個人的に「魔の勝負駆け」と思っている条件が二つある。ひとつは「1回走り1号艇、8~10点」、もうひとつは「2回走り6~8点」。逃げきればオッケー、2走で入着できればクリア。端から見るととてもカンタンそうな条件なのだが、相当に力のある選手でないと、取りこぼしが起こる。今日のピットは、この条件での悲喜こもごもがみられた。
まずは5R。1号艇の金田幸子は逃げきれば準優出が確定した。スリットはコンマ14のタイミングでシッカリと通過したのだが、3コースの宇野がそれよりも速いスタートを決めて、まくられてしまう。金田は鋭角にターンマークを回って巻き返そうとするのだが、旋回が急すぎたのか、ここで振り込んで落水。準優出が潰えてしまった。
6R。こちらも1号艇の岸恵子が1着条件の勝負駆け。コンマ12のトップスタートを切ったのだが、まくりを打った池田明美を警戒した分だけ外に流れて、森岡真希に舳先を入れられる。岸は1着でないと意味がない。2マークで森岡を叩き潰しにいこうとするが、競りになって外へ流れてしまい、予選突破も流れた。
5割以上の確率でインが勝つボートレースだが、ここ一番でシッカリと逃げ切るのは女王経験者でも難しいのだ。ましてや7R1号艇の倉持莉々は、G1初出場でF2。さらに逃げ切るのは難しそうにみえた。
実際、スリットは6番手で、2コース水口にアッサリとまくられる。通常ならこれで終戦である。だが、ここからの追い上げが凄まじかった。外には見向きもせず1マークを小回りすると、バック4~5番手からターンごとにポジションを上げていき、2番手を走る水口とラップ状態に持ち込み、最終コーナーを先取りして2着を確保。見事なターンの連続で準優出を決めた。
勝負駆けを成功させてピットに上がってきた倉持は、ヘルメットを取ると笑顔。ただし1号艇で負けたことが気になったのか、それとも2着条件で3着に負かした水口に配慮したのか、リリスマイルはやや控えめだった。
8Rには地元の松本晶恵が登場。松本の腕があれば2走7点の勝負駆けは1走目でクリアできると考えていたのだが、1走目は4着。2走目のここは、展開がなかったり、大競りになれば、取りこぼしもありえる条件になってしまった。
しかし、それまでずっと追い風、スタート展示も追い風だった水面が、突如としてレース前に向かい風に変わった。スロー起こしの内3艇、なかでもカド受けの松瀬は大きく立ち遅れ。コンマ12トップスタートの4カド松本が、労せずに準優出を決めた。桐生の風神様に愛されているとしか思えない風向きの変化だ。
リフトに艇を乗せた松本は、両手で小さくガッツポーズを2回。それを、すでに予選突破を決めている土屋千明が出迎えて、同じく準優当確の中里優子とハイタッチを交わす。
一方、白、黒、赤のカポックを来た3人(中村桃佳、高田ひかる、松瀬弘美)は、「急に風が変わるんだから……」とボヤいていた。
そして11R。予選未勝利ながらも②②②③の成績で3日目を終えた津田裕絵が1号艇で登場する。本日は2走6点の勝負駆けだったのだが、1走目の6Rは6着。ここは3着条件の勝負駆けになってしまった。
6R以降、ピットで見かけた津田は、あきらかに緊張しているように見えた。水面に一人で出ては、イン戦のスタートを何度も練習する。ピットを歩く姿は何だか地に足がつかないし、向井美鈴や角ひとみらとペラを叩いているときに笑顔をみせるのだが、それすらもぎこちない。いまだG1勝利を飾ったことがないのに、1号艇の正念場が回ってきたのだから、緊張するのも当然かもしれない。
レース。緊張がアクセルレバーに出たのか、コンマ35と大きく立ち遅れた。1マーク手前で中谷朋子に叩かれ、その上をさらに岩崎芳美に叩かれ、津田の予選突破の目はなくなってしまった。まさに「魔の勝負駆け」を体現するかのようなレースになった。
だが5番手の津田は諦めずにひとつでも上を目指して前を追う。最終的に1艇を抜いて結果は4着。ピットに上がってきた津田は、写真を見ればわかるよう負け顔をしていた。
だが、この追い上げが最終的に生きる。じつはここまでのレースでボーダーラインが下がっていた。津田は4着で得点率5.83で予選17位。5着から4着へ着を上げたため、ギリギリひっかかったのである。
選手控室でそれがわかったのだろう。突然、歓声が上がった。その後の津田は写真のように喜び顔に変わった。
ベテラン勢が強い今シリーズだが、F2での予選突破や、G1未勝利での予選突破など、若手選手もトピックに事欠かない。準優勝戦のも楽しみである。
(TEXT/姫園 PHOTO/池上・中尾)