安堵に浸ってもいないのだ。

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 一方で、井口佳典の姿はただただつらいものだった。初戦6着、2走目5着。現システムになる以前から、トライアル3走のボーダーはおおむね21点前後になるので、2走9点の井口はかなり絶望的なところに立たされてしまった。実際の得点状況を把握していなくても、ゴンロクを並べれば非常に厳しい立場であることはすぐに察するだろう。何より、たった3走のうち2走で後方を走ってしまったことはひたすら腹立たしいことに違いない。だから井口は言葉もなく顔を歪め、やるせない空気を漂わせながら、テンションの上がらない枠番抽選へと向かうのだった。

 初戦6着からの巻き返しを期して1号艇で臨んだ二人の明暗。これもまた、グランプリの光景である。もう10年ほども前に、辻栄蔵が「グランプリの本質はトライアルにあり」と言ったことがあったが、それはこうした結果でも、レース内容、展開でも毎年のように痛感させられることだ。だからこそ、トライアルは輝きを増す。

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 そうした本質を今年初めて体験している篠崎仁志。なにしろ初めてだから、グランプリ戦士のルーティンもまだよくわかっていない。第2戦2着で、会見場に誘導されながら、「1着、2着が会見やるんですね~」と感心しながら話しかけてきている。そうなのだよ、仁志選手。こういうところからグランプリは特別なんです。明日は2着以内じゃなくても会見に呼ばれるかもしれないっすよ。明日は優出会見。4着でも呼ばれるかもしれないので、ご覚悟のほどを。できれば勝って会見、でしょうけどね。明日はまさしく勝負駆け。それもグランプリ優出の勝負駆けなのだから、これまでに経験したことのない領域に足を踏み入れることとなる。そこでまた、仁志は改めてトライアルの本質を知らされるだろう。

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 それを誰よりも知っているのは、言うまでもなく、松井繁である。今日の第2走はやや不運だった。桐生順平と航跡が重なり、後方から接触されてしまったのだ。これが響いて5着。明日は2着勝負となっている。これもグランプリ、と松井はわかっているだろう。この接触で、モーターにゆがみが出たことから、レース後は速攻で整備室に入って、本体を取り外している。組み直したということのようだが、こういう事態にも松井は慌てず騒がずだ。作業の途中、桐生がやってきて松井に頭を下げるシーンがあった。しかし松井は柔らかい表情を桐生に向けて、小さく何度か首を振っている。「ぜんぜんぜんぜん。気にすることないわ」ってな感じか。その悠然たる立ち居振る舞いが、王者の王者たるゆえんを見せていたような気もした。

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 本日のMVPとでもいうようなものがあれば、文句なしに菊地孝平だろう。5コースまくり一撃! JLCの勝利者インタビューや会見で「菊地孝平らしいレースを見せられた」と力強く語っているが、まさにザッツ菊地孝平。インの強い流れの中でもこれをやってのけるあたりが、稀代のスタートヒーローだ。

 これで暫定トップに立って、優出は当確。あとはトップを守り切って、黄金のヘルメットに王手をかけるのみだ。だというのに、最終戦の枠番抽選で引いた球はよりによってグリーン! さすがの菊地も深い苦笑いを浮かべて、おどけたように深く腰を折って一礼してその場を去っている。

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 ただし、会見ではこう言っている。「モーターでも枠番でも、抽選には左右されたくない。嬉しくはないけど、6枠でしっかりレースをしたい」。11月、BOATBoyでインタビューをした際にも同様のことを言っていて、特にモーター抽選で「良くないモーターを引いたからって、そこでダメだとか思ったら、1年やってきたことがむなしいじゃないですか」と、状況に惑わない強い心で戦う旨を語っている。菊地は「成長した菊地孝平を見てもらいたい」とも語っているが、もっとも成長した部分はまさにそこではないだろうか。そして、「6号艇を引いたら、とりあえず動こうと思って来ています。どの程度動けるかはわからないけど、ひとつでも内」とも語った。これは11Rで、1号艇を引き、勝てばトップ逆転が見えてくる瓜生正義がどんな結果を出していようとも、だ。つまり、瓜生大敗で何着ならトップ、みたいな状況になろうが、瓜生が勝って自身も勝たねばトップ死守できない、みたいな状況になろうが、だ。この境地に至れたのはデカいぞ。今節は石野貴之の強きメンタリティにも目を奪われるが、菊地もまた強烈にメンタルが仕上がっていると思う。

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 枠番抽選で1号艇を引いたのは、瓜生と山崎智也だ。周りからの祝福の声に恐縮するように何度か頭を下げていた瓜生と、喜びを隠せずにんまりと笑い、会場から去る際には人差し指を立てて天高く突き上げた智也の好対照ぶりが面白かった。また智也はそれが絵になるんだ、これが。まったくもって、スーパースターである。もちろん、瓜生も実に瓜生正義らしい態度である。

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 あと、松井が2号艇を引いた後、ボードに貼り出された「1号艇 瓜生正義」にちらりと目をやっていたのが印象に残ったぞ。王者、何を思ったか。まあ、自分の内に入るのが誰なのか確認しただけかもしれないけど。6号艇を引いた石野貴之は思い切り苦笑い。やっちまった、って感じか? まあ、石野のことだから逆に奮い立つかも。淡々と残りの3号艇を引いた太田和美の変わらぬたたずまいもそうだが、やはり大阪勢は気になってしまいますな。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)