BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――戦いの後も

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 10Rでフライングが出てしまった。事もあろうに地元選手が。初日1Rのオープニングを飾って今日の前半も6号艇3着、リズムが良かったはずの山下友貴がまさかの勇み足。気合が空転してしまったということになるだろうか。
 一足先にピットに戻ってくる山下を、やはり一足先にリフトに集って出迎える静岡勢。やはり沈痛な雰囲気は否めない。そこにいた静岡勢は誰もが山下の胸中をわかっているから、なおさらだ。ヘルメットを脱いだ山下は、やや引きつった表情でエンジン吊り。三浦永理がぽんぽんと肩を叩くと、小さくうなずいて、競技本部に駆け出している。フライングした選手はピットに戻るや競技本部に向かうのが通例。その背中を眺めることは、いつだってこちらも痛々しさを覚えるものだ。静岡勢には彼女の分まで、と願わずにはいられない。

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 かなりのぞかれていながらも、冷静にインから先マイした平山智加が1着。恵まれなどではない、堂々たる逃げ切りだ。山川美由紀に声をかけられると、思わず笑顔が浮かぶ平山。平山もゼロ台を踏み込んでいただけに、ツキを感じているような、そんな笑みだった。ただ、山川が両手をボートに見立てて話し出すと、表情はさーっと真摯なものとなった。話の内容は当然聞こえてはこないのだが、スリットにまつわる会話だったか。いずれにしても、今日は連勝! 連覇に向けて波に乗る逃げ切りであったのは確かだ。

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 9Rは遠藤エミのカドまくりをがっちり受け止めた松本晶恵がそのまま押し切った。これはお見事! 今朝の整備の様子を前半記しているが、ピストンリング2本の交換でここに臨んだ。どうやらこれが当たったようで、超抜遠藤を押さえたこともあってか、なんとも充実感あふれるレース後なのであった。日またぎの連勝だから、気分も良かろう。

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 対照的だったのは11Rの池田浩美。1マークでは展開突いて2番手を走り、後続の追撃もしのいでいたのだが、2周2マーク、細川裕子が猛然と追い上げて先マイし、あっさりと2番手逆転。池田はさらに3番手競りにも敗れて、4着となってしまった。これは悔しい一番だなあ、とレースを見ながら思っていたのだが、レース後の池田はやはり脱力気味で、細川のレース後の挨拶には苦笑を返すのが精一杯であった。山下のF後だっただけに、いいところを見せたかったはずだが……。

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 それにしても、山川美由紀という人はやっぱり凄いね。8R、やっぱりピストン2本交換で臨んだ山川は、三浦永理の逃げ切りは許したものの2着。整備の成果を出したと思ったのだが、本人はまだ納得しない。着替えを終えると整備室に向かって、キャブレターの調整を始めたのだった。ここまでオール2連対も、もっともっと! 妥協することはない。この間のオーシャンカップで、西山貴浩が「このクラスの人は凄いっすわ。(レースが終わっても)仕事やめようとしないもん」と唸っていた。ニッシーニャだって同じなのだが、その執念だったり妥協のなさがSGクラスのキモという意味だろう。だとするなら山川美由紀も、SGから遠ざかってはいるものの、やはりそれに匹敵するレーサー魂を持っているということだ。A2級に落ちているとはいっても、その闘志に衰えなどない。

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 そして寺田千恵も同じく! 9R5着大敗後、また本体を割っていたのだ。もう作業の時間も残されていないなかで、素早く整備に取り掛かる。それは機力不足をあらわす動きとはいえ、その解消にもがく姿がやはりトップクラスのそれである。女子の若手選手たちは、山川や寺田(やここにはいないけど日高逸子)のこうした部分をしっかりと見習うべきなんでしょうね。「整備」という部分ではなく、そこに通底する「姿勢」という部分を。

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 とまあ、ベテランばかりに目が惹かれているわけですが、たとえば小野生奈も8R後に整備室に入って、今朝の山川と同じことをしていたり(ピストンの計測? 明日はピストン交換があるかも)、高田ひかるが懸命に調整に励んでいたりと、若い世代も頑張っている。大山千広は12R、セット交換での登場でしたね。実らず5着も、歴代女王としてのプライドも感じさせる、懸命な整備である。

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 中村桃佳はゲージ擦り。これももちろん、立派な“整備”である。相棒モーターに直接働きかけているというわけではないけれども。今日は5号艇3着。初戦を勝ってから、悪くない予選前半であった。機力には手応えがあったということだろうか、ゲージ擦りに励んでいるということは、戦えるだけの感触はあるものと思われる。産休を経ての女子ビッグ復帰。2月のレディースオールスターは不本意な結果だっただけに、ここで存在感を示したい。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)