BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――笑顔、のち、ちょっと涙

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 峰竜太が差して突き抜けた瞬間、やっぱり峰か、と思った。予想で本命にしていたこともあるわけだが、それよりも「今の峰竜太なら1号艇じゃなくたってSGを優勝できる」と自然に思えたからだ。待望のSG制覇だった3年前のオーシャン、ついに頂点に立った一昨年のグランプリは、1号艇であったし、特別な勝利でもあったから、いろんな思いが渦巻いたものだが、今回は外枠からの勝利は普通にありうると思っていた(それもあって、ゆるぎなく本命にできたということもある)。なんだかんだで、これがようやく3回目のSG制覇、それでももはや峰竜太がSGを勝つことは特別なことでも何でもない。たぶん多くの人もそう感じているはずだ。

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 だから、あれだけ泣いていたSG初制覇、グランプリ制覇とはまるで違って、峰はスマイル全開であった。実は怪しいと思っている場面はあるのだが……、ともかく、峰はひたすら笑って、ひたすらアロハポーズを繰り出していた(着替えに戻る途中、わざわざこちらに振り返ってアロハしてくれたのは、正直嬉しかったです)。今後もきっと見ることができる、あるいは量産されるSG制覇でも、峰は満面の笑みでファンの前に、選手仲間の前に立つのだろう。泣き虫王子と言いながらも、その本領は実は笑顔である峰竜太だ。今日はまさに、新たなる峰竜太の端緒となった日、ということなのかもしれない。

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 笑顔うんぬんだけではない。峰は自分でも意識が変わったと言っている。これまでは、SG優勝は1号艇のときにのみチャンスである、くらいの感覚だったものが、どの枠番でも獲れるのだという考え方になってきたのだという。まさに直近の全国ボートレース甲子園を3号艇で優勝し、その思いはさらに強くなった、と。だから今日も、枠は4でも獲れると信じて集中し切って臨んだそうだ。そして、自分が最も勝てるであろう展開を想定し、意表を突かれたという茅原悠紀の3カドも逆に展開を呼び込むものと捉えて、峰いわく「理想の展開」で抜け出してみせた。SGを獲れなくて焦り考え込んだ峰竜太や、黄金のヘルメットをかぶって号泣した峰竜太は、もう過去のものだ。そんな峰がどこまで突っ走り、どこまで巨大な存在となるか。想像してみると、末恐ろしくなってくる。

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 敗者にも目を向けよう。チルト0度で臨み、3カドに引いて展開を作ったかたちの茅原悠紀は、もちろん準Vという結果に満足しているはずはないものの、ピットに戻った直後は「やるべきことはやった」という充実感が伝わってくる雰囲気ではあった。瓜生正義とレースを振り返る際には、笑顔も見えている。

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 瓜生も笑顔を返してはいるが、1号艇での敗戦では素直に笑うことなどできようはずもなかった。1マークで競るようなかたちとなった山口剛との会話では、やはりお互いに笑みも浮かびはしたものの、分かれた後にはふっと目元に悔しさが浮かんでいた。通算2000勝がお預けになったとかそんなことではなく、最大のチャンスをモノにできなかった自分を責めているようですらあった。

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 山口は、レース直後はカタい表情も見えたりしたが、どちらかというと茅原に近い雰囲気であった。1マークは攻め込もうとする茅原に抵抗して、自分が握る展開になっており、その局面自体に反省点はあったとしても、なすすべなくという負け方ではなかったのが救いではあったか。

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 逆に、枝尾賢は終始、表情がカタいレース後であった。着争いには持ち込んでいるが、うまく捌けなかった反省点ばかりが脳裏に渦巻いたか。それでも、池永太に健闘を称えられると、「ありがとう!」と笑みをこぼした。残念な結果ではあったが、これを大いなるきっかけにして、さらに強い枝尾賢をこれからも見せてほしい。

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 高野哲史については、レース前に面白い光景があった。選手たちが出走ピットに向かった後、残っていた仲間の選手たちは水面際の最前列に我先にと陣取った。ところが、高野の師匠・吉川元浩はその輪には加わろうともせず、ゆっくりゆっくりと対岸のビジョンが見える位置まで進んで、かなり後方から眺めていたのだ(魚谷智之は最前列に言行っている)。住之江オールスター優勝戦のときの篠崎元志など、本人よりも縁が深い仲間のほうがそわそわしているというケースはよく見るが、常に冷静に見える吉川がそんな状態になっていたのは驚きでもあった。かわいいかわいい愛弟子のSG初優出。6号艇といえども、落ち着いてみていられなかったということか。

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 高野自身は、師匠に出迎えられ、また同期の遠藤エミらにねぎらわれて、ただただ苦笑をこぼしていた。あまり緊張はなかったというが、SG優勝戦の壁というものを実感したことだろう。高野もまた、これを大いなるきっかけにしてほしい。来年のグラチャンの権利はこれで得たのだから、他のSGの場数も踏めるように頑張れ!

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 さて、笑顔笑顔だった峰竜太、実は優勝記者会見で泣いている。我々報道陣の前でだけ泣いたのだ。それは、古賀繁輝、安河内将の佐賀勢に対して言及した時のことだ。特に、1期違いで、若手のころから切磋琢磨してきた、盟友と言うべき古賀のことだ。
「今日は回転上がってるぞ、止めたほうがいいぞって、言ってくれて。正直、それは僕もわかってるんです。でも、そういうふうに言ってくれようと気を配って……」
 そう言って、泣き虫王子が顔を出したのだ(だから、ピットに凱旋した直後、古賀と抱き合ったときに泣いたのではないかと怪しんでいるのです)。今の峰竜太が泣くのは、こういう時だ。つまり、他人の胸の内に感じ入った時、だ。自分のことではない。自分が嬉しいとか悔しいとかではもう泣かない(いや、それも怪しいけど・笑)。自分のことを思ってくれる人のその思いを感じた時、峰の涙腺は崩壊する。以前BOATBoyでインタビューしたとき、もう10年も前のGⅠ初優勝のときに三井所尊春がものすごく気遣ってくれたことを思い出しながら、突然泣き出したことがあった。18年のチャレンジカップ優勝戦では、自分は準Vに敗れているのに、「馬場(貴也)さんがSG初優勝で、どんな思いでいるだろうと思ったら……」と号泣したこともあったな。峰の涙はそういうことなのである。

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 怪獣のように強くなっても、それを支えてくれる誰かがいるということを、峰竜太はよくわかっているのだ。というわけで、泣き虫王子降臨を見たいなら、近い将来にスタンドにお客さんが戻り、峰が優勝してステージに登場した時、大歓声&大涙で出迎えよう(嘘泣きでも可、じゃないかな・笑)。ファンが強い思いで自分を応援しているのだと改めて知ったら、きっと峰は泣くと思います(ということは、オールスターで優勝したらきっと泣くね)。今後さらに強くなるであろう峰竜太は、きっとそれで唯我独尊になったりはしないはずだ。仲間やファンの存在を、きっと忘れたりはしない。そうである限り、ボートレース界のナンバーワンに立ったとしても、峰はピープルズチャンプであり続ける。いつまでも人間臭く、笑顔も涙も似合う男であり続けるだろう。(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)