より強い舞台へ!
12Rクイクラ優勝戦
①松本晶恵(群馬)09
②竹井奈美(福岡)13
③長嶋万記(静岡)11
④寺田千恵(岡山)08
⑤遠藤エミ(滋賀)14
⑥平山智加(香川)12
おめでとう、晶恵ちゃん。今節、このブログで「15号機は数字ほどのパワーはない」だの「優勝するには経験が足りない」だのあれこれ難癖をつけてきた私だが、心の底から祝福したい。今日のファイナルは、第5代賞金女王に相応しいイン逃げだった。
V争いという意味では、1マークの攻防がすべてだった。恐るべきは竹井の度胸だ。昨日は同じ2コースから俊敏な差しで舳先を突っ込み「あわや」の見せ場を作った竹井。レース後、黒須田と私は「明日の奈美は2コースから握るかも」などと想像を膨らませていた。その論法はこうだ。
①2コース差しが突き刺さった。
↓
②当然、明日の松本は竹井の差しを想定する。
↓
③「差された」という意識が強く残っていて、必要以上に落として回る。
↓
④その心理&行動を逆手に取って、松本が落としたところに意表の強ツケマイをぶっ放す。
まあ、半分がた推理ゲームのようなもので、まったく確信はなかったのだが……。
竹井は握った。迷うことなく2コースからレバーを握り、松本を上から叩き潰しに行った。その真意はわからない。3コースの長嶋が覗いたため、それを跳ね除けようとして左手が勝手に握ったのかもしれない。無意識だったかもしれない。理由はともかく、その握りマイは強烈だった。松本が竹井の「差し」だけを意識していたら、あるいは3コース長嶋のブロックだけを考えていたら、一足早い竹井のジカまくりへの対応はわずかに遅れただろう。そうと気づいた瞬間、竹井の引き波にハマっていたかもしれない。
だが、松本は見えない所からきた竹井の“奇襲”を完璧に受け止めた。握りすぎず落としすぎず竹井に艇をぴったりと寄せて、唯一最大の危機を自力で脱した。おそらく、竹井の握りマイを想定していた。そこに、松本の強さを感じた。
バック中間で半艇身のリードを保った松本は、内コースの利を生かして2マークを先制、そのまま突き抜けて勝利を不動のものにした。そのすべての行動に機敏に連動した15号機も、優勝に相応しいパワーだった。松本だけでなく、私は15号機にも詫びを入れなければならない。今節の15号機は、私が推奨し続けてきた70号機&49号機よりも力強かった。松本の確かな整備力が、15号機に活を入れたともいえるだろう。
「初日から2・2・1・1号艇。実力や機力より枠番(コース)の利が大きかったのでは?」
そんな穿った見方をする方もいるだろうが、私はそれを認めない。トライアル1~3戦は強い向かい風が吹き荒れ、インも2コースも勝ちきるのが難しい水面だった。特に2コースは「良くて2着、少しでもミスれば6着惨敗」が当たり前だった。そんな環境での1211着、準パーフェクトVは高く評価していいだろう。
松本がゴールした瞬間、ウイニングランの時間、スタンドの雰囲気はグランプリのそれによく似ていた。大晦日の寒空の下、松本を見つめる観衆のほとんどは妙にほっこりしていた。瓜生も松本も、「勝負師」とは無縁の素朴すぎるルックス。松本は救助艇の上で何度もぴょんぴょんと飛び跳ね、そのたび私の顔もほっこり緩みっぱなしだった。「ボート界でもっとも妹にしたい選手コンテスト」なんてものがあったら、間違いなく私は晶恵ちゃんに一票を投じる。そんなどうでもいいことまで思った。29歳だけど(笑)。2016年ボート界の年の瀬は「ほっこり」だらけだった。そして、1年の〆だからこそ、あえて「ほっこり晶恵ちゃん」に伝えたい言葉がある。
女子の頂点に安住することなく、「男子のトップに追いつけ追い越せ」の気概で明日の元旦を迎えてほしい。
今節は強風のせいもあってか、シリーズ組とトライアル組のモチベーションの差が極端な形で水面に投影された。シリーズ組でコンマ15以内の平均スタートタイミングだった選手は、堀之内紀代子などほんの数人しかいなかった。ほとんどスリット隊形が凸凹で「スタート行ったもん勝ち」ばかりだった。選手心理はわからないでもないが、こんなレースの繰り返しでは女子レーサーは強くなりようがない。一方、トライアル組はほとんどの選手がコンマ15以内だった。レースそのものの迫力も雲泥の差で、「少なくとも女子のトップ級は、できる限りレベルの高い舞台で戦い合うべきだ」という印象を強く抱いた。その最たる舞台は、もちろん男女混合の記念戦線だ。
これまで何度か記してきたが、今日も書かせてもらう。ボートレースを司る関係者が真に強い女子レーサーを育成したいなら、昨今の女子戦ラッシュはその目的に逆行している。目先の売上だけに目を奪われ、女子レーサーの総体レベルを低下させている。それを痛感する6日間であったことを、大晦日のここに記念しておきたい。
松本晶恵が、SG、GIの舞台でさらに強くならんことを。(TEXT/畠山、PHOTOS/シギー中尾)