BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――波乱あり

●本日の山口支部
 いやはや、ボートレースは何が起こるかわからない、と簡単に言ってしまうと陳腐になってしまうわけだが、本当に何が起こるかわからないのがボートレースである。

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 ひと足先に優出を決めた白井英治が、会見でこんなふうには言っていたのだ。
「スタートは行けるだけ行って、(インに)プレッシャーをかけたい……って、2号艇の体で言ってますけど、1号艇がいいです(笑)」
 1号艇がいい、はもちろん本音。しかし、12R1号艇は盟友の寺田祥であり、寺田ならしっかり逃げるだろうと思っていたはずだ。僕も正直、寺田で堅いと思っていた。ところが、その寺田が2着に敗れるのである。
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 寺田のエンジン吊りに向かう白井と数秒、目を合わせた。お互いちょっとにやけ気味で、そして白井は「あえて言葉にはしないよ」と言った。複雑な思いもあるだろうし、実際、出迎えた寺田にもあえて声をかけてはいなかった。大きなチャンスが巡ってきたという思い、寺田の心中への配慮。それが白井のなかには同居していたはずだ。

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 寺田は、脱力したように足をふらつかせてみせる場面もあるほど、悔恨を隠していなかった。顔も引きつっていたし、少なくとも優出したことへの喜びは少しも見えなかった。その後、地上波中継のインタビューに優出選手として呼ばれていたが、これはなかなかキツい役割ではなかったか。勝った茅原悠紀の出番が終わるのを待つ間、寺田は悔しさをぐっと噛み締めているように見えた。
 優勝戦は、1号艇・白井、4号艇・寺田と、枠なり3対3であればインとカドで激突することになる。こうなればもうお互い忖度やら斟酌やらは存在しない。寺田はペラを叩き直すと言っていたから、白井をまくれる伸びを求めるかもしれないし、白井も「1号艇がいいです」の本音を爆発させて逃げ込みをはかるだろう。狙うは地元ワンツー。しかし、お互いにワンは自分でありたいと本気で考えている。

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 それを見守る今村豊は、どんな思いで12Rの水面を見つめるだろう。今村はどちらが前でも、ワンツー決着を心から願うはずである。

 

●大波乱

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 いやはや、本当に何が起こるかわからないのである、ボートレースは。10Rも、峰竜太で堅いのだろうと思っていた。しかし、スリットでは3コースの田中信一郎にのぞかれ、その田中のまくりを全力で受け止めにいった間隙を重成一人、菊地孝平、さらには桐生順平に差された。特に桐生には完全にふところを捉えられており、2マークは焦りもあったか、内を締めに行った際に重成一人と接触、自らの艇が浮き上がると同時に重成、菊地をも巻き込むかたちとなって(峰の不良航法。菊地も艇が浮くほどの影響を受けた)、最後方にまで下がってしまっている。
 しかも峰は不完走失格。その危ない場面で首と腰を傷めたのだ。ピットに戻ったときにはまともに歩くこともできず、医務室の先生も心配そうにピットにまで出てきていた。その後、11Rのエンジン吊りになんとか参加しようともしたが、岡崎恭裕に「いいからいいから」と促されて離脱。結局、途中帰郷となってしまった。腰をかがめながら歩く姿は痛々しいが、ひとまず明るさは取り戻していた。連覇を狙うオーシャンカップでは元気な姿を見せてくれるだろう。

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 この大混乱のなか、桐生順平が見事に1着、そして長田頼宗が事故をすり抜けて2着。3連単⑥-④-②は120番人気なのだから、結果まで大波乱なのであった。予選は大敗もあるなど紆余曲折がありながら、1着勝負駆けを6号艇で切り抜け、準優も6号艇で勝ち抜いた桐生は、やっぱり半端ないって! 足も初日から比べればかなり上向いているとのこと。お仕事の予感も漂ってくる。今年はGⅠ、GⅡ、GⅢと制して、残されたグレードレースはSGのみ、という長田には、完全に流れが来ている。明日は5号艇だが、3日目に黄色いカポックで勝っていることを忘れてはならない。ちなみに明日はバースデイ。徳山64年ぶりSGを歴史的に彩るのは、バースデイVだったりして!?

●師匠の仇討ち

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 11R2着は山田康二。スタートでやや後手を踏んだようにも見えたが、しっかり差して2番手を取り切った。
 山田は会見で言っている。
「峰さんがあんなことになってしまったので、なんとか仇を、と思ってました」
 もし峰が順当に優出していたなら、師弟優出を、とモチベーションが上がったはず。いずれにしても峰の存在は大きかった。
 以前、山田に話を聞いた際、オーシャンを獲ったあとの師匠の言葉に奮い立たされた、という旨を話してくれた。その言葉は「俺でもSG獲れたんだから、お前も獲れるよ」。会見で近況好調の要因を訊かれて、山田はその言葉をかけられたことをあげていた。
「半信半疑ではあるんだけど(笑)、峰さんに嘘をつかせちゃいけないと思って」
 昨年はチャレンジカップに優出し、またここでも優出。峰の言葉が本当かもしれないということをさらに強く実感しているだろう。明日の優勝戦も、ある意味、峰の敵討ち。峰はそばにはいないが、いい報告ができれば最高だ。

●「自力です(笑)」

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 10R前に、茅原悠紀は桐生と長田に手を振って激励したのだそうである。11R前には山田にも手を振ったという。その3人が揃って優出!
「だから僕にも手を振ってほしかったのに、誰も振ってくれなかった。僕の優出は自力です(笑)」
 寺田を見事に差し切り、さらにデッドヒートを制して1着優出の茅原は、そんなジョークもすんなり出てくるほど、テンションが高かった。茅原悠紀には笑顔が似合うのである。
 明日も同じ2号艇。白井にとって、寺田を差し切った茅原が当面の敵となるだろうか。回った後の足は明らかに寺田を上回っていたので、そこに磨きをかけてくるであろう優勝戦、地元勢を立て続けにぶった斬ってもおかしくない。
 あと、忘れちゃいけない、茅原は12年の徳山新鋭王座の覇者である。徳山SGは64年ぶりだが、徳山でのビッグレース自体、その新鋭王座以降、行なわれていなかった。つまり、茅原は徳山ビッグの前回覇者、なのである。そして、そのときも黒いカポックだった。優勝戦、最も不気味なのはやはりこの男だ。
(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)