BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――鳥肌もの!

 とにかく痺れる名勝負の連続だった。レース回顧は畠山に任せるが、エキサイティングなシーンの連続に、ピットで鳥肌が立ちっ放しだった。

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 レース後の各選手の様子もまた、鳥肌を収めてはくれなかった。3番手を走りながら抜かれて、硬い表情で控室へと走っていく笠原亮。結果的に1着でも到底届かなかったわけだが、今日は絶対に見せ場を作ると決意しながら逆転を喫したことへの憤りが見えた。静かに、ではあるが、うつむいて肩を落とす守田俊介。はっちゃけた様子を見せてもいた今節だが、本気で勝ちたいと願っての敗退はやはり悔しい。まさかの6着でファイナルから零れ落ちた吉川元浩。5着でよかったのだ、吉川は。疲れ切った表情を見せる吉川に、寄り添う湯川浩司もうまく声をかけられないでいるようだった。1号艇で敗れた中島孝平も同様に、顔には疲労感が見えていた。中島にとって、このグランプリは悔恨しか残らないものだったことだろう。

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 最も疲労感を激しく表現していたのは、桐生順平だった。11R、笠原を逆転したのは桐生である。トライアル2ndオール3着で21点。この時点では、もちろんファイナル行きの可能性は充分に残されていた。しかし、桐生は顔面蒼白でぐったりとしていた。たしかにボーダーは高くなりそうではあったが、絶望的な状況ではない。しかし、桐生からは絶望感があふれ出ていた。控室へと戻るスピードも、牛歩と表現したくなるほどとてつもなく遅い。悔しさで足が前に出ていかないかのようだ。控室の前に辿り着いたのは、真っ先に戻っていった笠原からゆうに5分以上は経っていたのではないか。もちろん、12Rの展示航走は終わっていた。敗退を覚悟していたかのような、前年度覇者のふるまい。控室へと消えていく背中には、せつなさが見えた。

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 馬場貴也は、絵に描いたように落胆していた。がっくりと肩を落とす、というのは、まさに今日の馬場の様子そのもの。辞書に「【落胆】2018年12月23日レース後の馬場」と載せたいくらいだ。完全に脱力して、足元がふらふらと定まらない。ヘルメット越しだから聞こえるはずはないのだが、溜息が聞こえてくるようにも思えた。最後の最後で、「今年後半では最強の勢い」が止まった格好。本当に溜息をついていたかもしれない。馬場はグランプリの厳しさを、道中は快調な運びを見せながら、ここで突きつけられた。これは確実に最高の栄養分となったはずである。なにより、初のグランプリで3勝って、スゴすぎでしょ。自信をつけ、同時に挫折も味わった馬場の来年は、間違いなく明るいだろう。

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 先に敗者のことから書いてしまった。ファイナルのベスト6に勝ち残った者たちは、もちろん尊い。そして、六人六様の表情が、またこちらを痺れさせる。
 ファイナル行きを決めたといっても、表情が冴えない者もいる。まずは白井英治。何度も先頭を追い詰めたものの、すんでのところで捉えられずに2着。その敗戦が、とにかく悔しかったのだろう。勝ち切れていない昨日、一昨日と同様に、硬い表情を見せていた。白井によれば、足は誰にも負けないが、まだ合わせ切れていないという。今日は朝から調整に励んだが、不満は解消し切れなかったようだ。そのことも含めての、不満はどうしても残る。リラックスはできているのに、頭の片隅に「乗りにくい」という言葉が常に浮かんでいる、とも言っていた。そりゃあ、不機嫌な表情にもなろうというものだ。

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 12Rでは5着に敗れた毒島誠も、やはりまるで納得できていない表情。納得できていないというより、何かを訝しんでいるかのような雰囲気でもあった。自分でも何が起こったのかわからない、というような。会見では、1マークの旋回について、「なんでああいう旋回をしたのか、不思議で仕方ない」と言っていた。2コースから差すつもりが、インの動きに連動したような格好になり、まくりに行ったのかとも見える航跡になった。レース後の毒島の脳裏に去来していたのも、そのシーンだったのか。それらについて、毒島は「ペラの調整不足」とも評価している。ということは、明日もペラ調整に没頭し、そしておそらく最後の最後まで粘って、いちばん最後にボートを展示ピットにつける男になるだろう。毒島といえば、時に“バナレ”で魅せる男。徹底的な調整の末に、それが引き出されたりしても不思議ではない。

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 インで敗れた菊地孝平は、その敗れたことに対して、納得ができるわけがない。実際、「逃げてファイナルに行きたかった」とハッキリ口にしている。勝ち残った安堵は、その悔しさのあとに浮かんでくるものだろう。ちなみに、菊地はこれで来年のクラシックからダービーまでのSGで優先出場権を得るわけだが、今年優勝ゼロの菊地にはつい先ほどまでクラシックの出場権がなく、優出を決めた瞬間に出場が決まった。会見の途中でそれに気づいて、「あ、それは嬉しい」と一瞬だけ顔をほころばせた。そうしたもろもろは、やはり悔恨を噛み締め、受け止めた後に生じるもの。逃げていたら、正反対の表情を見せてくれただろう。なお、菊地は6号艇で、昨年のファイナルも同じ枠番だった。そして前付けに動いた。明日はどうする? トライアル1st2走目で菊地について記したことを思い出してほしい。新田雄史の“ヤラズのヤリ”についてだ。菊地にもそれがある、かもしれない(“ヤリのヤラズ”も)。というか、菊地自身が会見で「展示と本番が同じとは限らないと言っておきます」と言ったわけだが。菊地の存在が、ファイナルをさらに痺れさせるレースにするだろう。

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 明るい表情だったのは、まず岡崎恭裕。毒島と肩を並べて引き上げてきたので、その顔つきの差がはっきりとしたコントラストになっていた。とにかくファイナルへ、と望んで、岡崎が選択したのはコースがどこになろうと前付け。結果6コースになったわけだが、今日は同じところからのスタート練習を何本も積んでいる。スタートには絶対の自信があったようだ。それが実を結んでのファイナル行き、3着でのものでも、これはしてやったり、であろう。

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 井口佳典もまた、してやったり、だったようだ。今日は伸び一本に特化した調整をしたという。つまり、まくり切ることしか考えていなかったのだ。それが見事にハマった。こんな気持ちのいい勝利、また勝負駆けはないだろう。朝ピットの記事に書いたとおり、今朝の井口は声もかけられないほどのピリピリした雰囲気だったわけだが、レース後はニッコリ! 会見によると、やはり今日は「集中しました」とのこと。それが勝利後にほどけて、会心の笑顔が出たわけだ。明朝もまた、いや、さらに集中し切った井口に会えるはず。それが楽しみで仕方がない。

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 そして、いつものスマイルが爆発したのは、もちろん峰竜太だ。会心の5コースまくり差し。隣で観戦していた笠原亮も声をあげた強烈な一撃。今節は苦しみながら、とも語っていた峰だが、あの勝ち方でテンションが上がらなければおかしい。ちなみに、これはポールポジションをもぎ取る勝利でもあったのだが、それを知ったのはレース後のこと。というか、「先頭を走りながら、あれ、これで俺を超える選手っているのかな、と考えたんですが、3周の間には僕では計算できませんでした(笑)」だって。実際は、超える選手はいるのかな、くらいの思考だったと思うのだが(笑)、得点状況に関係なく、ひたすら勝ちにいったレースだったということだ。
 明日は師弟で優勝戦に臨む。シリーズで山田康二が優出したのだ。山田は会見で「優勝して、また峰さんを泣かせたい」と笑った。前節の唐津ダイヤモンドカップで山田はGⅠ初優勝、そして峰が号泣。その再現を果たしたい、というわけだ。しかし峰は、「このところ人のために泣いてばっかりだったので、明日は僕が勝ってみんなを泣かせたい」とのこと。なるほど。でも、どうだろう。弟子のSG初制覇でレース前にもかかわらず泣くかもしれないし、何より、グランプリを勝ったらまず本人が泣くような気がするんだけど(笑)。今節の峰竜太は一味違うと僕は思っているが、レース後も一味違うのか(勝っても負けても)、注目するしかない。

 

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 シリーズの優勝戦もメンバーが出揃った。山田康二は、師匠より一足先に優出を決め、その師匠にエールを送った。足にも満足しているようだ。ペラに自信を持っているといい、それはオリジナルの形だとか。ペラ巧者で鳴らす師匠の形を受け継いでいるわけではないのだ。その自信は大一番でこそデカい。優勝戦は前付けもありそうだし、内が深いカド、とかだとGⅠ初VからのSG初V一気、もおおいにありうると思う。
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 中野次郎は、会見では「グラチャンを意識していた」と語っている。SG優出でグラチャンは出場権を確保できる。そして来年のグラチャンは、多摩川開催である。地元SGの切符を手にする優出だったのだ。そんな中野を山崎智也が祝福。そのとき、中野の顔はぱぁっと明るくなったのだった。

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 SGの権利といえば、石野貴之も来年のクラシック出場権を意識していたという。「シリーズ回りになってから、クラシックの権利だけを考えてました」とのこと。それはつまり、シリーズ優勝ということである。シリーズとはいえ、SG優勝勝負駆けが楽なわけがない。それをひたすら追い求めていたというのだから驚かされる。そして、本来のこの男は勝負駆けにめちゃくちゃ強い、のである。地元でそれをやってのけても、なにも驚くことではないだろう。

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 地元からは湯川浩司も優出。前付けに動いての2着奪取だ。レース後、湯川は他の5選手のところに自ら歩み寄り、深く深く頭を下げていた。前付けはもちろん正当な作戦。それでも、こうして礼を尽くすのが選手というものだ。明日ももちろん「動きたい」。グランプリもシリーズも、進入から熱いぞ!

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 新田雄史の言葉で印象的だったのは、「シリーズに落ちて開き直れた」というもの。新田は、シリーズに回って初戦にピストンリング4、ピストン2、シリンダーケースの交換、いわゆるセット交換で臨んでいる。昨日もリング交換があった。それが、優出へとつながった。トライアル1stの時点では、大きな整備をすることができなかったという。守りに入った、ということか。そして「最初から思い切りのいい整備をしておけばよかった」と思ったのだという。それだけグランプリの舞台というのは特別なのだと、シリーズに回った新田の言葉が実感させてくれる。そして、それを身をもって知った新田は、強さをまたひとつ得たと言えるだろう。伸びは劣勢だというから、明日も整備があるかも!?

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 シリーズのポールポジションは、平尾崇典が手にした。いつも通りに、勝っても飄々としたもので、SG優勝戦1号艇の歓喜を表に出すことはない。おそらく明日も、SG優勝戦1号艇の緊張を表に出すことはないんだろうな、と想像される。ただ、会見ではえらく饒舌だったなあ。それも、コミカルな発言で報道陣を笑わせっ放しだったのだ。それをすべて記すと相当な紙幅が必要になるし、平尾の雰囲気が活字だけで伝わるかが不安なので割愛させていただくのをお許しください。ただ、なんだかんだ言っても、気分の良さは伝わってくるのであった。足は超抜。それでいて、そのことは平尾にとってプレッシャーにもなっていないようだ。優勝したらどんな言葉を出してくれるのだろう、と想像すると楽しくなってくるのであります。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)