貫禄の優勝と言うべきだろう。今日の序盤は差しがビシビシ決まる、文字通りの差し水面。強い追い風がインを流して差し場が開く、というパターンが多い一日だった。優勝戦も強い追い風。流れるのを警戒した平山智加は落としながらターンマークに寄って回って、差し場を消そうとするその走りもさすがと言うべきなのだが、遠藤はそれをしっかりと見据えて、ツケマイを選択。その冷静さ、思い切りの良さ、まくりもまた流れやすい水面をしっかり克服した腕の確かさ、すべてが貫禄の為せる技と言うしかなかった。これぞ女子唯一のSGウィナー、そんなふうな表現も成り立つだろう。
朝の記事に書いたとおり、遠藤は今日、早くに水面に降り、いつも通りにしっかりと調整をして、レースに臨んだ。その立ち居振る舞いも自然体。優勝戦だからどうこう、という物言いとはまるで無縁の様子だった。それもまた、SG優勝戦の1号艇やグランプリのトライアルという、次元の違う修羅場をくぐって来た者の貫禄だったか。
そして何より、遠藤は見ているものが違う。この優勝によって、遠藤は賞金ランクで女子首位に立った。この順位を維持していけば、クイーンズクライマックスのトライアル初戦は1号艇というアドバンテージがある。もちろん、この時点でクイクラ出場は当確だ。しかし遠藤は会見でそれを問われ、「(女子)1位といっても、上につながるわけではない」と言い切っている。表彰式でも、「もっともっと上で活躍できるよう頑張りたい」と語った。女子頂点に立った者が指している「上」といえば、SGでありグランプリであり。つまり遠藤エミというレーサーが目指している頂とは女子トップではなく、ボートレーサー全体のトップなのだ。その覚悟がまた、この舞台では貫禄へと変換される。
本来、貫禄のVという言葉は1号艇にふさわしいものである。しかし、遠藤エミの場合は2号艇であっても、今日の勝ちっぷりからはその言葉がハマる。間違いなく、完勝でのVだったのだ。
ピットに凱旋した遠藤を待ち構えていたのは香川素子。前年度覇者が今年の覇者を両手を掲げて出迎えたというわけだ。一昨年も遠藤の優勝だったから、滋賀支部3連覇がひとつのトピック。我々は3年連続で滋賀支部に凱歌が上がったのを目撃したというわけだ。香川に向けて、艇上から遠藤はガッツポーズで応える。ピットに上がってヘルメットを脱ぐと、実に柔らかい笑顔があらわれ、香川、一緒に出迎えた中谷朋子とともに優勝を喜び合った。
そんな遠藤に、あちこちから「エミちゃん、おめでとー!」の声が飛んだ。それらにも遠藤は笑顔で応え、ピットは一気にほのぼのとした空気に包まれていく。守屋美穂が、さすが、と呟いていたが、やはり遠藤の優勝はそう表現されるレベルのものであり、それを誰もが実感しているから、大きな歓喜というよりはただただ和やかな雰囲気になったのだと思う。そう、それもまた遠藤の貫禄。やっぱりこの場にいる遠藤エミは巨人である。
だからもちろん、遠藤の言う上の舞台でもっともっと活躍を見せてもらいたいと改めて思う。次のビッグは今月末のボートレースメモリアル。この勢いを見事に生かす戦いを期待して福岡に向かおう。
何も遠藤の貫禄にひれ伏したというわけではないだろうが、敗者の表情もそこまで暗くはなかったように思う。強い追い風で水面が波立つコンディションの中、ベストを尽くしたという感覚があっただろうか。なかでも、渡邉優美に笑顔が見えたのは、なんだかちょっとホッとした。昨日は思い詰めるかのような表情で、己を責めているのは明らかだったから、最後に3着競りに勝ったことも含めて、最後に頬が緩んだのはいいことだと思う。
ただ、もちろん平山智加はそうはいかない。この水面で逃げ切るための方策をとったはずなのだが、そこを逆に遠藤に突かれるような格好で必勝のイン戦を逃したのだ。顔がひきつるのは当然だし、笑みが浮かばないほうが自然である。昨日のレース後はあれだけの歓喜に包まれたのに、一転して悔しすぎる敗戦。この残酷さもまたボートレースの凄みではあるのだが……。平山は賞金ランク11位まで浮上しているが、年末を考えるとこのポジションはまったく盤石ではない。雪辱次なる大舞台で果たすために、これから11月まで、この悔恨をむしろ栄養にして奮闘する姿を見たい。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)