BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――優勝戦1号艇は5年前と……

●10R

 毒島誠がとにかく嬉しそうなのである。昨年はSG優出ゼロ。予選トップ通過もありながら、まさかの不振であった。一昨年にしても、グランプリシリーズは1号艇で優出したものの大敗。そもそもグランプリを走っていたわけだから、シリーズ回りは不本意だっただろう。シリーズを除けば、一昨年のクラシックまでさかのぼることになるSG優出。ようやく結果を出せたことに、毒島はまず安堵の表情を見せ、そして「嬉しーっ!」と言いながら、すべてのカメラマンのリクエストに応えていたのだった。
 そんな毒島に「審議してるぞー」とからかう馬場貴也と長田頼宗。そんな事実はございません(笑)。もう、仲良しなんだから~。1期違いの盟友とも呼べる馬場と長田だから、苦しむ毒島を間近で見てきたことだろう。だから、そんなふうにからかってともに喜んだというわけだ。明日はここまでの鬱憤を一気に晴らす優勝戦にしたいところだろう。

 2着は宮之原輝紀。SGファイナリストの最も若い登番を更新した! しかしながら、レースは冷や汗の連続。1マークでキャビり、なんとか2番手は確保したものの、2マークでは揉まれて後退。2周2マークを猛然とツケマイで攻めて2番手を取り返している。それでも3周1マークでまたキャビり、調整が合っていなかったのか、緊張でハンドルを間違えたのか。それでも優出を決めて、濱野谷憲吾ら先輩たちの祝福に微笑みを返している。長田とはグータッチ。やはり若いSG優出者が出ると周囲もテンションが上がるというものだ。

 一方、いったんは2番手浮上の柳生泰二は、最終日前日恒例のボート洗浄を終えると、控室に戻りながらハッキリと憤然たる表情を見せていた。掴みかけていた初のSG優出をあと一歩で逃したのだから、悔しさが高まるのは当然。どちらかというと人の良さそうな表情ばかりを見てきたので、その勝負師然とした敗戦後の様子にはちょっとした驚きもあった。そして、だからこそSGに駒を進められるのだという真理も見えたような気がした。

●11R

 桐生順平が地元SG優出を果たした。ただ、やはり2着での優出を望んでいたわけではないのだろう、快哉らしい快哉は聞こえなかった。むしろ首を傾げている様子が目立ち、結果に対してなのか、それとも明日を見据えての機力的な部分に対してなのか、不満げな表情を見せているのだった。また、抵抗する格好になった重成一人や山崎郡に対しては、申し訳なさそうに頭を下げている。絶対的に待望していたはずの戸田SGでの優出のはずが、笑顔が見られることがなかったというわけなのである。
 そう、桐生が望んでいるのは戸田SG優勝。優出はノルマに過ぎないということだろう。ならば勝って内枠で優出したかったというのが本音のはず。優出を決めた時点で満足するはずがないのである。

 山崎郡は伸びてまくりを放っていったが、重成と桐生に止められてキャビり失速。足は抜群だっただけに、消化不良の一戦となってしまった。レース後は重成と笑顔でレースを振り返っており、もちろんノーサイド。ただ、重成と別れるとやはり沈痛な表情も見せており、その悔しさは推しはかられた。

 1号艇を活かせなかった枝尾賢もまた、消化不良であろう。遠藤エミとの3番手競りにも敗れ、ただただ悔しい準優である。レース後の枝尾は表情がほとんどなかった。カタい表情というより、悔しさを押し隠すために表情を消していた、というのは気のせいだろうか。やはり1号艇での準優敗退のあと、というのは痛々しいものがある。

 勝ったのは前年度覇者だ。土屋智則! オープニングセレモニーで「土屋内閣、解散」と宣言していたはずが(本当は内閣は総辞職・笑)、続投の可能性が出てきたぞ。特に喜びを爆発させるところはなかったレース後だが、毒島とはやはり笑顔を交わしている。明日は優勝戦で直接対決。真っ向勝負で先輩を倒し、連覇を狙う一戦ということになる。

●12R

 予選トップ通過の吉川元浩が逃げ切って、優勝戦1号艇を手にした。レース後は、すぐに地上波のインタビューや公開勝利者インタビューなどに駆けつけたため、すぐに立ち去っているので、様子についてはまるで見ることができなかった。戸田SGは19年クラシック以来。そのとき、優勝戦1号艇だったのが吉川だ。戸田SG連続ポールポジションなのである。ちなみに言えば、その前の戸田SGは12年クラシック。優勝は1号艇で逃げ切った馬袋義則。兵庫支部が白カポックを着続け、勝ち続けているというわけだ。記者会見でそのことを問われた吉川は、「馬袋さん?」と言って大笑い。なぜだ(笑)。あのとき、兵庫支部の全員が飛び切りの笑顔を見せていたことを思い出す。明日も笑顔のVとなるのか。

 2着は平本真之。同支部で常滑軍団の先輩である池田浩二との競り合いを制しての優出だ。何度も書いているとおり、平本は感情を隠さない男。競り勝っての優出には、やはり笑顔がこぼれる。同じレースには同期の新田雄史もいたわけだが、その新田とも笑顔でレースを振り返り合っている。もっともその直前の新田は、悔しそうに顔をしかめていたのだが。

 それにしても、いったんは2番手を走った池田は悔しさしかないだろう。2周1マークでは同体からツケマイで平本に先行されている。さらには峰竜太に3番手逆転も食らった。何から何まで、悔いの残る一戦だ。ボートを降りた池田は、両手をギュッと握りしめた。競り合うと水をもらうので、グローブがずぶ濡れになるもの。その水分を絞り出すアクションで、よく見られるものではあるのだが、思わずそれが悔しさで拳を握りしめていると見えてしまった。もしかしたら本当にそんな思いがこめられていたかもしれない。

 最後に、峰竜太。ボート洗浄を真っ先に終えて控室へと踏み出した峰は、まだヘルメットをかぶったままだったのだが、その奥の目が激しく歪んでいた。こちらに気づいて、何か言葉をかけてきたのだが(「ひらもっちゃんがうまい」と聞こえた)、ヘルメットをかぶったままなのでハッキリとは聞き取れなかった。ただし、さらに目元が歪んで、眉間にハッキリとシワが寄っていた。負けて悔し泣きするところは何度も見た。悔しさを打ち晴らすように笑顔を見せることもよくあった。しかし、ここまで悔しさをあらわにする表情を見せる峰竜太は記憶にない。今節を通しての振る舞いも実はそうなのだが、峰のなかに何か変化が生まれている気がするのだが、どうだろう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)