BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――ミスター躍動!

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「なんとなく仕事しましたよ~」
 モーター返納を終えて控室に戻る寺田千恵とすれ違ったので、1節間の奮闘をねぎらうと、さらりとそんな言葉を口にした。なんとなく、って(笑)。10Rは實森美祐の2コースまくりをしっかり見極めて、冷静な差し切り。海野ゆかりとワンツー決着で、団体ポイント=4点をもぎ取った。そして! この4点が実にデカかったのだ。
 9Rを終えて紅組19、白組24。もし10R=4点、11R=8点を白組が獲得していたら、12Rの時点で19vs36。優勝戦=12点を紅組が獲っても、白組には届かなかったのである。つまり、テラッチは希望をつないだ! しかも、結果的にはこれが団体優勝につながった! 畠山が掲載している貢献度がどうなっているかまだわからないが、寺田はなんとなくどころか裏MVPとも言える活躍を見せたと言っていい。しっかり仕事したんですよ、テラッチ!

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 11Rは、鈴谷一平が3カド! 特別選抜A戦と優勝戦は内外枠にチームが分かれるブロック番組ではない。そして、言うまでもなく賞金も高い(笑)。鈴谷はまずは自分が勝つために、2コースの大山千広はもちろん、インの同僚・宗行治哉にもプレッシャーをかけたのである。まずは天晴れと言っておきたい。

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 しかし、大山千広は鈴谷の3カドまくりを許さなかった。ブロックしながらの先まくり! まくり差しに切り替えた鈴谷をしりぞけて見事な先頭ゴールだ。展示から戻ってきた際、たまたま装着場にいた寺田にエールを送られていた大山だが、大先輩の檄にしっかりと応えたわけである。

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 そして、3番手以降の争いも熱かった。小芦るり華がバックではリードしたものの、2マークで畑田汰一に追いつかれ、それでも2周目ホームで畑田を叩こうと内に寄せていっている。小芦が3着なら、8点は紅組のもの。それも少しは頭にあっただろうか。しかし、2周1マークでは先行する鈴谷の艇尾に接触して失速、そこに宗行治哉が避けきれずに突っ込んで、エンスト失格となってしまった。着順的には、大山1着、小芦4着、岩崎芳美5着で、紅組が上回ったわけだが、小芦は不良航法の裁定。8点は白組に移ってしまったのだった。競技本部に呼ばれた小芦は反省しきりの雰囲気で、宗行にもチームにも迷惑をかけてしまったと重く受け止めているようだった。まあ、これはレースの綾というもの。皆に頭を下げたら、しっかりと切り替えてほしい。

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 さあ、紅組23、白組32で迎えた優勝戦。いや、ほんとにテラッチの貢献度は大で、10R白組だったらまさかの「不良航法で団体戦決着」になるところだったのだ。最後まで盛り上げたテラッチに拍手! というわけで優勝戦なのだが、結果としては7回目にして初めての事態が起こってしまっている。6号艇の片岡大地がフライングを切ってしまったのだ。他の着順はどうであれ、この時点でポイントは紅組に。優勝戦12点を足して、紅組35点となったのだった。団体優勝はレディース!
 レース後の片岡はやはり痛々しかった。優勝戦でのフライング。ただでさえ痛恨なのに、さらに団体優勝を手放す失着となってしまっているのだ。陸に上がった片岡はひたすら顔を歪ませており、装備をほどいて競技本部へと向かう際にも眉間にはシワが寄り、奥歯を噛みしめるような顔つきになっていた。もちろんFはいかんのではあるが、団体戦だからこそ痛みが重なってしまうわけで、だから僕は少し同情的にもなってしまった。片岡にはそれこそ小芦以上に、切り替えて前を向いてもらいたい。広島から千葉までは長い帰り道、その間に溜め息が消えていてほしいぞ。

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 こうした決着だったこともあって、ピットの空気はちょっと複雑なものになっていて、レディース勢も歓喜をあらわにはしていなかったのだが……いや、いた、ガッツポーズをしている人が。長嶋万記。エンジン吊りを終えてカポック着脱場に駆けていく途上、カメラを迎えたら、しっかりと右手を握って掲げるのであった(笑)。いや、僕はこれでいいと思うのだ。選手仲間としてフライングは他人ごとではなく、その胸中を思いやるのは当然でも、これは「紅白団体戦」という企画レースだ。しかも、これは最終決戦だ。気持ちはわかるが、長嶋のように振舞ってみせることこそ、このシリーズを盛り上げ、その意義を表現し、団体戦をひとつのジャンルとして成立させることだと確信する。万記ちゃん、エラい! もちろん、優勝戦はしっかり2着に入ってもいるのだから、大健闘である。長嶋は4回目の参戦で、うち3回がレディース優勝。やっぱりミス紅白戦だな。

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 そうそう、団体戦の表彰式で、今節の選手班長でもあった新田有理がやはり4回目の参戦で、これが3回目の団体優勝だと明かした。わっ、ぜんぜん見落としてました! そういえば2月の常滑で会っているし、昨年の丸亀、一昨年の津と、これで4回連続の出場だったんですね! 失礼しました。優出がないのでミスの称号は与えられませんが、紅白戦の申し娘、とは言っていいでしょうね。

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 そして、個人戦の優勝はミスター紅白戦! 吉川貴仁が第3回のびわこ大会に続いてこのシリーズ2度目の優勝を果たした。これがデビュー以来2度目の優勝、つまり優勝はすべてレディースvsルーキーズ! スゴすぎでしょ! もちろんこのシリーズ個人優勝2回は最多であります。

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 スタート展示はピット離れで遅れて、回り込んだがスローの4コース。そして本番はしっかりと離れで出て3コース死守からの3カド! びわこでの優勝も3カドだったが、あのときは2コースの山崎郡がまくっての最内差し。今回は豪快なまくり一撃で上田龍星を沈めた。吉川は完全にダッシュ仕様に仕上げたそうで、やはりバナレは不安ではあったが、もし遅れたらスローに回り込んで入ると腹を括っていた。つまり展示での遅れは少しも心の揺らぎをもたらすものではなかったのだ。そうであるなら、バナレでもって、3カドに引いた時点で吉川に流れは完全に傾いた。レースぶりも見事だったが、その前の戦略と覚悟が勝因の大きな部分を占めていたと言っても過言ではないだろう。

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 で、なぜか吉川が参戦(すべて優出)した大会は紅組が強く、4回中3回、紅組が団体優勝。この大会を追っかけている者としては、「ミスターが団体優勝にも大貢献」という事実が欲しいところ(笑)。もし次に参戦する機会があれば、3度目の優勝+団体優勝なんていいっすね。
 まあ、今日にしても吉川1着、上田3着で、本来は白組にポイントが入っているところ、つまり吉川には何の過失もないわけで、やはりミスター紅白戦の面目躍如ではある。そして、この大会の強さを他のシリーズでも思い切り表現してもらいたいとも願うわけである。まずは一日も早いA1復帰を。そして、おそらく次に会う機会になるはずの9月ヤングダービーでの大活躍を目の当たりにさせてほしい。もちろんミスター紅白戦は立派な称号であり個性、そこにさらに新たなものを積み上げていくのを楽しみにしよう。今日はおめでとう!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)