例年、第2戦でファイナル当確が出るものだが(それこそ12人制の頃から)、今年は稀に見る大混戦。当確はゼロという状況だ。枠番抽選の前、選手代表の湯川浩司も関係者にその点を言及したほどで、平成最後のグランプリは異例な戦い模様となっている。
そうなった要因は、「とてつもなく悔いが大きい」存在が出たからだ。まずは11Rの毒島誠。道中3番手を走りながら、桐生順平に抜かれて4着。3着だったら当確が出ていたので、落とした1ポイントはとてつもなく大きい。2周2マークでキャビっている間に抜かれており、調整も含めて悔いは残らざるをえない。レース後の毒島は、とにかく憤っている表情。ヘルメットのシールド越しに見えた目が、怒り狂っていた。リプレイを見ているときにも、怖いくらいに顔をしかめてもいた。己を許せない敗戦、だったわけだ。
12Rではまず白井英治だ。1マークではしっかりと井口佳典を差し切ったのに、2マークで切り返してきた吉川元浩を交わそうとしたときにキャビって失速した。それでも2着は確保したわけだが、勝ち切っていたらやはり当確がついていたのだから、あまりに惜しい。記者会見でも、この2マークを悔やみまくった。曰く、住之江ではたまにああいうふうになる。自分のハンドルの入れ方がハマらないのか。それともセッティングに理由があるのか。力ない声で、答えを探るように言葉をつなぐ。1マークの差し切った瞬間や、2ndでも上位の足色について話が及んでも、結局「まあ、2コーナー、ですね……」と思いはそこに戻っていく。明日は二の轍を踏まないための、調整や試運転が続くことだろう。
白井に差された井口佳典は、呆然としていたと言ってもいい。差されたまではまだしも、なのだ。2着キープなら、暫定トップに立っての当確。白井がキャビって一度は追い抜いているのだが、2周1マークで白井に差し返される。さらには菊地孝平にも逆転され、まさかの4着敗退だ。戦前はもちろん、逃げ切って他の11人を引き離す計算をしていたはずだから、頭が真っ白になっても無理はない。控室に辿り着く目前、笠原亮が後ろを歩いているのに気づいた井口は、ぼそっと吐き捨てた。「何をやってんだ……」。これを明日に引きずらないでほしいものだが……。
峰竜太も痛恨のレースだったか。12Rは5着。3着以上なら当確が出ていたのだが、外から届かず、だった。レース後の峰は、明らかにいつもの峰ではなかった。苦笑いとともに引き上げることは多々ある。淡々と悔しさを噛み締めながら、ということもある。表情がカタくなっていることも少なくはない。そして、みなさんお馴染み、大レース後に号泣することも。しかし、今日の峰はハッキリと、顔を歪めたのだ。あの峰竜太が、内なる激しさを表に出した。おそらく初めて見た、と思う。昨日書いた「苦しむ覚悟」、それは普段の峰竜太を脱ぎ捨てようというものでもあった。それを、レース後の峰竜太に確かに見た。今節の峰は、明らかに違う一面を見せつけてくれているのだ。
勝ったのは馬場貴也と吉川元浩。トライアル1st初戦の1着コンビが、2ndでも揃って勝利をあげた。痺れたのは、勝ったあとの馬場の顔つきだ。気合が入りまくった、まるでレース前のような鋭さだったのだ。勝った歓喜というよりは、これで巻き返したというテンションが上がり切った様子。声をあげたりはしていなかったが、その雰囲気はあたかも鬨の声をあげているかのようにも見えた。
吉川は淡々としたもので、会見でも白井のミスがあっての勝利、という意味の言葉を述べている。しかしどうだろう、もし白井がキャビらなかったとしても先頭争いには持ち込めていたのではないか、という素晴らしい切り返しのターンだった。それを指摘されると、吉川は満足そうに「しっかりかかってはくれましたね」と返している。手応えを得る勝利ではあったのだ。これで初戦4着を巻き返して、ポイントは16点となった。当確ではないが、有利な位置まで上がってきたとは言える。明日は「守りに入らんと、攻めるレースをしたい」。今日と同じ3号艇での登場だから、明日は1マークで決める決意で臨むということだろう。
最後の枠番抽選。嗚呼、岡崎恭裕はまた6号艇を引いてしまった。緑の球が出た瞬間、岡崎はグランプリ戦士だけに与えられる黄金のベンチシートを強く抱きしめて、しばしよろめいていた。明日は前付けがあるだろうか……。岡崎は今日の記者会見で、「来年はどうするんですか?」と新聞記者さんたちを気遣っていた。来年のグランプリはナイター開催、記者さんたちは締切との戦いを強いられる。まあ、当欄の取材班については、単に仕事が終わるのが遅くなるだけなのだが、日ごろ同じ記者席で奮闘されている記者さんたちを見ている我々も心配になってしまうわけである。岡崎も同様でしたか。というわけで、そんな優しい岡崎の明日を、影ながら応援させていただく次第である。
その岡崎の次に引いた菊地孝平が、白を当てた! 思わずよしっ、と声が出て、歓喜の笑顔を爆発させた後、ガラポンになのか関係者に向けてなのか、深々とお辞儀をしたのだった。菊地はおそらく1着が必須となるだけに、これはデカい。
で、何をしているんでしょうか、守田俊介。そのグラサンは何なのよ。スポーツ報知をご愛読されている方は先刻ご承知の、グランプリ特別コラム「回っていいとも」。その小道具を装着して抽選に臨んだ。といっても、今日は6着だから残り球なんですけどね。残っていたのは青。勝負駆けに臨む枠番としては悪くない。
以上がB組(12R)。A組は、まず馬場貴也が黒を引いて、会場がややどよめいた。1stから馬場が引いてきたのは白、白、黒。今日も白を引いていたら大盛り上がりだったのだろうが、それでも引きはいい。流れはまだ馬場に向いているか。
それから白井が青、桐生が緑、井口が赤と引いて、笠原亮の番。笠原は初戦も5着だったので昨日も今日も5番手抽選なのだが、昨日も今日も白が残ってのガラポン。昨日はもうひとつが緑で、今日は黄色だが、「1号艇か外枠か」の抽選であることは変わらない。笠原は思わず「また2分の1!」と声をあげる。昨日は緑を引いて悲鳴を上げたが、今日は果たして……。「がぁぁぁぁぁぁっ!」。また白を引けなかったぁぁぁぁ、と昨日より大きな悲鳴が轟いた。笠原の1stからの抽選は、黄、緑、黄。馬場とは対照的ですな。もっとも本来はコース不問で勝てる男なので、まだ望みはあるはずだ。
最後に白が残ったのは、今日は中島孝平。淡々と引いて淡々とお約束の白を出した。中島は6着2本で、ファイナル行きは絶望的な立場。しかし何が起こるかわからないのがボートレースだし、何よりベスト6でここに来た男の意地を見せてほしい!
シリーズは勝負駆け。印象に残るレースをしたのは、まず前田将太だ。4カドまくり一撃で勝負駆け成功!「見せ場は作れましたね」なんて言っていたけど、見せ場どころか、だろう。興味深かったのは、「進入がうまくいきました」との言葉。6号艇の石野貴之が展示で動き、5号艇の齊藤仁もそれに合わせたように動いて、3号艇の前田は5カドだった。本番、まずは齊藤を押さえて4コースが獲れそうな態勢になり、さらに石野が展示以上に動いて2コースにまで入った。展示で主張していた2号艇の長田頼宗は、本番では3コース。ただし、展示で100m起こしだったものが、本番では30mほど浅い位置の起こしになっている。「長田さんはスタートわからないんじゃないか」と考えて、前田はスタートを踏み込んだ! ズバリ! たれ目で優しい顔つきをしているが、この男、勝負師なのである。準優は4号艇、枠なりなら4カドの可能性大。今日の再現なるか。
前田の次のレースでは、寺田祥も4カドまくり! う~ん、カドまくりはやっぱり気持ちいいですなあ。それが2本も立て続けに見られたのだから、今日はいい日だ(どっちも見当はずれの舟券買ってたけど)。レース後の寺田は満足そうにニコニコ。1号艇でまくられてしまった坪井康晴とレースを振り返る間も、笑みは絶えなかった。2着勝負を勝って成功させたのだから、嬉しいに決まっている。準優は5号艇。明日は何を見せてくれるだろうか。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)