BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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尼崎BBTファイナル 極私的回顧

童顔ローンウルフ

12Rファイナル
①栗城 匠(東京)11
②福田宗平(大阪)17
③白石 健(兵庫)12
④峰 竜太(佐賀)13
瓜生正義(福岡)11
⑥徳増秀樹(静岡)20

 瓜生が5コースから一撃のまくり差しで頂点に立った。おめでとう!

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 スタート展示は徳増が動いて瓜生がブロックしての枠なりのオールスローだったが、いざ本番は徳増が作戦転換。そろり減速して、123/456の枠なり3対3で落ち着いた。もちろん、4カド峰の破壊力が倍増する進入隊形だ。
「なんか、ヤバそうやなぁ。クリキ~~ちゃんと逃げろよ~~、ミネ~~手ぇ抜いたってや~~♪」
「抜かん抜かん、ミネ君はいっつも全力やん」
 待機行動の間、スタンドの最前列に陣取ったカップルが楽しそうに話している。SGの興奮や緊張感とは違う、一般戦のファイナルらしい穏やかな空気。
 そんなほっこりの会話とは裏腹に、私はインの栗城だけを凝視していた。スタートを行ききれるか。行って逃げきれるか。逃げきってほしい。それだけを考えていた。

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 12秒針が回り、ジャスト100m起こしの栗城はしっかり踏み込んだ。2コースの福田がやや凹んだが、逃げても不思議のないスリット隊形だ。が、ほぼ同体だった4カドの峰だけが、スリットからにゅっと舳先を突き出した。そして昨日同様、覗いた瞬間にスロー勢を絞め込む。早くて速いモンスターアタック。
 その猛攻に対して身体を張ってブロックしたのが地元の白石だ。しっかり艇を合わせて受け止めきったようにも見えたが、こうと決めたら鞘を納める峰ではない。白石を叩き潰すようにしてインの栗城に襲い掛かり、今度は栗城が身を挺してその猛攻を阻んだ。マンモスを打ち倒すには、複数の人間の力が必要なのだ(笑)。

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 そして、そんな内コースの乱戦を横目に、峰にぴったり連動していた5コースの瓜生がえぐるようなマーク差しを捩じ込んでいた。バック中間ではインから粘った栗城にもまだまだ五分の勝機があるように見えたが、内から白石に舳先を突き刺され、外からは峰に絡まれ、2マークの手前でデビュー初Vの希望は潰えた。
 レース回顧はこれくらいにしておこう。栗城が勝てばレーサー人生を一変させるほどの大きな大きな勲章だったが、GPレーサーの瓜生にとってはひとつの勝ち星と年末のプレミアムGIの権利を得たに過ぎない。
 勝者としてフューチャーするつもりだった栗城匠のことを、負けたけれども少しだけ記しておこう。

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「そうそう、面白い子がいるんですよ」
 2016年3月、やまと学校118期の卒業式の前日、当時の主任教官が目を輝かせて話しはじめた。それは宮之原輝紀、板橋侑我という誰もが認めるエリート訓練生について話した直後だった。
「とにかく訓練での事故が多い子なんですけど、怖いもの知らずでターンも速い。事故パンじゃなければ、宮之原のリーグ勝率(8・12)に近い成績を残したかも」
 そして、こう続けた。
「でね、無口であんまり他の訓練生とも交わらない、一匹狼なんです」

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 一匹狼。
 私はその言葉にかなり惹かれつつ、そこでやっと訓練生の名前を教えてもらった。栗城匠。118期のやまとリーグ第1戦を今日と同じコンマ11で逃げきり優勝。その頃から宮之原と並ぶエリート候補と目されたが、その後は教官が言うように事故点に苦しみ最終リーグ勝率は6・65(十分に高い数字ではある)、やまとチャンプ決定戦も事故パンで除外された。

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 宮之原が太陽で、栗城は月。
 デビューしてほどなく、私は漠然とそんな印象を抱きはじめた。極めてスマートなレースっぷりで勝率を伸ばす宮之原に対し、栗城は鬼気迫るスタートと全速ターンで時に大穴を開けた。転覆や落水などの事故が多かったのは、もちろん栗城の方だった。それぞれまったく違うレーススタイルで同じように勝率を伸ばし、同時にA1昇格かと思っていた矢先、栗城がまたやらかしてしまう。
 2018年9月24日にフライング~同29日に平和島で2本目のフライング。
 1週間の間にF2持ちとなった栗城は、そこから長きに渡って5・6着を並べた。明らかにスタートを自重したそのレースっぷりはネットでも叩かれたし、期が明けてFが消えてからも栗城のレースはやや消極的に見えた。そんなここ1年の栗城だからこそ、今日はスタートを決めて欲しかったし、逃げきって欲しかった。

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 結果は道中で揉まれに揉まれて6着。非常に残念な結果だったが、トップタイのコンマ11は素直に讃えておきたい。そして、今節はすべて抽選の1号艇だったが、いつか必ずSGの舞台で「4日目からイン逃げ3連発V」という王道を歩める男だと確信している。今節はじめて栗城匠を知ったファンの方々も、「それくらいの資質がある男だ」と思ってもらって構いませんよ。今節もほぼほぼ笑わなかったこの艇界の一匹狼は、追っかけて損のない男だと確信を持ってお伝えしておきます!(photos/チャーリー池上、text/畠山)