やっぱり強いね、峰竜太。終わってみれば、そんな感想しか浮かんでこない。ピットで観戦していた岩崎芳美も、強烈なまくり差しが吉川元浩のふところを捉えた瞬間、溜息をついた。やっぱりすごいよねー。プロが見たって、そんな言葉になってしまうのだ。順当な結果、といった場合、本来は吉川が逃げ切った時にこそふさわしい表現のはずだが、峰のあのターンを見ると、3号艇でもそんな心持になってしまう。2020年も半分を終わったばかりだというのに、ここまで10V。とてつもない強さだ。
峰のまくり差しを目の当たりにしたからというわけでもないのだろうが、敗れた5人はSGの優勝戦後以上に淡々としていたように思う。1号艇で逃げられなかった吉川は腹の底に悔しさを溜めただろうが、それをあらわにはしていなかった。
地元で勝てなかった今垣光太郎と萩原秀人にしても同様。今垣は連覇を逃し、萩原は昨日に続いて峰に勝たれてしまったわけだが、大きく落胆する様子を見せたわけではなかった。今垣は地元の関係者と笑みを交わす場面も。心やすい顔なじみ同士、地元でのビッグレースを完走できた安堵のようなものもよぎっていたか。
外枠でなすすべなかった田村隆信と瓜生正義も、ごくごく平常な様子でモーター格納を終えている。田村はもちろん、次節=地元オーシャンに目を向けただろうし、瓜生も切り替えて前を向いたはずだ。
この淡々とした感じは、やはりGⅡということで、敗戦の傷はSGより軽いということをあらわしているのだろうか。と考えて、昨年の甲子園決勝のレポートを読み返してみた。1号艇で敗れた桐生順平の激しい悔しがり方、中田竜太の脱力感などが記されていて、そういえばそうだったと思い返す。優勝を獲りにいって敗れて、悔しくないはずがないのだ。ではなぜ、今日はここまで淡々としていたように見えたのか。峰の勝ちっぷりに脱帽だったのか。それとも、次こそは峰を倒して優勝をとひそかに燃えていたのか。あるいは……。今夜、酒とともに考えてみます。なお、表彰式に向かう峰を今垣が祝福している場面もあった。がっちり握手を交わす二人。昨年のレポートには、今垣を祝福する峰、という記述があった。今年は立場が逆になって、同じシーンが見られたわけだ。
これはGⅡだから、ということでいいのだと思うが、峰竜太はただただ笑顔で、涙は見せなかった。基本、SGとプレミアムGⅠ、あとは企画レースを取材している我々は、周年記念などを一節取材する機会はほとんどない。だから、これまで峰が表彰式の真ん中に立つのを見たのはSGだけで、過去2回のSG制覇はいつも涙まみれであった。満開の笑顔でピットに戻ってきて、表彰式に向かうのを見たのは、初めてではないか。泣き虫キャラでありつつ、同時にスマイルキャラでもある峰竜太だ。これもまた、彼らしい優勝後の様子、ということになる。悪くないっすね。
ひとつ気になったのは、今日はやけに強気な言葉を次々と口にしていた、ということだ。表彰式では「今年20回優勝したい」と言い、会見ではこれまでのレコードが野中和夫の年間16Vというのを受けて「17回はいきたい」と言い切り、「前人未踏と言われるような」とか「伝説に残るような」とか大言壮語もし、「自分が一番ですって誰にでも言えるように……松井(繁)さんにも言えるように」と自分がボートレースの看板を背負うことを宣言し、しかもそれをまじめな表情で語っているのである。まあ、わりと脊髄反射的に思いを口にする男ではあるが(笑)、それにしても今日は何か確信のようなものを持って語っていたと思う。
それだけ、今の峰竜太は強い手応えを得ているのではないか。自信が明瞭に形作られているのではないか。だとするなら、17Vや20Vなどの数字的な部分はともかくとして、そういう大仕事を予感させる強烈な峰竜太を、今年後半見せてくれるのではないか、と思った次第だ。峰竜太の強いところは山ほど見せられてきたが、今日は改めて唸らせられたというわけです。まあ、これまではこういうときにポカをやったりもしてきたので(笑)、気を付けてはほしいですけどね。ともあれ、甲子園制覇はまたひとつ、峰竜太という男の強さを満天下に示すものとなった。見事な優勝だった!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)