BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――特別な……

f:id:boatrace-g-report:20181221184137j:plain

「ほんっと、緊張しましたばい~~~」
 12R出走直前、峰竜太がこちらの顔を見るや、安堵の表情を浮かべて歩み寄ってきた。トライアル1st初戦の1号艇、峰はとてつもなく緊張してそのときを迎えていたのだ。会見でも、「この3日間は苦しかった。今日は100%は無理と思ってました」と語っている。それだけに、守田俊介のツケマイを受け止めて逃げ切れたのは大きい。そして、峰の胸には安堵が広がるわけである。

f:id:boatrace-g-report:20181221184214j:plain

 その会見で、「強い気持ちで苦しみながらいきたい」とも峰は語っていた。SGになれば毎度、「SGを楽しみます」と言っている男が、苦しみながらと宣言したのだ。それが引っかかった。峰は言う。「本音を言えば、楽しみながらいきたいですよ。でも、苦しみながら頑張っている人もいるなかで、そうも言っていられないと思ったんです」。なるほど、峰は今節、本気で獲りに来ている。僕はそう思った。今までだって本気で獲りたかっただろうし、楽しみたいといいながら実際には苦しいことのほうが多かったはずだが、それを楽しみたいという言葉でコントロールしようとするのではなく、苦しみと向き合おうと覚悟を決めた。僕の解釈ではそうなる。それがどんな結果をもたらすか、楽しみにしていよう。まずは上々の発進、である。

f:id:boatrace-g-report:20181221184248j:plain

 2着の守田俊介は、あのツケマイを見る限り、「乗れない」という状況はある程度は解消できていたように思える。しかし会見では相変わらず、不満を訴える。「少しは解消してないことはないけど……」と口にしたときには、苦悩するかのように頭をかきながら、ぼそりぼそりと話している。2着という結果を出しながらも、まだ不安が脳裏に渦巻いているのだ。たしかに、あのツケマイは引き波のないところを走っている。波の上を通らなければならない展開になったときに果たして、というのは、現状では守田のなかから消えない思いなのだろう。ということは、明日も朝から働くのだろう。今までにこんなことはなかったそうで、守田もある意味、特別な思いでこのグランプリを走っている。

f:id:boatrace-g-report:20181221184347j:plain

 1st連勝の馬場貴也は、2nd初戦では6着と大敗してしまった。勢いはストップしてしまったのか……といえば、この数十分後にそうとも言い切れない出来事が起こるわけだが。今日はプロペラがまったく合っていなかったとか。今節の住之江は、例年に比べてかなり暖かいわけだが、そうした気候条件も要因だっただろうか。そうそう、夕方の時間帯には雨もポツポツ落ちてきていたな。それが自覚できているのなら、明日はリセットするのみ。守田とともに奮闘する一日になるだろう。

f:id:boatrace-g-report:20181221184418j:plain

 12Rを逃げ切ったのは毒島誠。明るい表情で帰還したピットでの姿は、充実感がたっぷりだ。今日、最後の最後までプロペラを叩いていたのは毒島だ。まあ、これはよくある光景ではある。ギリギリまでペラ室にこもり、他の5艇が展示ピットにボートをつけてもまだ、毒島のボートは調整用ピットにつながれたままだった。いま言ったように、よくある光景なので、これは異変ではまったくない。毒島はまさにいつも通りに、レースに臨んだのだ。そして快勝した。もちろん、毒島にも何が何でも獲りに行くという特別な思いはあるだろうが、動き自体はいつも通り、に見えていた。これがまたどんな結果を導き出すかについても、おおいに楽しみである。

f:id:boatrace-g-report:20181221184459j:plain

 この12Rは、3着争いが熱かった。というより、吉川元浩が終始リードしていたのだが、3周2マークで桐生順平のツケマイが炸裂し、舳先を並べてゴールラインを通過したのだ。その瞬間はどちらが先着したのか判断できないほどの接戦だ。結果は写真判定にゆだねられ、結果、桐生が3着。全艇がリフト前に戻ってきてもまだその結果はあらわれず、桐生はボートを流しながら対岸のビジョンを何度も振り返っていた。対照的に、吉川はまるで目を向けることなく、ボートをリフトへと向けていた。ビジョンの3着の部分に「5」を見たとき、桐生はどんな心持だっただろうか。

f:id:boatrace-g-report:20181221184532j:plain

 エンジン吊りの最中に、ビジョンではリプレイが流れている。毒島以外の選手はこれに見入ったわけだが、レースが進むにつれ、一人また一人と控室へと踵を返している。しかし、桐生と吉川はやはり最終コーナーが最も見たい部分。二人は肩を並べ、まるで水面で併走していた状態そのままに、最後までリプレイに見入った。ゴールの瞬間まで見届けて、一言二言声を掛け合い、ようやくその場を離れることに。この1点が今後を左右することになったとしたら、これは印象的な光景となるだろう。

f:id:boatrace-g-report:20181221184651j:plain

 さあ、トライアル2ndも枠番抽選! B組(11R)からの抽選で、毒島誠が真っ先に引いて3号艇となった。抽選が進み、4番手の岡崎恭裕が黒を出したときに、場はにわかに盛り上がった。菊地孝平が「おおおおっ! この展開は! イチかロク……」と声をあげる。5番手抽選は、菊地の後輩である笠原亮。祈るようにガラポンを回すと……「ああっっ……」と笠原は悲鳴をあげた。はい、ロクです。この瞬間、もう一丁盛り上がりがあった。B組最後の抽選は、馬場貴也。残り玉ではあるが、また1号艇を引いた! 馬場の枠番抽選は白100%! 初戦の巻き返しをはかるには絶好の枠が手に入り、馬場はニンマリ、である。

f:id:boatrace-g-report:20181221184745j:plain

 A組(12R)は、まず峰竜太が5号艇を引いた。表立って感情をあらわにはしていないが、去り際に少し顔をしかめているのが目に入った。その次に引いた井口佳典が白! 井口はありがとうございます、と深々お辞儀。もちろん笑みが浮かんでいる。初戦2着で1号艇だから、流れが最も来ているのは井口か!? そう断ずるには気が早いわけだが、今日のところは運を味方に引き入れたと言える。

f:id:boatrace-g-report:20181221184815j:plain

 抽選が進み、5番手の菊地孝平の順番で残っていたのは4号艇と6号艇。「おぉっ、この展開は!」とまたしても声をあげる菊地。静岡の流れなら6、ということ? ガラポンを回すと出てきたのは青。「あっぶねーーーっ! これはデカい!」とにこやかに笑いながら、残った中島孝平にごめんねと声をかけるのだった。はい、こちらの残り玉はガックリの緑。苦笑いを浮かべながら、最悪の玉が出てくるのがわかっているガラポンを回す、中島孝平でありました。

f:id:boatrace-g-report:20181221184852j:plain

 で、この結果を予測(?)していた男がいるのだ。佐藤翼である。抽選後に話していると、「僕、今の抽選の結果、全部当たってました」と言い出すではないか。「表情や雰囲気を見ながら、これが出るかな、と思っていたら、全部当たったんですよ」。ナヌ!? それって、12連単を的中させるようなものじゃないか! もちろん、僕も馬場貴也と中島孝平が何を引くのかの予想は当たったが(笑)、翼は抽選を見学しながら、これから回す人が何を出すのか感じ取っていたというのだ。超能力!? そう言ったら、翼も笑ってましたが。

f:id:boatrace-g-report:20181221184934j:plain

 いや、本題はこちらではなかった。佐藤はこれが初めてのSGであり、それがグランプリシリーズであり、つまりは初めてグランプリの戦いを目の当たりにしているわけである。それをどう感じているかを聞きたかったのだ。
「初日のインパクトは衝撃的でした。でも、昨日からは冷静に見られていますね」
 佐藤曰く、初日は素人的にグランプリを見て、翌日からはレーサーの視線で見ている、ということ。初めで間近で見るグランプリに衝撃を受けるのは当然として、2日目からは「いつか自分も立ちたい舞台」として見ているわけだ。そう、いつか自分も、という思いを強くする刺激をきっちり受けているわけである。僕から見ると、初日に大きなインパクトを受けて興奮する、そしてその後は、というのは理想的だと思う。初日も冷静に、だったとすると、それはちょっと冷めすぎていると思うのだ。いつか立ちたい舞台だからこそ、初めてのナマ観戦でその迫力に圧倒される、というのは自然なことだろう。この場に立てたことで、翼はきっと、飛躍のスピードを上げていくはずだ。いや、上げてほしい!

f:id:boatrace-g-report:20181221185014j:plain

 その佐藤翼はシリーズを的確に戦い、準優当確ランプをともした。予選トップに立ったのは石野貴之。今日は前半を逃げ切り、10Rのシリーズ復活戦を差し切って連勝となった。それで鬱憤が晴らせたかどうかはまた別の話だが、昨日に比べれば間違いなくレース後の足取りは軽快であった。ピットで見ている分には、やはりまだ悔しさが残っているように見えるわけだが、こうなったら7冠目を一気に奪いたいところだ。そのときの石野の表情を見たい。

f:id:boatrace-g-report:20181221185057j:plain

 2~6着の選手は、やはり昨日の敗戦後の悲痛さに比べると、レース後も穏やかに見えた。やはりトライアルの敗戦とここでの敗戦はまったく違うということを改めて感じる。一人だけ、太田和美がかなりゆっくりな歩調であったことが目を引いた。質は違うかもしれないが、悔しいという意味では同じということか。修羅場を山ほどくぐり抜けてきたからこそ、その重みを強く知っているということかもしれない。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)