BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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児島クラシック優勝戦 私的回顧

流れ。

 

12R優勝戦

①桐生順平(埼玉)14

②菊地孝平(静岡)11

③石野貴之(大阪)13

④瓜生正義(福岡)16

⑤井口佳典(三重)06

⑥茅原悠紀(岡山)11

 

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 スタートの瞬間、児島スタンドは騒然となった。5コースの井口が突出している。優出インタビューで「行けるだけ行きます!」と宣言した通りのぶち込みスタート。コンマ06、おそらく全速。勢い、内の瓜生を絞め込む。ここで井口57号機にもうひと伸びのパンチ力があれば、一気にインの桐生まで呑み込んだかも知れない。が、今日のストレートの伸びは、3コース石野の方が上だった。すぐに伸び返して舳先を並べ、井口をブロックしながら先に動いた。2コース菊地への強ツケマイ。数珠つなぎ的な猛攻を浴びて、差すべきマイシロを失った菊地は、石野のまくりに飛びつくのが精いっぱいだった。桐生を見るべき余力はなかった。

 それぞれがそれぞれにダメージを与えあっている間に、桐生は1マークをするりとすり抜けた。回った瞬間、5艇身ほど突き放していた。この瞬間に2年ぶり2度目のSG戴冠が決まった、と言っていいだろう。激闘の2着争いを尻目に、悠々の一人旅で桐生は2マークを豪快にぶん回した。

 

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 流れ。

 勝負事に「流れ」は付き物だが、今節ほどそれを感じたシリーズは珍しい。4日目の12R、瓜生(5着)、松村(3着)、井口(2着)の誰かしらがひとつでも上の着を拾っていれば、桐生の予選トップはなかった。とりわけインの井口が取りこぼしたことに驚いたし、この結果によって桐生がトップに躍り出たことに異様な「流れ」を感じ取った。

「流れ、ですね。流れが来てるかなって思いました」

 レース後の記者会見で2日前の逆転トップについて質問された桐生は、やはりこう答えた。当事者である桐生は、私以上にその流れを強く感じたはずだ。そして、目の前に現れたチャンスの神様を鷲掴みにした。今日のレースそのものも、やや危険な隊形であったにも関わらず、1マークまでのすべての連鎖行動が桐生に味方したように見えた。うん、思い起こせば、前検のモーター抽選で2連率84%というエース機を引いたときから、それはもう始まっていたのかもしれない。

 

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 ともあれ、桐生の2度目のSG戴冠はすべて「自力の優勝」だったことも記しておきたい。予選トップは繰り上がりでもなければ、棚ぼたでもなかった。各選手は予選の5、6走をすべて走りきって、節間成績が決まる。初戦に6着で苦しむ選手もいれば、最後の最後の勝負駆けに失敗することもある。桐生自身も3日目に6着を獲ってトップ争いから大きく後退した。そこから4日目に2着(6コースで!)を獲って踏みとどまった。人事を尽くして天命を待っていたところに、12Rの3人がたまたまトップの勝負駆けに失敗した。その着順の絶妙さに私は驚いたわけだが、4日間のあれやこれやをトータルで考えれば、桐生は文句なしの自力のトップ当選だったのだ。

 

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 そして、予選トップがそのまま優勝に直結する事象ではないことを、我々はよく知っている。多くの若者が(ベテランも)そのプレッシャーに耐えきれずに準優や優勝戦で苦杯を舐めている。昨日はコンマ04の逃げ圧勝、今日は外からの猛攻を浴びながら焦らず騒がず完璧なインモンキー。それぞれ様子の違うイン逃げ2連発を決めた桐生は、技量面でも精神面でも文句なしに強かった。節間、叩きたい衝動を抑えてノーハンマーで最後まで戦い抜いた(モーターの底力を信じ続けた)ことも、精神面の強さの顕われだと思う。

 

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――SGタイトルひとつはフロック、2つ以上から真のSGレーサー。

 そう語るSGレーサーは多い。その真偽はさておき、今日の優勝によって桐生が「真のSGレーサーになった」と認定されるとするなら、私はそれに諸手を上げて賛同する。おめでとう、ズンペー(順平)。この時季のクラシックを2度制したのは単なる偶然かも知れないが、出身地の福島や東北のボートファンに少なからぬ元気と勇気を与えたことだろう。今節の「流れ」も含めて、改めて“持ってる男”だと心に刻んだ。(TEXT/畠山、PHOTOS/シギー中尾)