BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――2戦目が楽しみだ!

 

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 レース直前、井口佳典が水面際に出てきて、スリット方向をじっと見つめていた。微動だにしない、と言ったら正確ではなく、時に身体をほぐすような動きをしながら、しかし同じ場所に数分とどまって、水面に視線を注いでいた。

 井口はよく水面に目を向けるほうだと思う。歩きながら顔を水面に向けるシーンはほんと頻繁に見かける。ただ、今日のように立ち止まって長時間見つめるシーンはあまり記憶にない。しかも水面はひたすらにベタだった。風はほとんどなく波もない静かな水面。それを確認していた、といえばそういうことかもしれないけれど、井口の雰囲気からはそれだけではない何かを感じたのは確かである。

 それが勝利に直結した、ということはありえない。レース前の行動と結果に関連性があるわけではない。しかし、井口の姿に何か特別なものが見えたのもまた間違いのないことだった。前半のピットでも少し分いいが違うということを書いているが、どうやら今節の井口は、“ニューバージョン”とでもいうような井口佳典になっているような気がする。レースを見ておわかりのとおり、足は仕上がっている。そこに新しいスパイスを振りかけて、井口はどんな戦いを繰り広げていくのか。ひたすら楽しみである。

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 11R1号艇の石野貴之は大敗を喫した。強い思いで臨んだ初戦、しかしその思いは報われなかった。というより、最悪の結果となってしまったと言っていいだろう。

 ピットに戻った石野は、ヘルメットのシールドを下ろしたままだった。表情を見せぬように、としか思えない振る舞い。ただ、ちょうど真横を通り過ぎたとき、シールド越しにうっすらと石野の目元が見えた。まさに憤怒だった。もちろん対戦相手に対して、あるいは途上に待ち構える報道陣に対して、ということではあるまい。怒りの矛先は、逃げられなかった自分に向けられているとしか思えなかった。それは落胆ともないまぜになっていただろう。とにもかくにも逃げ切って明日につなげるということがノルマだったはずで、それをクリアできなかったことに苛立っているように見えた。

 石野は、追い込まれたら強い、と自己分析している。初戦にして追い込まれた石野は、その強さを明日明後日と発揮できるか。まずは明日、ピットでは怖いほどに集中して調整に臨む石野が見られるだろう。それもまた、楽しみだったりするのだが。

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 対照的に1号艇をきっちり活かして初戦快勝の峰竜太はニッコニコだった。ヘルメットを脱ぎ、待ち構えるカメラマンたちに向かって「やったやったー」とか言いながらガッツポーズの大盤振る舞いである。トライアル初戦を逃げ切って、こんなにはしゃいでいる人を初めて見たよ。まったくもって、この男は規格外である。

 レース直前には、緊張しつつある表情も見せていたのである。彼のレース前の緊張はいつものことだが、それでもさすがに特別な雰囲気を味わっているのかな、などとも思っていたのだ。それはその通りなのかもしれないが、しかし峰はそれすらも楽しんでいるように見える。鬼に金棒、なんて言葉が浮かんできた。その姿は、たとえば初戦で思うような結果を出せなかった者からすれば、疎ましいものかもしれない。峰へのマークが激しくなる、なんてことだってありうる。それをも峰は楽しんでしまうのか。これもまた、明日以降の楽しみではある。

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 他の選手をざっと。桐生順平は、井口にまくられながらの2着残しに、安堵の思いがあるようだった。ハメられて大敗の危険もある展開で、換わり全速から上位に食い込めたことは、明日をポジティブに迎えられる材料に違いない。一方で、同じ11Rで3着の毒島誠は、どことなく不満げな表情で引き揚げてきた。トライアル1st組では唯一の舟券圏内だったわけだが、それは特に喜ばしいこととは言えないだろう。2nd組と走ったことで、課題も見えてきたか。1号艇を引き当てた明日が、重要となってきたかも。

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 12Rで5着の菊地孝平は、悔しそうに顔を歪めていた。強烈なまくり快勝を決めて昨日と同じ4号艇4カドながら、今日は内を出し抜くまではいかず、しかも大敗。1~3枠の2nd組がまさに強大な壁のように立ちはだかったわけで、ひとつ上のステージの難しさも実感したか。思えば、2ステージ制になってからの菊地のグランプリは、すべてトライアル2ndからの出場だった。1stからの戦いも、1stを勝ち上がっての2ndも初めてである。この敗戦を経ての2戦目に、菊地がどんな手を打ってくるのか、注目したい。

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 さて、12R終了後には2戦目の枠番抽選がもちろん行なわれている。いちばん最初に引いたのは峰で、「なんでもいい!」と笑顔でガラポンを回した。微笑ましい光景であったが、控える11人は少しも表情を変えず。峰がなんか言っとるわ、くらいな感じ? 赤が出て「悪くない!」と峰が叫んでも、空気はまるで変わらないのだった。これに続いて引いた桐生がいきなり白玉を出し、次の白井が黒を出して、ここで空気が少しざわついた。もう外枠しか残っていないのだ。

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 しかも次は松井繁。王者の抽選運の悪さを知っている者たちが、「やっぱりか」「また緑を引くのか?」という思いになったわけだ。松井が引いたのは青。残った枠のなかでは最内だ。それを見て、別組の原田幸哉がからかうように拍手。表情を変えなかった王者の顔がほぐれて、このときはじめて会場には笑いが巻き起こったのであった。最後に引いた森高一真は黄色で、今度は残り福というわけにはいかなかったか。

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 次の組は、最初に引いた井口が黒を出し、2番目の寺田祥が青。そして3番目の毒島で白が出た。トライアル1stの第2戦枠番抽選では白がなかなか出なかったが、今日は前半で出る展開。毒島は力強い表情を見せている。

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 その次に引いた茅原悠紀が赤で、ああ、こちらの組も最後に残ったのは黄と緑。今日は大敗を喫して明日は好枠で巻き返したい、という思いがまるでかなわない抽選だったのだ。次に引いた石野は、あろうことか緑。笑みを浮かべてみせたが、顔が引きつっていたように見えたのは気のせいか。明日は早くも勝負駆けとなる石野。6号艇でどんな走りを見せてくれるのだろうか。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)