BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――マーくん、おめでとう!

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 12Rの締切15分前頃から、ピットからほぼ音が消えた。装着場の入口からは人の姿がいっさい見えない。報道陣も皆無で、職員の方はそれぞれ持ち場についていたとしても、装着場だけでいえば、そのとき人間は僕だけだった。なかなか気持ちよかった。

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 視界に、小柄な一人の男が入ってきた。片岡雅裕だ。片岡は待機室から歩み出て、ボートリフトの手前から水面を見つめた。最初は微動だにせず、あたかも彫像のような姿であったが、やがて入念なストレッチを始めた。アキレス腱を伸ばすような仕草で、右、左、右、左、右、左と延々と続いた。そのときも、視線は水面から離れることはなく、それが水面そのものなのか、空中線なのか、1マークなのか、吹き流しなのか、あるいはそのすべてなのかはわからなかったけれども、片岡の目は児島の水面をひたすら捉え続けていた。

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 やがて、片岡はカポックをかぶり、重量調整用のオレンジベストを巻き、そして白い勝負服を着用した。まさに戦いの準備。そしてふたたび、リフトの手前へ。また視線は水面に向けられている。結局、あわせて10分ほどそうしていた計算になるか。精神統一なのか。1マークのイメージトレーニングなのか。田村隆信の前付けを想定しての起こしのイメージを喚起していたのか。あるいはそのすべてなのか。そうしているうちに、競走会の方やレスキュー係の方、JLCのカメラなど人の姿は増えていき、そのなかでも片岡の集中は途切れずに水面を見つめていたが、ピットに締切5分前のアナウンスがかかって、ようやくほんの10歩ほど先の待機室へと消えていった。
 いざ、バトル!

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 前付けを受け止めながらトップスタートを決めて、先マイ逃走。まさに完勝である。片岡雅裕、バトルトーナメント制覇! その勝ちっぷりもあったのか、あるいはやはり基本的に一般戦という認識が強いのか、歓喜がピットに満ちることもなかったし、出迎える仲間たちも静かにボートリフトに集まっている。森高一真は、片岡が帰ってくる試運転係留所のほうに下りかけて、踏みとどまるようなかたちでリフトの前へ戻った。後輩はもうひとり、このファイナルに出ている。ウィニングランに向かう片岡よりも、そちら=中田元泰を出迎えることにしたようだった。

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 その中田も含め、敗れた選手たちは淡々とレース後の行動に移っている。まずカポック着脱所へと走って装備をほどき、走って整備室に戻って、先にモーター返納のヘルプとして動いている仲間たちに合流する。もちろん、いつも淡々柳沢一も、特に表情を変えずにカポック着脱所へ向かって駆け出している。

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 唯一、渡邉和将だけが、駆け出す前に目を堅く強く閉じて天を仰ぎ、がっくりとうなだれた。地元の砦となった責任感だろうか。一瞬だけだったが、大きく悔恨を表現し、重い足を前に出して、そして駆け出したのだった。準Vという結果に満足感はまるで得られていないようだった。

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 あと、前付けを敢行し2コースを奪った田村隆信は、こちらの顔を見て、少しだけ相好を崩した。及ばず3着に終わっているが、やれることはやったのだという爽快感のような思いが伝わってくるものだった。復活戦から駒を進めた6号艇として、できる仕事はきっちりやってのけたと思う。

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 そうしている間に、片岡雅裕はウィニングランへ。モニターで見る片岡は、やけにはしゃいでいた。踊るようなガッツポーズ、まったく止まることなく振られる右手。見ている者すべてを笑顔にするような、楽し気なウィニングランである。
 ピットに帰還し、係留所からの渡り橋を駆け上るとき、正面に池上カメラマンらがレンズを向けているのに片岡は気づいた。ここでもはしゃいでくれるのかな、と思ったら、ちょっと照れた感じで両手をあげる。これもまた片岡らしいな、と感じずにはいられない仕草である。

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 たとえば西山貴浩のように、はっちゃけた姿を積極的に繰り出すわけではない。一方で、今回ピットで話題になっていた「森高一真マスク」を、森高にも無断で(笑)作ってしまう茶目っ気もある。寡黙でまじめなように見えるときもあれば、胸に潜むしゃれた遊び心が発露されるときもある。個人的に2年前に北海道でのイベントで一緒になったこともある僕は、実に奥深いものがある男だと思っているのだ。

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 今年はボートレースクラシックにも参戦する片岡。この優勝で年末のBBCトーナメントの出場権も得た。年頭の華々しい優勝をきっかけとして、今年はさらなるステップアップ、あるいは大ブレイクを期待したい。森高先輩も「片岡にはもっと大きな舞台で活躍してほしい」と、香川支部の未来を託したいと願っているのだ。それがかなう2021年となることを僕も願いたい。
 とにかくマーくん、おめでとう! 今年はたくさんの大舞台でお会いしましょう!(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)