BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――沸き、沈み、そして沸き

 

10R 薩摩魂!
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 ピット離れで4号艇がぶっ飛んだ瞬間、声が出た。たまたまピットにいた中野次郎も「すげっ! 何ですか、あれ!」と目を丸くしている。赤岩善生が驚異のバナレでイン強奪! まさか赤岩があそこまで飛ぶとは、誰も想像していなかっただろう。もっとも、内の3艇がたまたま揃ってズッていた(鳴きが入った)という話もある。赤岩自身、ピット離れはいいほうだということだが、明日も同様の飛びが出るかはなんとも言えない。
 ともかく、赤岩はインを奪い、そして逃げ切った! これで赤岩はベスト18当確! ついに男・赤岩が9年ぶりに暮れの大一番に帰ってくる。
 赤岩もその状況は知っていたはずで、レース後はとにかく充実感にあふれていた。おめでとうとのこちらの言葉にも、まっすぐな目で「ありがとうございます」と力強い口調で返ってきた。もちろんこれがゴールではないわけだから、明日も「薩摩魂」を発揮するべく、緩めない戦いを見せてくれるだろう。

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 2着は毒島誠。単騎ガマシになりながら、しっかりと2着を獲り切った。いや、単騎ガマシは結果的に正解だったと言える。
 という質問を会見で投げられた毒島は、しかしこう言った。「単騎ガマシにならざるをえなかった。甘かったです」。結果オーライかもしれないが、あれは自分の失敗だ、ということだ。優出が嬉しくないわけはないが、内容についてはストイックに己と向き合う。このあたりにも、毒島の強さの秘密がありそうだ。
 6コースから内を締めるかたちになったことから、レース後には菊地孝平や池田浩二ら、戦った選手たちに頭も下げている。今年は圧倒的に主役を張ってきた毒島だが、決して浮かれるわけでもなく、態度を変えることもない。それもまたこの人の強さなのだと改めて感じた次第だ。

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 それにしても、悔しさしか残らなかっただろう、桐生順平には。インを奪われ、優出も逃す。準優1号艇として、最も悔いが残る敗れ方を喫してしまった。当然、レース後の表情は憮然たるものだったし、それから時間が経ったあとでも、陰鬱さをたたえる顔つきで過ごしていた。グランプリが当確になっているとか、その瞬間にはもう関係ないだろう。ただただ悔恨を噛み締め、桐生は今日の夜を過ごすことになるはずだ。なんとか切り替えて、明日を迎えてもらいたい。

11R ついに王者が……

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 1マーク、差し切るかと思われるほど、逃げた峰竜太に舳先を届かせた。結局は逃げ切られたものの、しかし2番手は確保できるかと思われた。しかし、足のいい片岡雅裕に追い詰められ、ついに逆転を許してしまう。優出ならグランプリ行きは当確だった。しかしその瞬間、グランプリ行きの可能性が相当に低くなってしまった。
 グランプリ行きが本当に消滅したとしても、いつかそういう日が来るのは必然。しかし、それが王者だけに、今日を終えて「さすがだな」などと語りつつ盃を傾けることになるのだとどこかで確信していた。王者というのは、そういう存在だ。だから、この段階で松井に当確が出ない、しかも相当な崖っぷちという状況が、なんとも信じがたい。それは他の選手も同様だったと思う(というより、ほとんどの者が王者がグランプリ行きを逃したと思ったはず)。エンジン吊りは、こちらの先入観を排除したとしても、少々重苦しく感じられた。
 木下翔太は同じレースを走り、石野貴之は12Rの展示。松井を出迎えたのは落合直子ら女子選手で、松井に問いかける者は誰もいない。松井は一人、この屈辱を噛み締めなければならなかった。いや、王者が大一番で敗れたとき、最後は一人で耐えている場面は何度も見てきた。その姿に王者の色気があった。松井は、大きく表情を崩したりはしなかった。ただ、落胆や悔恨を己の胸の内に抱え込んだ。それが王者の美学、なのだろうか。ただ、これはこちらの感情込みであるのは否定しないが、やはり寂寞を感じずにはいられなかった。

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 そんな松井に歩み寄ったのは、濱野谷憲吾だ。若い頃は新時代の旗手として、それからは艇界の中心を担う存在として、長く戦ってきた松井と濱野谷。11Rには関東勢がいなかったのは確かだが、大阪勢がその場にいない以上、今の松井に寄り添えるのはやはり濱野谷か、と思った。
 わずかではあるがグランプリ行きの可能性がある以上、王者は明日も王者の走りを見せる。いや、むしろ、そういう状況にこそ王者の矜持は発露されるはずだ。松井としては、とにかく特別選抜A戦を勝って、優勝戦の結果を待つしかない。
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 松井についてが長くなった。その松井を逆転してSG初優出を決めた片岡雅裕には大拍手だ! 出迎えた山川美由紀が嬉しそうに片岡の頭をポンポン。よくやったね! 大先輩の祝福は、初優出の喜びを増幅させたに違いない。

 優出を決めても、片岡らしさは何も変わらない。岡崎恭裕と話しているときに遭遇した片岡は、まん丸い目を穏やかに向けて、こちらの祝福にペコリ。どこか挙動不審にも見える動きなのだが(笑)、それが艇界のマーくんらしさなのだ。松井に競り勝ち、もしかしたら艇史をも動かしたかもしれないわけだが、そんな雰囲気が感じられないのもマーくんらしさ。明日も変わらぬ姿勢で初のファイナルに臨むことだろう。

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 勝ったのは峰竜太。昨日みたいにバランスを崩すような逃げにはならなかったが、でもちょっとターンが漏れてたような(笑)。まあ、それでも見事な逃げ切りである。明日は無事故完走で賞金ランク2位の白井英治を追い抜く。トライアル2nd初戦の1号艇を引き寄せるイン逃げであった。
 レース後は岡崎恭裕らと笑い合う場面もあった。あの1マークの話だろうか? それも含めて、とにかく明るい峰竜太であった。会見では、「(石野が4カドになったとして)スタートで前に出られたら止められないでしょうねえ」と率直に言っているあたりもなんだか明るい。それがかえって怖さを感じさせるのだが、どうか。

 

12R 日本最速男が王手!

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 ボートレースの歴代最高タイムは1分42秒2。これを叩き出したのは、馬場貴也である。新プロペラ制度が導入され、またモーターの仕様も変わって、そんなタイムはとても出なくなった。新型モーターになってからの最高タイムは1分44秒5だ。
 12Rの1着のタイムは1分44秒4。レコード出ました! ピットにはその旨を伝えるアナウンスが流れたりもしている。叩き出したのはもちろん、馬場貴也だ。さすが日本最速男! タイムを見た石野貴之が「やめてくれや~」と笑いかける。レコードと知った者たちの感嘆で、たしかにピットは沸いていた。
 8Rあたりに見かけた馬場は、ややカタくなっているかな、という印象もあった。まあ、それで当たり前。これは明日も同じだと思う。今日の馬場は、そのプレッシャーを完全に跳ねのけるレースを見せてくれた。「(先頭に立って)これでコケたら大恥だぞ、と思って慎重に走った」というプレッシャーは道中あったようだが(笑)、それでレコードタイムを出してしまうのだからさすが馬場だし、そしてモーターもやはり出てる! 
 馬場自身も節イチと認めている。また、選手生活で一番、だとも。馬場は、あのスーパーエース機と謳われた浜名湖47号機にも乗っているのである。それよりも出てる!
 明日は今日と同じことをするだけだ。昨日、「守田さんと黒須田さんを泣かせる」と言っていた馬場。今夜、ハンカチを洗濯しておきます。

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 2着は石野貴之。多くの選手が「馬場と石野が出ている」と言い、石野も「馬場くんと同じくらい」と言う。明日もまたエース機対決! しかも今度はインvsカド(枠なりなら)である。畠山も書いている通り、今節は何度もマッチアップしているが、最後の最後でも対戦することとなった。面白いぞ!
 今日は2着だが、石野は明日は2着などまったく考えない。「ピンロクでいきます」。会見でもはっきりそう言っている。優勝すれば、狙っていたベスト6でグランプリに行ける。それ以外の着順は、何着だろうと同じことなのだ。まあ、馬場とエース機同士でデッドヒートともなればかなり興奮するだろうし、それで馬場に先んじられたら2着になるわけだが(笑)、それはあくまで結果。SG優勝戦ともなれば多かれ少なかれそんなところはあるわけだが、もし負けてトライアル1st回りとなるなら、その初戦の枠番など考えない、ということなのだ(ちなみに準Vなら8位浮上で初戦1号艇の可能性が出てくる)。
 その潔さがまた、石野らしさである。馬場にとって最も脅威なのは、やっぱりこの男かもしれない。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)