BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――スーパー勝負駆け2020、完結!

 グランプリ、クイーンズクライマックスの勝負駆けの様子を追っていこう。
●8R SG特別選抜B戦

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 勝負駆けは賞金ランク17位の前本泰和。1着ならGP自力当確とあって、6号艇ながら果敢に前付けに動く姿勢を見せている。ただ、誰も譲らずの枠なりオールスロー。前本の状況を知ってはいても、そこで緩めないのがトップレーサーなのだ。
 結果、前本は6着。この後の結果待ちで勝負駆けを終えることとなった。レース後の前本は脱力感はあるものの、やれることはやったという爽快感もわずかに漂ってはいた。苦笑交じりの笑顔が浮かんでいる時間も長かった。同じレースを戦った上平真二にしても、山口剛にしても、声をかけにくそうにしているようにも見えたが……。
 なお、前本は9R発売中には管理解除となり、広島支部の仲間とともに帰郷している。結果をどこで知ることになっただろうか……。

●9R GⅡ特別選抜戦

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 ここは、遠藤エミが完走でQC当確。勝負駆けとしてはまあ、ヒリヒリ感はほとんどない。そして完走して当確となったのだが……1号艇でまくられてしまっては、さすがに苦笑ばかりが浮かぶレース後であった。枠番的に、スッキリ勝って当確ランプを灯したかっただろう。遠藤を取り囲む仲間たちも、祝福というよりは敗戦を慰めているようにも見えた。まあ、何はともあれ、当確おめでとう。昨年のQCは優勝戦1号艇で敗退、その雪辱を果たせ!

●10R SG特別選抜A戦

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 原田幸哉と西山貴浩が勝負駆けだった。原田は1着勝負。レース前は相当に気合が入っている顔つきを見せていたが、思いむなしく4着敗戦。原田のGP行きは消えた。
 陸に上がった瞬間から、苦笑が顔に張り付いていた原田。それ以外の表情を知っていないかのように、エンジンを吊る間もカポックを脱ぐ間も、表情は変わらないのであった。悔しがる素振りを見せていないことが、逆に胸に渦巻く複雑な思いをあらわしているようにも見えた。

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 西山貴浩は6着大敗。だというのに、西山も仲間も大盛り上がり(笑)。そう、8Rの前本の結果を受けて、西山は完走でGP当確だったのだ。というわけで、無事完走で当確。わーいわーい。篠崎元志とグータッチを交わしていたが、6着でグータッチって初めて見た(笑)。

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 あのニッシーニャがグランプリ! ということで、福岡支部は特に、嬉しそうに西山を祝福していた。それに応えるかのように、西山ははしゃぐ。奇妙な振り付けの踊りを見せたり、「もう酒は呑まん!」と吠えたり。ウソつけ。絶対に今夜も呑むでしょ。エンターテイナーぶり、爆発なのだ。
 ただし、11R後に僕がおめでとうと声をかけると、ホッとしました、と言いつつ、ポツリとこうつぶやいた。「でも、今日の6等6等に落ち込んでるんです」。前半は1号艇6着だしね。取り繕ったのかもしれないけど、これもまた西山の本音。何はともあれ、初GPだ! 大暴れを見せろ!

●11R GⅡ優勝戦

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 徳増秀樹が肩を落としながら、ボートリフトの前に陣取った。長嶋万記を出迎えるためにやって来たわけだが、それはつらい出迎えともなっていた。
 長嶋は2着。逆転条件は優勝だったから、準Vでは意味がない。地元浜名湖のQCの舞台、長嶋は立つことがかなわなかった。
 ヘルメットをとった瞬間、絶望を感じているかのような、固まり切っている顔があらわれた。結局、静岡支部は皆無となったQC、地元女子エースとして責任も感じていたかもしれない。声をかけた徳増も、同じようにカタい表情となる。せつない瞬間であった。
 それでも長嶋は前を向く。「やれることはすべてやった」と報道陣に笑顔で応えてもいた。暮れの浜名湖をいろいろな角度から盛り上げまくって、来年への心機一転としてほしい。

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 優勝は寺田千恵だ。展開に恵まれた面があったのはもちろん否めないが、ではあの展開で誰もが冷静にターンマーク際を差していけるかといえば、そうではない。修羅場を山ほどくぐってきたテラッチが、大きなチャンスを的確に掴んだということだ。
 勝負駆け成功! これで、QC唯一の皆勤が死守されたことになる。そのことについて、「諦めていたわけではないが、あまり意識はしていなかった」と寺田はレース後に語った。それは達観であり、また哲学でもあろう。結果を出せば、付随してくるものがある。ただ結果を出すべく奮闘して、結果を出した。そして、9年連続QC出場を果たした。つまり、持てる実力をきっちり発揮したということである。ちなみに、テラッチは10年連続と勘違いしていたフシがある(笑)。それもまた、自然体で臨んだ証しと言えるかも。

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 で、寺田が優勝したことにより、11位で待機していた田口節子が12位に残ることになった(長嶋V、テラッチ準Vなら落選していた)。つまり、寺田はかわいい後輩をQCに連れていく役割も果たしたということだ。岡山支部は守屋美穂を含めて3人でティアラ獲りに臨むことになる。

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 勝負駆けとは関係ないが、その守屋美穂は、夏のレディースチャンピオンに続き、優勝戦1号艇で敗退してしまった。小野生奈にスリットでのぞかれ、まくりに抵抗しての大敗。これはさすがに悔しいばかりだろう。サバサバと振舞ってはいたが、本音はそうではなかったはずだ。ただ、これで守屋は平山智加を抜いて賞金ランク1位に立った。トライアル初戦1号艇という点では、1位も2位も変わりはないが、堂々たるトップ参戦に意味がないわけがない。QCでこそ、リベンジを果たしたい。

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 福岡勢、さらに原田幸哉が大きな拍手で出迎えていた。2着の岡崎恭裕だ。自力でグランプリの切符を掴むためには、まさに2着が必要だった。もちろん勝てていればいちばんよかったが、ともかく勝負駆け成功! というわけで、岡崎は仲間たちの拍手に力強いガッツポーズで応えている。

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 ピットに上がってからも、岡崎は実に上機嫌であった。揃ってGP行きを決めた西山と力強いグータッチ。原田には「これこそチャレンジってもんでしょう!」と胸を張った。言ってしまえば敗れた選手でありながら、ここまで高揚しているというのは、たしかにこれぞチャレンジカップではある。ともかく、見事な勝負駆けだった! GPでの戦いぶりが楽しみだ。

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 優勝条件だった久田敏之は、惜しかった! 2コースからの差しは、一瞬決まったようにも見えていたのだ。勝った毒島誠は、ピットに凱旋するや両手を水平に開いている。セーフ、ってやつだ。そう、久田に差されたかもという感覚を毒島も抱いていたわけだ。そして久田も「決まったと思ったけどなー」とエンジン吊りをヘルプした地元の大瀧明日香らに悔しがってみせた。久田にとって、今回はGP行きが現実感を伴った初めての機会だっただろう。差しが入ったように思えた点も含めて。この経験がきっと久田をさらに強くする。2021年は一皮むけた久田敏之が見られるかも。

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 同じく優勝条件の稲田浩二は、やはり準優が痛かった、ということになるだろうか。どんなときも飄々とした稲田で、レース後もそう見えなくはなかったが、体全体から伝わってくる空気がなんとも弱々しかった。もし1号艇で優勝戦を走っていたら……そんなタラレバになんの意味もないわけだが、それでもそんな想像をしてみたくなる。稲田自身はどうだろうか。

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 優勝は毒島誠! 先述の「セーフ」のポーズのとおり、危ない場面はたしかにあったが、快勝と言っていいだろう。今日もギリペラでレースに臨み、揺るぎなく走って、SG7度目の優勝を手にした。まさに堂々たる優勝! モーター返納を終えた久田や、松本晶恵に祝福されて、柔らかい笑顔が蒲郡のナイター光線でさらに輝いた。
 で、地元の磯部誠も大祝福。毒島も嬉しそうに応えると、磯部は言った。「これでやっと僕の誠より強くなりましたね」。イソベ誠をブスジマ誠が今日、ついに超えた!……………って、おいっ! ブスジマのほうが下になっていた瞬間すらないよ(笑)。イソベ君、ブスジマを超える誠になれるよう頑張れ! というのはともかく、そんなジョークに毒島は爽快な笑顔で応えていた。その表情に漂う貫禄。風格。今日の勝利こそ順当と呼ぶのだろう。そんなことを毒島の笑顔を見て考えたのだった。(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)