BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――勝負駆けとは?

●11R 遠藤エミ、完勝

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 2マークを真ん前に臨む水面際のベンチには、選手が鈴なりになっていた。GⅡとはいえ大一番。選手の注目度はやはり高かった。そのずらり居並ぶ仲間たちの前で、遠藤エミが堂々の逃げ切り。回った瞬間に後続をちぎる、完勝であった。

 レディースチャレンジカップ連覇。しかし、遠藤からはその高揚感は特に伝わってこなかった。目指す場所はここではない、とでもいうような……といったら深読みになってしまうが、その微笑に特別性はなかったと思う。それも含めて、完勝だと思う。

 遠藤よりも、守田俊介がニッコニコだったのが印象的だった。かわいい後輩の勝利に細い目をさらに細くして、遠藤に語りかける。そういえば、節中も二人の絡みはよく見かけたものだ。遠藤にとって、心強い存在の一人だったことだろう。

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 敗者たちのレース後は、わりと穏やかに見えた。たとえば長嶋万記は、ピットに戻った直後には明るくない表情を見せていたが、カポックを脱いでモーター返納に向かう際には笑みが戻ってきている。細川裕子も、やることはやったのだという充実感が、悔しさよりもむしろ強く伝わってきた。さすがに中村桃佳は悔しそうな表情も見せてはいて、山川美由紀や平高奈菜と話しながら少しせつない顔になってもいたが、それを苦笑いに変換することはできていたようだった

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 そのなかでも、はっきりと渋面になっていたのは海野ゆかりだ。もっとも海野は舞台に関係なく、敗戦後には険しい顔つきになることも多い。だから、GⅡを獲れなかったことがその表情につながったのかどうかは断言できない。とにかく、海野はこの結果にまるで納得はしていない。まあ、その後に徳増宏美さんたちと顔を合わせたときには柔らかい表情も見せていたのだが。

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 日高逸子は、仲間たちの前にニコニコ顔であらわれている。さらに両手で手を振ってもいた。それに対して、菊地孝平が心の底から残念だという歪んだ顔つきで慰めの言葉をかけている。もちろん、日高の敗戦は単なる敗戦ではなく、クイーンズクライマックスへの勝負駆けに敗れ去ったということを菊地も理解していただろう。それに対して日高は笑顔をさらに振りまいていた。

 本音ではないと思う。事実、モーター返納を終えて控室にひとり戻る際には、カタい表情でずっとうつむいていたのだ。第1回大会から昨年まで皆勤賞だったクイーンズクライマックス出場が、ついに途絶えた。そのことが悔しくないわけがない。納得できるわけがないのだ。つらい思いを隠すための笑顔というものがあると思う。日高が見せたのは、間違いなくそれだろう。

 

●12R 毒島誠、完勝

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 前半記事では、毒島誠はリラックスしている様子だったと記しているが、その後、見るたびに表情はどんどんと鋭くなっていった。時間を追うごとにメーターを上げていき、本番直前にマックスになる。展示から戻ってきたときの顔つきを見て、緊張感はもちろんだが、メンタルは完全に超抜になったのだと思った。

 13年メモリアル以来のSG制覇。やっと2つめのタイトルを手に入れた。長かったと思うし、特に昨年あたりからSGでは低調機ばかり引き、苦しい思いをしていたとも思う。好機を手にしたらあっさり勝っちゃうんじゃないの、と外野の僕らは気楽に話していたものだが、毒島本人はなかなかそんな気になれなかったと思う。

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 その果ての優勝だから、喜びを爆発させるかと思ったが、どちらかというと静かな歓喜であった。山崎智也、秋山直之、松本晶恵らが出迎え、祝福し、もちろん笑顔は見せていた。だが、僕の想像していたよりはずっと控えめな喜び方だったと思う。レース後すぐに、ピットで囲み取材が行なわれたが、そこでもかなり冷静に語っている。もしかしたら、その喜びをじんわりと噛み締めているのか。地上波放送のインタビュ―では「この喜びは妻に伝えたい」と即答。明日、家に帰って毒島の苦労を知っている家族と会ったときに、心からの喜びがこみ上げてくるのかもしれない。

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 篠崎仁志は、これでグランプリ行きを決めた。優出した時点でほぼ当確と言っていい状況ではあったが、3着に入ったことでそれまで16位だった前本泰和を抜き去ったのだから、自力当確と言ってもいい。しかし、レース直後の仁志から、その喜びはまるで見えなかった。表情はカタかったし、時折、口を尖らせるような表情にもなっていた。確実に、勝てなかったことをひたすら悔しがっていたと思う。SGを獲れなかったことをとことん悔しがっていたと思う。「SGを獲ってグランプリへ」という目標を果たせなかったことは、仁志に悔恨しか残していないだろう。

 そうはいっても、グランプリ2年連続出場である。こうなったら、すべての鬱憤を住之江で晴らせばいい。SGを獲ってグランプリへ、が、グランプリでSGを獲る、に順番が変わったって何の問題もないのだ。ハツラツと住之江に乗り込んでほしい。

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 井口佳典もまた表情は強張っていた。準Vでは何も喜べはしない。また、3着以上で賞金ランク6位以内という条件だったのだから、その勝負駆けには成功したのだが、後になればそのことに納得はできても、レース後は「優勝できなかった」という事実が残るだけなのだ。

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 桐生順平も同様。内容も結果も、決して納得できるものではないだろう。桐生にとっては、優勝条件でトライアル2nd初戦1号艇、という勝負駆けは頭になかっただろう。とにかく優勝したい。その思いだけでレースに臨んでいなければ、敗れた直後にあの硬直した表情は出ない。賞金ランク1位になれなかったことが悔しかったのではなく、勝てなかったことが悔しかったのだ。

 我々は、グランプリ行きだったり、6位以内だったり、さまざまな条件を提示して、選手の気合度を測ろうとしたり、それを予想の根拠のひとつにしたりする。しかし、実際のところ、選手は単純に勝利を欲しているだけなのかもしれない。ごくごく単純に、優勝をしたいだけなのかもしれない。チャレンジカップというレースの性質として、ファンは賞金ランクの行方を見据える楽しみ方をすることがごくごく真っ当なのだが、選手の表情を見ていると、もしかしたらそれは深読みなのかと思えたりもする。

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 ただし、新田雄史の場合はどうだろう。新田は残念ながら20位にとどまった。グランプリ勝負駆けに失敗したのだ。6号艇という不利枠でもあり、優勝はもちろん狙っていたはずだが、グランプリということも意識していなかったはずがないと思うのだ。新田もレース後の表情はカタかったと思うが、結果として、グランプリに行けなかったことの悔しさも混じっていたように思えてならない。

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 グランプリへは優勝条件だった山田康二もどうだろう。勝てば、SG初優勝もグランプリも一挙に手に入る。今日一日、SG初優出のわりに肩の力が抜けていたように見受けたのだが、あっちもこっちもと考えなくていい分、自然体で過ごせた可能性はある。

 レース後は師匠の峰竜太や三井所尊春にねぎらわれて、苦笑い混じりではあったが、柔らかな表情を見せていた。山田にとって、この経験は大きかったはず。これで佐賀の風が途絶えたわけではない。次は自分の番だという思いを意を強くできる、貴重な一戦だったはずだ

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 なお、18位に残った前本泰和は、優勝戦の時間帯にはすでにピットにいなかった。管理解除で帰郷していたのだ。この結果を、前本はどこで知っただろうか。帰る際には飄々とした表情だった前本。グランプリでどんな戦いを、どんな表情を見せるのかが実に楽しみだ。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)