1R、3番手争いに敗れた井口佳典が、荒い息で引き上げてくる。いったんは完全に3番手を獲り切りながら、齊藤仁のツケマイを浴びて5番手まで後退したのだから、険しい表情になるのは無理もない。4番の艇番が外されると、すぐに「試」のプレートがつけられた。1R1回乗り、何着であっても試運転をすることは決めていたに違いないが、道中で番手を下げていることが、その必死さを際立たせる。着替えたあとの井口は速攻で装着場に戻り、調整の準備を始めていた。
1R発売中には、池田浩二が入念に装着作業をしていた。雨は上がったが、湿度がバカ高い今日のピットは、とにかく蒸し暑い。気温が高くないのが救いだが、それでもただ立っているだけでも汗が垂れてくるほどだ。池田はできるだけ早くボートを着水するつもりなのだろう、すでに乗艇着を身に着けている。すなわち、長袖姿だ。この蒸し暑さはこたえるはずだが、池田はただ黙々と、丁寧に作業を続けるのだった。
整備室では、田村隆信が本体整備をしていた。12R1回乗り。なるほど、と思う。初日3着2本でも、足に不満はある。時間がある今日は、何はともあれ、その部分を解消しておきたい。2R発売中には整備を終えて、モーターをボートに装着。田村はそこからさらにリードバルブの調整に取り掛かった。やれる範囲の作業はすべてし尽す。そんな姿には迫力を感じた。
ふとボートリフトのほうに目を向けると、ペラを手に走っている選手が。守田俊介! 守田が係留所から駆け足でペラ調整所に向かう姿だった。いやー、守田の駆け足って、見たことあったかしらん。というか、守田をピットで見かける時間は他の選手に比べるとかなり少ない。泰然自若というか、余裕綽々というか、作業らしい作業をする姿をまるで見かけないこともあるのが守田である。いや、もちろん何もしてないわけではないが、急ぎ足で移動しているのは本当に珍しい、のである。まさにレアな光景。気合のあらわれ、だろうか。
さてさて、2R締切直前、装着場のど真ん中で松井繁と今垣光太郎が話し込んでいた。近畿地区の重鎮的存在、まあ当たり前の光景とも見えるわけだが、少なくとも数年前はふたりの絡みはあまり見られなかったものだ。別に仲が悪いとかではなく、松井の絡みといえば大阪勢や兵庫勢、服部幸男とのものが圧倒的に多かったものだ。最近、特に今垣のレース後に松井が寄り添って話し込んでいることがよくある。松井に関して言うと、昨日は瓜生正義と長い時間会話を交わしていた。今日は、エンジン吊りに向かうあいだ、今村豊と談笑していた。なんだか最近、松井と他地区の選手の絡みを見かけることが増えたなー、などとぼんやり思っているというわけなのである。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)
1R、好パワーで若林将が差し切り。レース後、差した山田祐也に駆け寄り、「山田くん、すみませんでした。ありがとうございました」と丁寧に頭を下げた。腰が低い好青年なのだ!