「クロちゃん、暑いの~。こう暑くちゃ、疲れもとれんわ~」
顔をしかめた森高一真が鬼のような猛暑を嘆く。長袖のウェアを着て、ボートに乗る時にはカポックと勝負服、さらにはグローブやヘルメットを着けるレーサーたち。アロハ一枚のこちらにしたって、二言目には「あちぃ~」と呟いているのだから、レーサーの体感温度はいかほどのものか。
とはいえ、森高もそんなふうに口走りつつ、実にテキパキと作業をこなし、あっという間に2R展示の準備を済ませてしまうのである。僕が口にする「暑い」と森高はじめレーサーが口にする「暑い」はレベルが違い過ぎる。というか、アロハ姿のおっさんはもうピットであちーあちーと言うのはやめにしよう。
なにしろ、小野生奈はこの猛暑の中でも、いつも通りきびきびとピットを駆けまわっているのである。やはり2R出走ということで忙しい時間帯であったのもたしかだが、暑さへの恨み言など口にすることなく、元気いっぱいの小野生奈を貫き通すのだからたいしたものだ。暑かろうが寒かろうが、この人のハツラツぶりは本当に変わらない。頭が下がる。
8R出走の片岡雅裕も精力的な動きを見せていた。ギアケースを調整し、試運転へと飛び出す。何周かして戻ってくると、ふたたびギアケース調整。その後はペラ調整と、まだ時間はそれなりに残されているにもかかわらず、早くから調整の手を止めようとはしていなかった。今日の勝負駆けは1着勝負。6号艇とかなり厳しくはあるが、まったく勝負を投げていない様子がよく伝わってくる。
1Rが終わり、戦った6人がピットに戻ってきた。みんな汗だく! 分厚い装備をまとって、しかも激しく動いたあとなのだから当然。待機行動プラス3周で何kgか減量できたんじゃないかと思えるほど、誰が汗にまみれている。あ、誰もが、と書いたが、市橋卓士は確認できなかった。ヘルメットをかぶったままエンジン吊りをして、控室へと戻っていったからだ。ピットに上がったらすぐにでもヘルメットを脱いでしまいたい、と想像するのだが、市橋はそうしなかった。エンジン吊りの間はかぶったままという選手は非常に多いが、戻り際もまだ脱がなかったのだから、我慢強い(?)。というわけで、表情も確認できなかったが、ようやく出た結果に安堵を浮かべていたものと想像する。
明らかに不機嫌だったのは仲谷颯仁。今日は3着4着=10点が必要な勝負駆けだが、1走目は5着に敗れてしまった。6号艇とはいえ、後半のことを考えれば中間着順が欲しかったのは当然。5Rは2号艇で2着と条件を厳しくしたことも、仲谷の顔を暗くしたわけである。地元中の地元で、結果を出さないわけにはいかない。その思いで、仲谷は暑さなどまるで感じないがごとく、後半5Rへの準備を始めたのだった。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)
みんなのヒデキ!